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The Weakest  作者: 結佐
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1・最弱のスキル


20XX年。

東京は荒廃したガレキの街と化した。文明の終了とも言える光景は、見るものを絶望させるのに十分だった。

事の発端はゲームウィルスと呼ばれる特殊な因子。

この因子は突如として観測された彗星によってばら蒔かれ、人間にだけ感染した。

感染した因子はその個体に「1人1人異なった能力」を付与する物だった。


ゲームウィルスと名前が付けられたのは、まるで超人的な存在が遊ぶためにばらまいたかのような惨状を引き起こしたから、とされているが、実際のところどこの誰が名付けたのかは知らない。


因子が人間に付与した能力は、便宜上「スキル」と呼ばれるようになる。


スキルには様々なものがあり、いわゆるサイキックとか、魔法とか、そういう類に分類されるようなものであったり、はたまた、全く何の役にも立たないようなものまで多種多様だ。


この因子がばら蒔かれたその数時間後、東京は突如として様々な災害的事象に襲われ、一瞬にして滅亡した。


巨大な爆発を巻き起こすスキル、竜巻を発生させるスキル、槍の雨を降らせるスキル、雷を操るスキル…そういった天災的な威力を持つスキルは、ディザスタースキルと呼ばれ、さらにそのディザスタースキルを得ている人間たちは、個々に軍団を作り地球全土を巻き込んで陣取り合戦を始めた。


こうして地球は殺し合いの場へと発展する。


「…と、そういう訳だ。」


皺の多い顔を更にしかめて、線だらけの顔を晒しながら祖父は僕にそう教えてくれた。


「人間誰しもがスキルを得ている。因子は人間の中に保管され、遺伝子自体にも影響を及ぼしたようだ。結果、生まれてくるものもすべてなんらかのスキルを持っている。」


「じゃあ、僕のスキルってのは一体なんなんだ?」


僕は神子理修(かみこ おさむ)。神子家は埼玉に居を構えていたおかげか、件の東京インパクトとかいう名前の故事には出会わないで住んだらしく、結果として僕が生まれている。


「まずスキルには大まかに分けて3種類存在している。」


「3種類。」


「うむ。一つはアクティブスキル。これは発動型、もしくは起動型とも呼ばれている。スキルの発動条件をスキル保有者が満たした場合に発揮されるタイプだ。基本的にはスキル所有者の好きなタイミングで発動できるから、有用性が高い。多くのアクティブスキルは攻撃用とされているな。」


「なるほど。」


「さらに、パッシブスキル。これは常時発動型だ。使用者の意思でオンオフが出来るものもあれば、できないものもある。多くは一定範囲を対象とした知覚系か、スキル使用者に効果を及ぼすものになっている。」


「それで?」


「最後がディザスタースキル。特殊な能力の中でも特に特殊なのでスペシャルスキルとも呼ばれている。ディザスタースキルだけは遺伝するらしく、各軍団のトップがそのディザスタースキルを受け継いでいる。詳細は不明だが、少なくとも爆発を起こしたり竜巻を呼んだりするスキルがあるのは確認されている。出会ったら逃げろ。」


「そんで、僕のスキルはなんなんだって話。」


そう、僕にもスキルが備わっている。この世界に生きている人間なら全員が持っている。


「詳細は謎だが…恐らくパッシブに似たアクティブスキルといったところか。しかし…」


恐らく、僕の持っているスキルは数あるスキルの中でもかなりのレアスキルだ。

おそらく誰も似たようなスキルは持っていないし、史上初だと言っても過言ではない。


そしてその超がつくレアスキルの効果。


それは、「対象に、能力の適用された存在を「この世界で最も弱い存在」と誤認させる。」というものだった。


「どう足掻いても死にスキルよな、これ。」


「自分のスキルだろう。使い道はきっとあるとも。」


どうだかねぇ…。僕のスキルは言わば「相手に自分を最弱だと思わせる」スキル。割と本気で無意味まである。というか真面目な話、スキルを持っていないのと同義…。


今の世の中においては明らかに弱者。搾取される側の人間だ。


「それで?僕にこの最低なスキルを携えてあの戦場へと赴け、と?」


「左様。」


「なぁ、じいさんよ。それは僕に対する死刑宣告と受け取っていいのか?」


「…オサムよ。最弱とはすなわち無敵なのだ。どんなスキルであろうと、必ず何かの役に立つ。見てくれが悪いものでも、使いようによっては誰もが羨ましがる力を発揮するものはある。すなわち使い方次第なのだ。それを忘れるな。」


