おまけ①【愛し愛され無我夢中】
「朷音、もっとこっちに来てよ」
「燕网様、もう充分近寄っていると思うのですが」
「なんで敬語なの」
「それは仕える者だからです」
「つまんないの」
とある御家柄の一人娘、燕网。
産まれたときから自分の身体に不満を持っていた。
なぜなら、男なはずなのに、違うところばかり成長していくから。
筋肉もつきにくく、胸は膨らみ、身体は全体的に丸みを帯び、顔つきも。
「僕は男なのに」
「ですが、見た目はとても可愛らしいお嬢様です」
「朷音もおかしいと思う?僕のこと」
「そんなことはありません」
燕网は親の言う通りの格好をしていた。
髪は伸ばし背中あたりまであったし、ピンクや赤などの色の花柄の服を着ていた。
どんなに言っても、親は信じてくれなかった。
―僕は男の子だよ!
「朷音は男の子?」
「・・・はい」
朷音も、これぞ男、という格好をしていた。
髪が短くさっぱりしていて、胸板もがっちりとしていた。
目の前にいる主は女の子のはずなのに、男の子の心を持っている。
はっきりいって、燕网が好きだった。
ただ、立場的にも好きだのなんだの言えるものではなかったため、隠してはいる。
「男の子は、どんな身体をしてるの?」
「え?」
「僕知らないもん。僕の身体はおかしいから、どんどんお母様のようになってる。胸だって膨らんできたし、背も伸びないし」
「・・・・・・」
「ねえ朷音、見せてよ」
「いえ、それは」
「ダメなの?僕には見せたくないの?」
「そういうわけではなく」
「じゃあ見せて?僕にだけ見せてよ」
ぐいぐいと寄ってくるその綺麗な顔に、朷音は思わず唾を飲み込む。
そして、誤った判断を下してしまった。
その日、朷音は燕网に自分の身体を上から下まで見せたのだ。
すると、燕网は興味津津に触れてきた。
それだけならまだ我慢出来たのかもしれないが、ここで終わらなかった。
「じゃあ、僕のも見せてあげる」
「な、なにを」
反論する間もなく、燕网は着ていたものを全て脱ぎ捨ててしまった。
そこには、自分にはない美しい曲線と肌艶を持った燕网がいた。
「ねえ朷音」
「はい」
「もっと教えて。男の子って、どんなの?」
身体を重ねてきた燕网に抗う事も出来ず、二人は夜を過ごした。
そして、二人の間には愛が生まれた。
燕网を愛していた朷音は、自分が女になればいいのだと思いこみ、自分は女になりたいのだと暗示をかけた。
体格差だけで言えば、あきらかに朷音は男なのだが、心を無理矢理女にすることによって、燕网を手に入れられると錯覚した。
それが、朷音の心を変えるきっかけでもあった。
そんなとき、燕网に縁談の話がきた。
「僕嫌だよ」
燕网は、裸のまま朷音に抱きついていた。
「僕は男の子なのに、どうして男の子と結婚しなくちゃいけないの?」
「燕网様・・・」
「ずっと朷音と一緒に、こうしていたいよ」
がらっ・・・
急に、二人が密会していた部屋が開いた。
「何をしている!!!」
二人の関係を知ってしまった燕网の親は、なんとかして燕网の目を覚まさせようとした。
その為には、朷音が邪魔だった。
朷音を拷問にもかけ、家から出て行くか死ぬかを選択肢として与えた。
「ねえ、朷音はどこ?」
「燕网様、もうその名は忘れてくださいな。さあさ、綺麗な洋服に着替えましょうね。殿方はあなたを一目見ようと文を送ってくださったんですよ」
「朷音は?」
「私のお勧めといたしましては、やはり裕福で見栄えも良いあの殿方でしょうか」
「・・・・・・」
朷音の無事も確認出来ぬまま、燕网はまるで着せ替え人形のように次々に洋服を変えた。
身なりを綺麗にすると、燕网に会いに来ていた男に会う事になった。
「朷音・・・」
初めて会った男は、燕网を見てニヤニヤと笑い、こっちに来いと呼んだ。
大人しく傍によれば、肩を抱かれて耳元で囁かれる。
「俺と一緒になれば、気持ち良くさせてやれるよ」
「・・・!!!」
全身から鳥肌がたち、燕网は男を突き飛ばした。
男は怒ったが、燕网はそれどころではない。
部屋に飾ってあった花瓶を思い切り割ると、その破片で右目を切った。
「きゃああああああああ!!!!」
誰かの悲鳴が聞こえたが、知ったことではない。
朷音の映らない世界ならいらないと。
燕网はもう片方の目にも破片を突きつけた。
「燕网様!おやめ下さい!」
「綺麗なお顔に傷が!」
―知らない。見たくない。
―僕の世界には、朷音しかいないのに。
―朷音がいないなら、いらない。
―こんな目。
ぽた、ぽた、と滴る血は、自分の血のものだけではない。
燕网の手から花瓶の破片を奪った、朷音のものも混ざっている。
「朷音?」
「傷を塞ぎましょう。燕网様」
「敬語は止めてって言ったでしょ?」
「・・・一緒に逃げてくれる?」
「うん」
燕网の手を握ると、朷音は走りだした。
「大人しくして」
「だって、朷音がいる」
「いるよ」
嬉しそうにニヘラと笑う燕网に、朷音も笑みを零す。
燕网は腕を伸ばして朷音の髪に触れると、愛おしそうに唇に指を這わす。
「これからどうしよう」
「二人で生きて行くための術を身につけよう」
「術?」
「そう。例えば、戦うこととか」
「わかった。僕は朷音がいれば頑張れるよ」
それから、燕网は怪我をした右目に眼帯をつけ、髪もばっさりと切った。
朷音は女になるため、髪を伸ばし始めた。
「朷音、大好きだよ」
「・・・私も」
純粋な恋心は、愛し愛され無我夢中の、ちょっと歪んだ愛になった。




