透明な‘僕’
寒空の下、コンクリートの上に少年は座っていた。
「透明だ。僕にはなにもない」
少年は呟く。傍に佇む少女は、なにも言わない。ただ真っ直ぐに、雲の高い空を見つめていた。
二人の間を、秋風が通り抜ける。少年の柔らかな髪と少女のスカートが揺れる。
しばらくして、少女は身を翻し、二、三歩足を進める。そのまま、振り返らずに声をかける。
「冷えてきた、帰ろう」
少年は応えない。ただじっと、眼下に広がる街を眺めている。
「帰らないの」
少女は再び問うた。
「なんのために生きているのだろう」
少年の言葉が、日差しを浴びて輝く街に降り注いだ。それは決して大声はなかったのに、不思議と一つの響きを持って、静かに虚空へと広がっていったのだ。
「なに、死ぬの」
少女は事もなげに返す。
「そうだよ、死ぬんだよ。今まで僕はいったい何人の人を傷つけてきただろう。こんな僕が消えたところで、この世界に住む多くの人は気にも留めない。だけど、それで幸せになる人がいるなら、僕は死ぬべきだ」
「それであんたは、笑えるの」
少女は、振り向いた。振り向いて少年の小さな背中に言葉をぶつけた。
「あんたが死んでも、周りの何万人の人はなにも思わないかもしれない。けど、私は悲しいよ」
一際強い風が、二人に向かって吹き付ける。少女はおもわず顔をしかめ、スカートを押さえた。
「『自傷無色』っていう歌は、聞いたことあるかい」
少年は、空を見上げて言った。必死に何かを堪えるかのように、全身に力を込めながら。
「知らない。けどあんたの場合、‘自称’無色ね。だってこんなにも色があるのに、透明だなんておかしいじゃない」
少年は、静かに少女の言葉をかみしめていた。そして心のどこか大切なものを保管する場所にそっとしまった。
「馬鹿なこと言ってないで帰るよ」
少女の言葉に、少年は小さく頷き立ち上がる。よろよろと歩きながら、なんとか少女の元までたどり着く。少女は少年の小さな体をそっと支え、震える肩に額を乗せた。
「馬鹿だな、ほんと馬鹿」
コンクリートむき出しの屋上階。そこを寂しげな風が、やけに弱々しく吹き抜けていった。
揺られるものは、なにもない。
まったく執筆意欲がわかないにもかかわらず、歌をもとに小説が書きたいと思ったので勢いで形にしてみました。歌詞まんまです。
ふと、思ったのですが、こちらの『自傷無色』という曲、少し前にドはまりしてた曲なんですよね。でもどうしてか、もうあのころとても感動して何度もリピートしていた時の気持ちをもう思い出せないんですよ。そうして好きな曲はいずれ忘れさられ、また新たな曲が好きになる。不思議ですね。人生ってそんなことの繰り返し。
そう考えたら、好きだったという事実だけでも残さなければと思い小説にしてみました。書かないと、多分すぐに忘れてしまうから。でもこの曲は、純粋に書きたいとも思えるものでした。はまっていたのが一年以上前なのですが、今朝曲をイメージして小説書くぞと思い立った時に、これ以外にもいくつか曲は浮かんだのですが、『自傷無色』以外はすべて却下されたんですよね。だからやっぱり、自分にとっても特別な曲なんだと思います。
よければ検索すれば出てくると思うので、聞いてください。あと、問題があればこの小説はすぐに削除するので悪しからず……。
それでは、また。
2016年7月6日 春風 優華