第六話
四月八日(金)
──私は罪を犯しましたわ。でも、誰も私に罰を与えてはくれないのです。誰も、私を裁くことなど出来ないのですから。
貴方なら、分かっているのでしょう?ええ、ええ、私は入ることが出来ました、あの十六夜堂に。
私はあの店を訪れたくて訪れた人間です。
だって、そうでしょう?願いを叶えることが出来るなら、誰だって訪れたいはずですわ。
私はネットでその噂話を見つけて、休みになればいつまでも探しました。そして去年やっと見つけ、入ることが出来たのです。
……店には、アルバイトのような青年と、店主だという女性の二人でしたわ。ええ、よく覚えていますとも。
ふふ、ええそうよね。貴方も早く見たいのでしょう?私が手に入れたものを。
こちらですわ。はい、香水です。これは、「使っている間ならばどんなお願い事も聞いてもらえる香水」だそうですわ。代償?ああ、なにか言っていらしたけれど、忘れましたわ。だってそんなもの私には必要ありませんもの。
これを手に入れてから私の世界は大きく変わりましたわ。だって誰だって私の思うがままなんですもの。……別に私は楽がしたいのではありませんわ。単に私の気にくわない人をちょっと好きなようにできればいいんですもの。
まあ、勢い余って何人かは社会的に復帰できないようにして差し上げましたけど。
……罪悪感?無いわけではありませんわよ?実際、最初の何人かの時は酷いストレスで体調を崩しましたもの。
ですが今はそんなことありませんわ。だってそうでしょう?人間は慣れる生き物なのですわ。
今では人にお願いするのにこれがなくては出来ないんですもの。今さら罪悪感なんて、感じる余裕がありませんわ。
……罪と罰?私に罪はあっても、私に罰を与えることはできませんわ。だってみんな自分から奈落に落ちたんですもの。ええ、私は直接的に「破滅しろ」だなんて言いませんわ。そんな馬鹿げた物言い、私がすると思っていますの?
私はただ、「お願い」しているだけですもの。するかしないかは当人次第でしょう?……まだ代償などというものを気にしていらっしゃるんですか?馬鹿馬鹿しい。そんなもの気にしていたら使えなくなってしまうじゃないですか。私は私が好きなようにしたいのですわ。
もしもその結果として私が破滅するのなら、そのときも私の「お願い」でそんなもの回避してみせましょう。だって誰にも私は裁けないのですから。