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夏のホラー2017 裏野ドリームランド

最高の私の彼氏

作者: そらからり

取り急ぎ書いてみました

「……最後、こんなのでいいの?」

「ああ、だってここはこの遊園地で一番のホラースポットだって噂されてるんだぜ! ジェットコースターや観覧車には何もなかったけど、それはこのミラーハウスに引っ張られてできた噂だろうよ」


 思えば彼の一体どこを好きになってしまったのだろう。寝ても覚めても幽霊幽霊。怪奇現象ばかりを求め私のことは二の次どころか三の次以下。まともなデートなんか行ったこともなく行くところと言えば廃墟や廃病院、暗い洞窟くらいだ。

 大学に入学して数か月が経ったころに急にこの人に告白された時は舞い上がったなあ。学科でも隠れファンがいたらしくて後で睨まれたっけ。


 でも彼が欲しかったのは彼女ではなくてどうやら幽霊への生贄だったみたいだ。

 ここ数か月彼と一緒にいたから分かる。

 廃墟に行けば私一人を残してどこかへと行ってしまうし。

 廃病院では私を手術室に閉じ込めるし。

 洞窟なんか私一人で向こうまで行って帰って来いなんて言われてしまった。


「いざとなったら助けに行ったよ」


 なんて言っていたけど、その場にいない彼はどうやって私を助けるつもりだったんだろう。本当にどうしようもない男だ。





「なあ飛鳥! 裏野ドリームランドって知ってるか? あそこのアトラクションにはそれぞれで怪奇現象が起きるらしいぜ」

「いや、知らないけど……」

「じゃあ行こうぜ! 昨日、お前デートしたいって言ってただろ。遊園地ならデートに相応しいし」


 私が言ったデートってのはそんな奇々怪々がいるような廃園に行くことじゃなくてもっと煌びやかな遊園地のことだったんだけど……


「じゃあ明日な。日曜日だし暇だろ? 俺もバイトないし」


 そう言って彼は勝手に決めてそのまま帰ってしまった。

 私の返事なんか聞くまでもないかのように。


「はあ……いやになるわね。彼のことも、勢いに負けてる私も」


 彼と付き合いだしてから最後に彼氏彼女らしきことをしたのは何時のことだったか。記憶にないってことはもしかして一回もやってない……はあ。





 次の日になればしょうがないという気持ちになっていた。

 遊園地には違いないのだからこれが初デートだと思おう。精一杯のおめかしをして、一番可愛い服を着て行こう……いや、私に可愛い服は似合わないか。いつものパンツスタイルでいいか。遊園地なら動き回るだろうし。


「待たせた?」

「よう! 少し待ったけど別に大丈夫さ。お前はいつだって時間通りだからな。こんなの慣れっこだ」


 いつも時間通りなのはあなたとのデートをいまいち楽しみにできていないからよ。そう言いたい気持ちを押さえつけて改札口の方へと向かう。


「それで、どこまで乗るの?」

「ん? 具体的な場所までは言わなかったか。――県だよ。電車ならそうだな……2時間ってとこか」

「――県!? 隣のそのまた隣の県じゃない!」


 道理で待ち合わせの時間がやたらと早いはずだ。

 朝の7時集合って廃園にしては早すぎでしょって思っていたけど、まさかそこまで遠いとこに連れていかれるとは。さよなら私の休日。こんな無駄なイベントに使ってしまってごめんね。

 せめて電車で睡眠をとることでこの2時間を無駄にしないように――


「2時間もあるしな。その間に各アトラクションに纏わる噂を聞かせてやるよ」


 無駄にしてごめんよ電車での2時間。貴重な睡眠時間が……。





「――というわけだ」

「……」


 はっ!? いつの間にか寝てしまっていたようだ。幸い彼には気づかれていないはず。外を見るともう着きそうだ。

 さすがに電車の椅子じゃあ身体が痛い。んーと背伸びをして身体を伸ばすとすごく気持ちが良い。


「ほら、着いたぞ。見ろよ、飛鳥。最高の天気だぞ」

「最高って、どんよりと曇ってるじゃないの。ちょっと湿度も高いみたいだし」


 雨こそ降っていないがじめっとしているおかげで髪が張り付く嫌な感じがする。

 私の口からまた一つため息が零れる。


「ここから近いとこにあるの?」

「ああ、駅からはすぐだ。まずはジェットコースターからだ!」

「ええっと……事故が起こったとかいう?」


 微かな記憶を辿ると電車に乗った直後にそのような話をした気がする。

 実際に乗るわけじゃないよね?


