第15話 敵艦隊再侵攻
工作艦ＡＫＡＳＩにより、特殊砲弾が作成される傍ら、Ｘ－７１の整備も順調に進んでいる。これまで、ノーガード戦法で燃料・推進剤タンクと反物質生成装置がむき出しだったのだが、周囲に薄くはあるが装甲板を取り付け、防御性能をある程度向上させた。装甲板は鏡面加工され、艦体が眩しく投光器の光を反射している。ただこの改装に伴い、加速性能と回頭性能は若干低下している。
改装工事完了後、ＵＲＡＳＩＭＡの桟橋でみなが見守る中、Ｘ－７１に正式な名称、ＴＵＫＵＢＡを与える命名式を取り行った。
「艦名をＴＵＫＵＢＡとする」
ただこれだけで式は終了した。それでもなんだか艦が一段力強くなったような気がしてくるのが不思議だ。
竜宮星系内の広域探査網はさらに強化されており、ＴＵＫＵＢＡ内のワンセブンはタイムラグを最小にデータを取得できるようになった。
竜宮星域には超空間ジャンプのジャンプイン、ジャンプアウトを行うのに都合のいい安定宙域が６カ所存在しているが、そのどれも星系の中心恒星竜宮より５天文単位以上の距離がある。
今から１０日後、敵の再侵攻があるとワンセブンは予測しており、ジャンプアウト予測地点は、この６カ所ある安定宙域のうちの２カ所。恒星竜宮からの距離が最も近い安定宙域ＳＳ０１と最も遠い安定宙域ＳＳ０６でＳＳ０１とＳＳ０６は恒星竜宮を挟んだ位置にある。
予想される敵の作戦は、まずＳＳ０６よりジャンプアウトした制宙艦隊がわが方の防衛艦隊戦力を誘い出してすりつぶす間に、時間差を置いてＳＳ０１よりジャンプアウトした惑星制圧部隊が惑星乙姫を攻略する作戦だそうだ。わが方の艦隊戦力について敵がどのような情報を持っているのかは不明だがワンセブンはそれすらも予想しているにちがいない。
ワンセブンが予測する、敵戦力は、
対艦打撃艦隊
巡洋戦艦２、重巡洋艦４、軽巡洋艦４、駆逐艦１６、補給艦２、雑役艦１
惑星侵攻艦隊
強襲揚陸艦２、軽巡洋艦２、駆逐艦８、補給艦２、雑役艦１
前回の攻略失敗の原因が不明のままの編成だったためかかなり強力な艦隊編成だがやっかいな攻撃機母艦は連れていないようだ。
なぜ攻撃機母艦が厄介なのかというと、攻撃機の数が多く、多数の攻撃機からの飽和攻撃を受けた場合、一撃でも攻撃機からの攻撃をＴＵＫＵＢＡが受ければＴＵＫＵＢＡは撃破されるからだ。
この敵艦隊に対し、こちら側の対応は、通常使用する安定宙域をＳＳ０２からＳＳ０５に制限し、敵がジャンプアウトしてくるであろうＳＳ０１、ＳＳ０６に対し浮遊小惑星に偽装したホーミング機雷を多数設置した。
これは、当初、敵が攻撃機母艦を繰り出して来る可能性があったため、攻撃機が発艦する前に母艦を撃破してしまうための措置だったのだが、今回は早期に敵が攻撃機母艦を繰り出して来る可能性は消えている。大華連邦の２隻ある攻撃機母艦はいずれも他方面に移動していることが判明したためだ。
そのため、ホーミング機雷はジャンプアウトしてすぐの敵を攻撃するためではなく、Ｘ－７１が撃ち漏らした敵が離脱をはかるため安定宙域に逃げ帰ってきた場合、残存艦を徹底的に殲滅するための措置で、基本は温存する予定である。
この、ホーミング機雷は、皇国航宙軍の給兵艦がなぜか竜宮星系に立ち寄り、積み荷のホーミング機雷をなぜか投棄していったものを拾得したものだ。半日遅れで目的地に到着した給兵艦にはもちろん積み荷は存在しなかったが書類上では積み荷は存在していた。世の中には不思議なことがあるものである。今後このような不思議現象が多発するかもしれない。
◇◇◇◇◇◇◇
前回の侵攻作戦において、不幸な運命の一弾が二度も重なった結果、ユーグに貸し出した強襲艦を二隻とも失い作戦がとん挫してしまった大華連邦だが、奇跡はそう続くわけはないと、再度の侵攻計画を進めた。
今回も前面にユーグを立てての作戦である。技量的にはかなり劣るユーグの将兵たちだが、数を揃えれば戦いには勝てる。もし計画に戦略レベルでの問題、つまり他の列強の干渉などが発生した場合、ユーグを切り捨てほっかむりするつもりだ。どのみち大華連邦との競合する産業が目障りとなってきているため切り捨てる予定のユーグだ。せいぜい役立ってもらわねば困る。
そして今、ユーグ領域内のとある星系の安定宙域に艦隊が集結している。辺境の一星系の防衛艦隊を撃破するには過剰ともいえる戦力だが、小出しにする必要があるわけではない。数は力だ。これから向かう星系には前回逃げ出した防衛艦隊はいまだ舞い戻っていないという。過剰戦力どころか完全に空振りになるかもしれないが、艦隊の連中にはいい訓練になるだろう。ただ懸念があるとすれば、前回、運命の一弾を二発も放った艦が目標星域にいまだにいるらしいということだが、たかだか一隻の艦がどれほど優秀であろうとも、滅多打ちにしてしまえばそれまでだ。
この安定宙域の隣の安定宙域内に惑星攻略部隊が問題なく集結完了したとの連絡を先ほど受けた。
定刻だ。
『それでは、諸君、一遊びしようではないか。全艦発進！』
艦隊の構成艦が、あらかじめ決められた順にジャンプインしていく。そして旗艦である巡洋戦艦『真世界』が浦島星系の再外縁安定宙域に向けジャンプインしていった。
