感性
「これでなんと読む?」
彼が手に持つのは紙の切れ端だった。
日に焼けて少し茶色く、彼が強く掴んでいるせいか、もともとなのか、酷くしわが寄っている。
そこには整った字で【絵みたいな空だな】と書かれていた。こんな簡単な文章の読みを聞いてくるということは普通には読まないのだろう。
「絵みたいな空だな、か?それとも空を"スカイ”と読むのかい?」
「君はもっとロマンティックに読めないのか。これを書いた人物はどんな空見ていたと思う?」
不機嫌そうに彼は言った。
私は首をひねり別の答えを探す。
「創作物のように違和感のある、でも美しい空だったんだろう。いや、その違和感は美しさ故か。ならば、『完成されたみたいな空だな』と読むに違いない。」
私は満足してに言ったが、彼は苦笑いだ。
「君にはきっとロマンティックが足りないのだな」
彼がそういうから、私はむっとして彼に聞き返した。
「そういう君なら、なんと読むんだい?」
「私か。私ならこう読む。『絵みたいな空だな』と。これを書いたやつが見てた空は世間なのさ。」
なぜか寂しそうに笑う彼に何も言えなかった。
あとになって、それを書いた人が彼の友人で、数日前に自殺していたことを知った。
私は野暮だから、彼にそのことを聞こうかと彼の家へ行った。でも彼には会えなかった。彼はその人のあとを追うように首を吊っていたのだ。
だから、これはただの妄想でしかないが、きっとあれは彼の友人が残した遺書だったのだろう。
なぜなら彼も紙切れを残して死んでいたから。
その紙切れには【完成されたみたいな空だな】と書かれていた。
ロマンティックの欠片もない私の言葉と、同じ言葉の羅列。
私はこれをなんと読めばいいのだろうか。