「そうそう。さすがに廃園だから動かないけど見たり写真撮ったりできることは色々あるしな!」

「写真撮って何か写ったらちゃんと神社持っててね……」


 その後、廃園に忍び込み(柵を乗り越えさせられた。やっぱりパンツスタイルで良かった)、様々なアトラクションを見たり入ったり写真を撮ったりと罰当たりな行為を繰り返した。私のことなんかもう頭の中にはないようで、一人で先へ先へと行ってしまう。


「ちょ、待ってよ!」


 慌てて追いかける。何でこんなことしてるんだろ。


「ここだ! こここそが今日のメインディッシュ! 帰るときに人格が変わると言われるミラーハウス。さあ入って人格変えようぜ!」


 かなり残酷なことを笑顔で言ってくる私の彼氏。あれなのか? やっぱり私に不満があるとでも言うのか。


「それは私に人格変えろってことかな?」

「んー、それもいいけど、今回は俺も一緒に行くわ。人格が変わるってのがどういうものか俺も体験してみたいしな」

「あっそ、じゃあさっさと入ろ。天気も悪くなってきたみたいだし」

「うお、まじだ! 雨降りそうじゃん。テンションあっがるぅ~」


 雨でテンション上がるやつは珍しくもないだろうけど、おどろおどろしいからって理由ではしゃいでるのはこの男くらいだろうな。それはそうと、人格変えるって私の言葉にそれもいいって発現、忘れはしないぞ。


「へえ、思ったよりも明るいな」


 ミラーハウスの中は外の僅かな光を鏡が反射しているおかげで暗くはない。まあめちゃくちゃ明るいわけでもないので気を付けなくてはいけないが。


「気をつけてよね」

「うお!? 飛鳥、ここ鏡だぞ! いってぇー」

「言ってるそばから……」


 少しも落ち着くことはない。頭を押さえて彼は悶絶しているが私はそれを無視して先を進む。彼は私が先に進むと慌てて追いかけてくる。何だかさっきと逆の立場でちょっと楽しい。

 追い付いた彼が私の隣に並ぶ。


「でも、特に人格変わるとかはないけど……噂って具体的にはどういうのなの?」

「えー、また説明すんのかよ。ええっとだな、ミラーハウスから出てくるとまるで別人みたいに人が変わった。そんな人が何人かいたらしい。まるで中身が入れ替わったみたいにって」

「へえ。鏡の中の住人と入れ替わったて感じなのかな」

「お、分かってるじゃねえか。さすが俺の彼女。愛してるぜ!」

「っ!?」


 不覚にもドキッとさせられてしまった。やっぱり不意打ちにそういうの言われるのは弱いな。


「ありがと。私もあなたのこと、好きよ」

「おう!」


 二カッと彼は笑顔で答える。私の好きに対してなんとも思ってないのかな。


「飛鳥、ここは気をつけろよ。鏡が割れてて破片が散らばってる。転んだりでもしたら大怪我するぜ。ほら、俺の手に捕まってろ」

「う、うん」


 何だろ、このミラーハウスに入ってからやけに彼が優しい。まさか本当に入れ替わったわけじゃないだろうし。

 彼の手をつなぐと自分の顔が赤くなっているのが分かる。ここはミラーハウス。自分の顔なんてすぐにでも見れる。彼の顔はいたって平静。だけどそれが少しだけ心強く頼りになる。

 

