リノライアの今後
「待て、待て待て。リノライア、ちょっと待て。」
「?どうしたんですか、おにいさま。」
首を小さく傾げて可愛らしいねぇ……じゃねぇよ。呑まれちゃだめだ
「何で俺がお兄様なんだ?」
「おにいさま、いいました。したしみやすいようによべと。」
「言ったなぁ。」
確かに言ったがそれがどうしてそうなって俺がお兄様になるんだ。
俺はエルフの妹なんていません!
「わたしなりにかんがえたけっか、"うるとるさま"いがいで、おなまえをおよびせずにしんじゅさまをうやまい、なおかつ、したしみやすくおよびするには"おにいさま"がいちばんだとおもいました。」
余計なこと言わなきゃよかったなぁ……でも見た目少女に様付け呼ばわりされるのは嫌だが、まだお兄様ならまぁ……いいか。
でもこのことユッテが知ったらどうなるんだろうなぁ、それにルーマル家の人たちも。
一見エルフ娘を攫ってお兄様と呼ばせて、歳が歳で、世界が世界なら警察に通報されるような案件だ。
うん、6歳の体に感謝。
そして、リノライアの事は時間が経ったら教えることにしよう。せめてヒロルドという存在を忘れるようになるまでは表に出さない方がいいよな。
「あー、分かった分かった。お前がそれでいいんならそう呼べよ。」
「ありがとう、ございます。おにいさま。」
そう言えば、リノライアの顔色はすっかり良くなったみたいだ。
一晩寝かしたのもあるが、俺特産の桃を食べさせて正解だったようだな。どれ、俺の袖で顔を拭いてやろう。
「んぁ、ありがとうございます。おにいさま。」
「おう、よきにはからえ。ところでリノライア。お前これからどうしたい?」
「これから、ですか?」
この顔は考えていなかった顔だな。無表情だが何となく分かるぞ。
しかし、この質問は彼女にとって重要なことだ。しっかりと理解してもらわねばな。
「そうだ、これからだ。リノライア、家族の元に戻りたいか?」
「かぞく。」
「あぁ、そうだ。ヒロルドに攫われたんだろ?故郷に戻りたいとは思わないのか?少し時間はかかるが、帰すことは出来ると思うぞ。」
俺の質問に対し、リノライアは首を横に振る。
ん?帰りたくないのか?何だ、家出でもしたのか?
「わたしの、こきょうは、なにかにおそわれて、もう、ありません。わたしは、ちちとははがひっしににがしてくれて、もりのそとにでたとき、ひろるどさまにひろわれました。」
「……そうか。」
少し、察しはしていた。
そもそもヒロルドにエルフを攫えたことが疑問だったんだ。あいつは見るからにただの商人で歴戦を潜り抜け、商人になったわけでもなさそうだった。
リノライアは見るからに小さいし、未成熟だ。そんな彼女を親が1人で森の外に出すなんて、相当な馬鹿親じゃない限り、ありえない。
ならば、リノライアが1人で森の外に出なければいけない状況が発生し、その結果ヒロルドに拾われたのだろう。
それが幸か不幸かと言われれば……分からん。
結果的に俺が確保したんだからラッキーだったという事にしておこう。
しかし、それはそれでだ。
「故郷が無いというのなら、お前はどうしたいんだ?」
「わたしは……。」
「言ってみろ。言ってみるだけならタダだ。俺は俺に出来る範囲のことは叶えてやるつもりだぞ?」
出来る範囲を俺が把握しきれていないのは内緒だ。俺の力がどれほどまで及ぶことが出来るのかはやって見なきゃわからないんだけどさ。
リノライアが再びポカンとした顔で思考を巡らせ、思いついたようで、願いを口にする。
「じゃあおそばにおかせてください。」
「……そんなことでいいのか?」
「はい。むしろありがたいです。しんじゅさまであられる、おにいさまのそばで、つかえることができるのはふぉれすとえるふとして、さいこうの、よろこびです。」
え、そうなの。
チラッとキイに視線をやると視線に気付いたのか、キイは苦笑いを浮かべ頷く。
ガチのようだ。心なしか、リノライアの緑色の目がキラキラと輝いているようにも見える。
まぁ、うん。俺のそばにいたい、ねぇ。
「まぁいいよ。別に困ることでもないからな。」
「ほんとうですか。」
「あぁ、ただしだ!基本リノライア、お前の行動範囲はこの花畑と森だ。特別何もない限り花畑にいろ。キイ、いいなっ!」
「は、はい!」
森の外に出て迷子になっちゃあ敵わんからな。花畑にはキイもいるし彼女に任せていれば大丈夫だろう。
「花畑の片隅に小屋を作ってやるから、夜もここで過ごせ。ただし、人が来たら見つからないように隠れるんだぞ!」
「わかりました。」
あとは……なんか伝えることは無いかな。
あぁ、そうだ。
「食料はお前がまともに闘えるくらい動けるようになるまで俺が持ってきてやる。好き嫌いの我儘は言わないでくれよ?」
「いいません。」
「俺はエルフの力の扱いとかよく分からん!だから魔法とかはキイに聞け!……いいか?キイ。」
「いーえ、私は大丈夫ですよ。寧ろありがたいくらいです。話し相手が増えるんですからこれくらいお安い御用です。」
そうか、俺はちょくちょく来るが、それまでキイは基本1人だもんな。話せるのも俺くらい……いや、アラン君たちもキイを認識できていたな。
とと、それは今は関係ないな。とにかく、キイの了承も得たし、とりあえずこんなところかな。
「何か生活に困ることがあったら言ってくれ。」
「ありがとうございます、おにいさま。ここにいさせていただけるだけでもじゅうぶんなのに、このごおんはしょうがいをかけておかえしします。」
歳不相応なまでにキッチリと礼をするリノライア。もしかして、ラディさんの前でやったぺこりとした礼は、気に入ってもらうようにわざとあざとくあいさつしたのだろうか。だとしたら恐ろしい子っ!
本当はその堅苦しすぎる口調もやめてほしいんだけどなぁ、ユッテ並みに染みついているんだろうか。
「じゃあこれからよろしくな。リノライア。」
「はい、よろしくおねがいします。おにいさま。」
こうして俺にフォレストエルフのリノライアという何とも奇妙な妹が出来てしまった。
にしても、リノライアの故郷を襲ったやつは何者なんだろうな。調べる気はないがちょっと気になるな。
ま、巡り会わせがあったら知るときが来るだろう。




