第八話
七月十五日(日)
──あら、いらっしゃい。珍しい。この店に人が来るなんてさ。
……。へぇ……、この店を探してきた、と?物好きだねぇ、あんた。いや、物好きって言うより……。そうだな……。うん、あんたはちょいとおかしいよ。ズレている。歪んでいる。
…………分からないのかい?ま、本人にとってはそれが「当たり前」なんだから仕方ないか。さて、この店は見ての通り雑貨屋さ。新しいものはあんましないけど、楽しんでいってくれ。いいのが見つかるといいね。
ん?私のお薦め?そんなもんないさ!あははっ、面白いこと言うんだねぇ!この店は全てが全て一期一会。出会うも出会えぬも、それはその人の運命みたいなもんなのさ。抗ったところで勝てやしない。でも流されるままってのも芸が無いから、泳ぎ方を工夫してやるのさ。少なくとも私はそうするのがいいんだと思っているよ。
……よく分からん、か。当たり前だろ、あんたを煙に巻こうとしてんのさ。ほれ、いいのを見つけなよ。でないと後悔するぜ?なーんてな。ここに入れるのは、ここを求めてる奴だけだからさ。そこら辺の奴らがホイホイと入れる場所じゃないんだよ。……だからこそあんたは異端なんだけどさ。
ん?確信が持てた?何についてのだい?この店について?そいつは聞きたいねぇ。え、わざわざ話すほどでもない?いやどうせ暇なんだ、聞かせてくれよ。
………………。ほう…………。…………間違ってないね。そうだ、「この店があるから人が来る」んじゃない。「人が居るからこの店がある」んだよ。ハハッ、あんたホントすげぇな。私は今、あんたが恐ろしい。
…………顔が怖ぇ?知らないよ。真面目な話だ。あんた、その考えをどこで思いついた?
…………ふぅん、伝聞だけ、か。あんた、頭の使い方間違えてるぜ。そうさ、この十六夜堂、人の目には映らねぇ。カクリヨ、っつっても分かんないよな。ま、なんだ、人の世じゃない、と思ってくれればいい。この店は人の想いによって此方に引き寄せられる。私はそういった時にここの番をする管理人さ。私は普通の人間……じゃないな。ま、でも、あんたと変わらない人間さ。少なくとも私はそう思っている。
…………今までもあんたみたいにこの店に何も求めることなく辿り着く奴は居た。でもな、そいつらはどこか普通じゃない奴らだった。なんて言うのかな、人間として生きるのに必要な『ナニカ』を失っているような奴らだった。でもあんたは違う。ただ人の話を聞いていただけ。それだけでここに辿り着きやがった。だから私はあんたが恐ろしい。
……………ふぅ、いや、もういい。真相が知りたいんだろ?教えてやるよ。…………は!?聞くことはない!?じゃなんでここまで来たんだよ!……はー、好奇心……。ホントあんた怖いわー……。あんた一体何者だよ……。記者……記者、ねぇ……。あんたにお似合いすぎて怖いぜ。
ん?なんか見つけた?どれどれ…………………………。うわー、またあんたにぴったりの奴見つけたわね……。そいつはね、「(ガガガガガガガ、ザザッ)」っていう奴なのよ。ほら、お代はいいからさっさと行きな。ま、それを使うつもりなら気をつけな。1回でも使えば、もう二度と戻れない。それでも使いたいってんだったら、止めるつもりは無いよ。
私はここの管理人。一期一会の出会いを祝福し、その後のことには知らんぷりをする無責任の体現者でなければならないのだからね。
じゃ、どうかお元気で。もう二度と会いたくないけどね。