確かに、一理ある。じいさん…神子真次郎(かみこ しんじろう)の持つスキルは「見えない弾丸」を作るだけのスキルだ。ディザスタースキル相手に通用するようなスキルではない。が、それでもじいさんはこの日まで生き延び、その過程で一人のディザスタースキル所有者を倒している。


「…はぁ。しかしな、じいさん。…じいさん?」


と、僕が会話する相手のほうを見やると、じいさんの姿は消えていた。

昔から、こういうことがある。じいさんはスキルを二つ持っているんじゃないかと思うほどに、唐突に消える(・・・)


自身を透明化したり瞬間移動させるようなスキルだったらそれはもう普通に強いんじゃないだろうか。

しかし、僕の前ではどんな襲撃…あぁ、今の世の中はスキル保有者を狙って、表沙汰にならないように襲撃が起こったりする。当然僕の家もそういった襲撃…というか、じいさんが打ち立てた称号とそのときの金銭的補償を狙ってのものだが…そういう有事の時にも、じいさんは見えない弾丸とやらしか使っていない。


スキルが因子によって目覚めるのは「15歳のとき」だ。つまりそれまでは誰かの庇護下にあるしかない。まぁ、一応、ディザスタースキル保持者を軍団の代表とし、国家に似た仕組みが作られているこの世の中であるからして、一応学校というものは存在する。


そんなわけで15歳までは軍団の庇護下にはおかれるのだが、それ以降は実際のところ、軍団の中でのヒエラルキー上昇のため各家間での内戦が絶えないという背景もある。


さらにいえば各家間の内戦…これを旗奪戦(フラッグバトル)と呼ぶのだが、この旗奪戦に巻き込まれて死ぬ15歳以下の人間も存在する。


そんなわけで、旗奪戦なんて少しばかり形式ばった名前の割には本気で敵対勢力を殺しに行かなければならない。そんな状態なので透明化だったりのスキルを持っていれば使うはずだ…というのが僕の考えである。


ちなみに、自分のスキルを公開するなんてのは割りと自殺行為である。

対策を立てることができる、というのは大きいからだ。そんなわけで、ディザスタースキル保有者でさえ、顔も名前も各軍団の上位層の人間しか知らないし、スキルの詳しい内容なんかもおそらく当人たちくらいしか知らないだろう。


この世界においてのスキルとは、誰しもが持っている切り札のような存在だ。

…うん、僕のスキルはとんでもなく辛い物があるが…。


能力名:The Weakest/

能力ランク:Variable

能力効果:対象に、能力の適用された存在を「この世界で最も弱い存在」に誤認させる。

能力適用対象:能力保有者、及びスキル保有者が所有権を持つもの。

能力特殊効果:この能力は保有者の意思で発動と停止を自由に切り替えられる。


これだけである。

これはスキルに目覚めたときに件の学校で伝えられる文章であり、保有者以外にはわからない言語で伝えられる。いわゆる天啓のようなものだ。正直なところ、これがスキルのすべてといっても過言ではない。


と、この文章の気になる点はおそらく能力ランク、だろう。能力ランクというのは、下から順にNormal、More、Most、More than Most、Most Of Mostとなる。正直わかりづらいので、現代ではこの言い方を変え、C、B、A、S、SSとしている。


Variableなんてのは初めて聞いたランクだ。その件でじいさんに相談したのだが、じいさんにもわからなかったようである。


…そして明日は学校の終了日。

いわゆる卒業式が行われる時間だ。

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