「飛鳥、こっちは行き止まりだから戻ろう」

「飛鳥、ここ鏡だからぶつからないように」

「飛鳥、あっちから風が通って来てる。出口はもう少しだな」


 何だか今日の彼はやけに格好いい。顔は元々整っているのだ。少し見方と態度を変えれば途端に理想の彼氏になる。まあ、私はこの顔に騙されたようなものなんだけどね。出会ったときはちゃんとしてたし。


「さっきから君どうしたの? さっき頭打ってどこかおかしくなった?」

「ひでえな」


 そう言って彼は苦笑する。


「だって俺とこんなとこまで来てここまでやってくれる相手なんて飛鳥くらいなんだぜ? それをさっき改めて分かったんだ。ちょっと遅くなったけど、これ半年記念」


 そう言って渡されたのは少し高そうなネックレス。

 シルバーのチェーンに、小さめだけど精巧な三日月を模したペンダントが付いている。


「覚えててくれたの……!?」

「まあ、な。恥ずかしいからさっさとつけてくれよ」

「うん!」


 髪をかき上げてネックレスを首に回し、そこからつけるのに手間取っていると彼が後ろに回ってつけてくれる。


「その……似合ってるよ。まあ俺が選んだだけのことはあるしな!」

「ふふっ。ありがとうね。さあ出口に行こ! 外は晴れてるみたいだし」


 先ほどまでの曇り空が嘘のように空は晴れ渡っていた。

 雨の降る気配などない、まるで私の心を表しているかのようだ。


「このまま夕飯食べに行こうぜ。どこがいい? せっかくここまで来たんだし、名物でも食べてかないか?」

「お、いいね! さんせーい!」


 ミラーハウスを出て、遊園地の出口へと向かう。

 彼とはまだ手を繋いだまま。ずっと離さないつもりだ。彼は私の最高の彼氏なのだから。





『おい! 出してくれよ。飛鳥! 俺はこっちだ! そいつは偽物だ。鏡の中に俺は閉じ込められちまったんだ!』


 彼の声がミラーハウスの中から聞こえた気がしたけど……気のせいだよね。だって彼はここにいるし。


「そうだ飛鳥、来週はお前がデートの場所決めてくれよ。俺の行きたいとこばっかじゃお前も退屈だろうし」

「え、その……私は君とならどこでも良いけど。……じゃ、じゃあ私の家でデートしない?」

「それって……期待してもいいのか?」

「もう、バカッ! 言わせないでよ! 私からの半年記念、そこであげるね」


 きっと彼の良いところはたくさんあったのだろう。ただ私が気づかなかっただけ。

 ああ、ここに来てよかった。新たな彼の一面を知ることができたのだから。


『ぢぃぐじょぉぉぉぉぉ』





 卒業後、私は彼とめでたく結婚した。

 あの遊園地にはその後一回も行っていない。彼も怪奇現象とやらには飽きてしまったのかあの廃園でのデートの後からは一度も怪奇現象に関することを言わなくなった。

 今朝の新聞ではこんな記事が書かれていた。


『驚異のパワースポット! どんなに不和なカップルでも裏野ドリームランドを訪れれば帰りには必ず相思相愛になって帰ってこられる。そしてこれはカップルだけにとどまらず友人家族全ての関係を修復どころか一生の宝となるほどの絆に――』


 そういえば彼がミラーハウスを訪れる前に言っていたことは合っていたのかな。あの後大学で散々言われたし。まるで人が変わったかのように明るくなったよって。

 だってそうでしょ。最高の彼氏のいる人生なんてどう暗くなればいいのよ。

 今日は彼と……ううん、私の愛する旦那との久々のデート。

 場所は遊園地……とは言えずに病院だけどね。旦那と二人で行くならどこでもデートみたいなもの。


「さあ行こ、パパ。このお腹の子ももうすぐ産まれたいって待ってるよ」


ちゃんとホラーになったかな?


かなり恋愛チックになってしまったかも


最後のとこ、少しだけ付け足しました

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