とある勇者の後日談
久しぶりにちょっと書いてみました
俺の名前は柊ヒカル!なんの変哲もないどこにでもいる普通の17歳の高校生!
それがある日、突然あらわれた謎の光に包まれて、気が付いたら謎の世界に召喚されたんだ!
召喚される時に神様の使いとかいう人に最強の剣と最強の能力をもらって、この世界にいる魔王を倒すという使命を受けた俺。
さっそくこの最強の力を使って行く先々の街や国での様々なトラブルを解決!
その旅の途中で仲間になった、人見知りだけど力は強い女戦士のセシル。ドジっ子だけど魔力は凄いリディア。普段は清楚で真面目だけど実はムッツリ激エロな僧侶ローザ。
この3人の美少女と共にハーレムパーティで魔王討伐に向かったんだ!
そんな魔王討伐の旅の中で、突然人見知りを直したい。と言い出したセシルは、3時間ごとに10回大きな声で幸せになるぞ!!と叫ぶ怪しげな宗教に入信。
リディアは、ドジっ子な部分も実は全て計算のうえで、その本性は魔王軍の幹部でありスパイだった事が判明。
さらにローザにいたってはどういうわけかリザードマンの子供を出産。
俺達のパーティーは解散となり、それからもなんやかんやあってすっかり人間不信になった俺は魔王討伐の旅を諦め、しばらくひきこもり生活を続けた。
ひきこもり生活が1年ほど続いたある日。魔王を討伐しようとしない俺に対してしびれを切らした神様サイドがこの世界に新しい勇者を召喚。
しかも、俺の時の反省を活かし、今度は新しい勇者に対してこの世界に転送する前から勇者としての心構えや立ち回りを教育し、さらに最強の能力や剣の正しい使い方をレクチャー。
そして、冒険のパートナーとして清く正しい心を持ちながらも勇者に対しての好感度がMAXに振り切れた優秀で従順な美少女の仲間を3人神様が派遣。
こうして、新たにこの世界を救うために召喚された新生勇者パーティーは、なんとこの世界に来てわずか9時間30分で魔王城を制圧。
最後の魔王城攻略作戦においては、同行した兵士が「どちらが魔王かわからない」と言うレベルでの超遠距離からの圧倒的火力での爆撃を開始。
わずか30分で魔王城は更地に。おそらく、魔王は勇者の顔も知らないままにこの世から消え去ったと思われる。
そして。
新しい勇者がこの世界にやってきたその瞬間から俺の中から最強の能力が消え、また最強の剣も消えてしまい、俺はただの普通の人となった。
特に勇者としての活動には未練が無かったものの、やはり寂しい気持ちが無かったと言えばウソになる。
あれから10年が過ぎた。
その後新しい勇者はこの世界で一番大きな国の王になり、自身の活躍とその生い立ちを描いた小説はベストセラーに。今では俺の愛読書となっている。
そして俺は、10年と少し前の過去の栄光を時々思い出したりしながら、この世界で見つけた仕事をこなし、仕事終わりには居酒屋で同僚と安酒を飲んで気晴らしをする日々だ。
なかなかに悪くない。
そんな生活が続いたある日。いつものように同僚と酒を飲み、少し飲み過ぎて気分が悪くなった俺は川辺で1人寝転んでいた。
目の前に広がるのは大きな夜空。もう、前の世界の空がどんなものだったのかは思い出せない。
思えば遠くに来たもんだ。人間、意外とどこでも生きていけるもんだな。
少し切ない気分になっていると、突然声をかけられた。
「ちょっと隣に座ってもいいかい?」
そう言って、寝転ぶ俺の横に座る女性。その声には聞き覚えがあった。
「…もしかして、リディアか?」
俺達のパーティで魔法使いだった、魔王軍の幹部のスパイ。魔王軍の幹部なのだから、当然あの魔王城が更地になった日に死んだと思っていた。
「その…。生きてたんだな」
10年以上会っていなかったのだ。なんと声をかけていいのかわからなかった。
「あの日の前日に、魔王様から城から逃げろと命令があってね。なんとか命拾いしたってわけさ」
そう言って苦笑いするリディア。
「私達魔族からしたら、そんなに悪い人でもなかったんだけどねぇ。まぁ、人間には散々悪さもしたから、滅ぼされても仕方ないんだけどね」
遠い目で空を見る。
「で、どうしてここに?俺に何か用か?」
「いやまぁ、用って事もないんだけどね。知っての通り、あの魔王城が滅ぼされた日に友人もほとんど死んじまって。魔族だから肩身も狭いしで色々旅をしてたら、偶然あんたがこの辺に住んでるってウワサを聞いてね。ちょっと顔でも見てやろうかなと思ってさ。」
あの日以来、各地で何か魔族とトラブルがあったという話はほとんど聞かなくなった。それはそうだろう。自分達の親玉がまったく何も出来ずに滅ぼされたのだ。逆らうバカはいない。
「そうか」
「元気そうでよかったよ。なんせ、私が言える事でもないんだけど、あんた達と組んでた時は最悪の旅だったからね」
大笑いするリディア。
「今だから笑えるけど当時はお前…。まぁ、もういいんだけど」
もう10年以上過ぎた。過去の事だ。
「それでね。ちょっと、話があるんだよ」
さっき用って事もない。と言ったはずなのに、実は何か言いたい事があるようだった。
「あのさ。今さら私がこんな事言えた義理じゃない。ってのはわかってるつもりなんだけどね。あの…。こうして、生き残った者同士、あの…。こう、仲良くやっていけたら…。って、思ってさ」
そう言って彼女は真っ赤な顔でうつむいてしまった。
元魔王軍の幹部にしては、妙に純情なところが少し可愛いなと思ってしまった。
「なんだよそれ」
ととりあえず言ってみたものの、悪い気はしなかった。相変わらず赤い顔でうつむく彼女の横顔を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
「よし!」
少し大きめの声でそう言って、俺は勢いよく立ち上がった。んーと思いっきり背を伸ばし、肺の奥まで呼吸すると、なんだか昨日までより空気が美味しく感じた。
「なんだかよくわかんないけどさ、とりあえず、今俺が住んでる家に来いよ。これからどうするか、そっから2人で考えていこうよ」
まだ座ったままの彼女に向かって手を伸ばす。すると、控えめに顔を上げながら相変わらず赤い顔で
「・・・うん」
と小さくうなずき、俺の手を取って立ち上がった。
もう勇者じゃなくなったけど。もう、魔王軍の幹部でもないけど。
もう、俺にとって異世界じゃなくなったこの世界で、俺の新しい物語が始まろうとしていた。