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十六夜堂奇譚  作者: 将月真琴
9/9

第九話

『もう二度と会いたくないけどね。』

 そこでテープが切れた。

 記者としてよく分からない記事ばかりを書いていた父さんが蒸発して約一週間後。諸々のことが一段落してから、部屋に放置されていた資料の数々──写真、ノート、ビデオカメラ、ボイスレコーダー──を、僕は整理するために中身を確認していた。

「ったく……、なんなんだよこれ……」と思わず口から愚痴がでるが、仕方のないことだろう。十六夜堂?カクリヨ?訳が分からん。

「オカルトにしちゃ、ベッタベタというかさぁ……」

 とりあえず目についた資料を幾つか見てみたり聞いてみたりしたが、よく分からない。特に2番目、最後に男に何が起きた?説明不足もここまで来れば笑いがでるわ。

 そして最後のビデオカメラの映像!肝心なところにノイズが入ってやがる。新品に見えたのにな……。音声だけじゃない、話していた女性の顔もぼやけていた。

 だが、それよりもだ。映像の中で、父さん(多分?)は店の中をいろいろ写していたが、その中に妙に心がざわつくものがあった。見た目はただの金色の懐中時計だった。画面に映ったのは少しの間で、撮影者は特に何とも思わなかったらしい。僕にとってはあんなにも引きつけられるものなのに、不思議なこともあるもんだ。まあ、人の価値観はそれぞれだろうと僕は勝手に結論を出した。


 数日後、僕は友人と共に隣町まで遊びに行った。しかし、ちょっとしたミスで僕は友人と離ればなれになってしまった。たまには一人でぶらつくのも悪くない、とあっちへふらふら、こっちへふらふらとしていると、看板の出ていない、小さな薄暗い店の前で大学生かもう少し上くらいの女性が猫と遊んでいるのが見えた。

「こんにちは、その猫、飼ってらっしゃるんですか?」

 緊張は普段からあまりしないが、このときも同様だった。否、いつも以上に緊張していなかった気さえする。

「いえ、ここら辺でよく見る猫ちゃんなんですよ。どこかの飼い猫なのか、それとも野良なのか。分からないけど、可愛いからいいんです。」そういうものなのか、となんとなく考えていると、「寄っていきますか?」と聞かれた。

「その店、貴方が経営を……?」悪いが、若すぎるようにみえる。誰か雇っている人は居ないのだろうか?

「はい。ここに人が来るなんて久しぶりなので、ちょっと舞い上がっちゃいました。あ、雑貨屋さんなんですよ?」彼女はそう言って、にこりと微笑んだ。


 店の中は薄暗く、昼間だとは思えないほどであった。……?どこかで見たことがあるような?どこだっけ?そういえばあのお姉さんも見たことあるような、無いような。記憶力はある方だと思ってたんだけど。

「ご自由に見てって下さいね。いろいろありますから」と、店の奥の方からお姉さんの声がした。

 特に見る当てもなく、ぐるっと店の中を回っていると、棚に置かれている懐中時計を見つけた。なんだかとても心がざわつく。あぁ、これは僕の求めていたものだ、根拠も何も無いのに、そう思えた。

「おや、それを見つけましたか。それは『必ず催眠をかけることの出来る懐中時計』です」

 なんだそりゃ、という僕の不信感が顔に出ていたのだろうか、彼女はにこりと笑って「本当ですよ?」と付け加えた。

 まぁ、いいか。見た目がいいのだ。ちょっと大人っぽいが、背伸びしたっていいだろう。

「すいません、これ下さい」奥のレジに持って行く。

「お代はいいですよ」と彼女は澄まして答えた。

「いや、でも……」

「いいんですよ。ふふ、懐かしいですね。少し前にも、ここに来た人がいて、その人は『時を超えることの出来る手帳』を手に入れたんです。まぁ、二度と会いたくないですが」ちょっと思い出したくないことを思い出すかのように、苦い顔をして彼女は言った。

「その時計、大事にして下さいね?あぁ、でも、催眠をかける際には注意することを忘れずに。人の想いを踏みにじり、ねじ曲げるようなものですから、使うには代償は必要です。代償に関しては私も使ったことがないので何とも言えませんが、ま、そこそこってやつでしょう。ではまた、いつかどこかで、会えるといいですね」

 そういった彼女の顔はなんだかとても、雪のようだった。

 僕は夢でも見てるかのような気持ちで店を出た。ちょっと歩いて、そういえば店の名前を聞いていなかったと振り返ると、路地だけが続いていて、もう店は見えなかった。



…………これが、私が13年前に体験した出来事です。ええ、これが十六夜堂関連の話なのかは分かりませんが、貴方が聞きたいとおっしゃるので……。しかし、何故このような話を聞きたいのですか?つまらないでしょう?

…………はぁ、好奇心、ですか。私にはちょっと分からないですねぇ……。記者さんは、そういったのがお好きなようですね……。ええ、ありがとうございました。では、またいつか。



「この出会いに、感謝します」

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