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見える、景色 彼らは遊ぶ

作者: 三郷 柳

感覚を言葉に。

 風が走っていく。楽しそうに、子犬がじゃれつくように私の頬を撫ぜる。目の前の景色を見て欲しいと言わんばかりに前髪を揺らす。あぁ、綺麗だ。今日もよく見える。色も音も温度も匂いも、目に飛び込んでくる。ここにあるのは優しい刺激だけ。風が笑って落ち葉を巻き上げる。

 声なんて要らない。そんなものなくても聞こえる。風が笑うのも、木が慰めてくれるのも、秋桜が自慢げに揺れるのも。見ればわかる。目で聞こえる。だから私は一言も声を発さなくていい。何も言わなくても彼らはお構いなしにじゃれついてくる。後ろから駆け抜ける風はいたずらに私の背中を押すから、知らず足取りは軽くなる。さわさわとアカギは笑って、枝を伸ばすコバテイシは照れている。私がいつも眺めているから。花壇の秋桜は自分の美しさを知っていて、ゆらゆら揺れる。岩に咲く苔は瑞々しく、桜は人一倍マイペースに花を咲かせたり、葉桜だったり。私の友人たちは今日もみな美しい。

 私は人間だから、人間みたいに人と関わりを持っている。良い関係も悪い関係も。逃げられるものもあれば、逃がしてくれない関係だってある。頑張って向き合ってはみるけれど、いつも壊れそうになる。何回かは壊れてしまった。人間を抜け出したくなったとき、彼らに会いに行くのだ。無邪気に、いたずらに、楽しいことの塊のような彼らに。あぁ、優しい景色だ。楽しくて、綺麗で、心の中で縮こまる子供みたいな私を解してゆくから、うっかり涙が出る。泣いても何も変わらない、そんなことで泣くお前には何もできない、そう言われ続けて泣くことに罪悪感が生まれたけれど。いけないことのはずなのだけれど。こんなに優しい景色の中で泣くのなら、涙に映るのはきっと綺麗なものばかりなのだと思った。涙すら綺麗なものにしてくれるのではないかと思えた。

 私は幸せだ。私の目は綺麗な世界を映すことができる。彼らの声を見ることができる。人は私を変わり者というけれど、それでもいい。この美しい世界を、優しい景色を、楽しい彼らのことを私は知っているのだから。

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