ミィツケタ
それは急に訪れた。
ラディさんがヒロルドに怒り、追い出し、レナさんに凄い剣幕で怒られた日の夜中だ。
本体の中で眠っている俺の頭の中にキイの声が響き渡った。
『ウルトル様!大変です、奴が、あの気配が出現しました!!』
我ながらその報告を聞いたのちの行動は早かった。
瞬時として夜の花畑に移動し、キンセイカの下で待つキイの所に向かった。
キイも目に見えて焦っているようだがウォーウルフレベルならキイでも対処できると思う。
この焦り様は何だ?
「キイ。あの気配が出たというのは本当だろうが、お前が対処できそうにない相手なのか?」
「いえ!あの気配を纏って現れたのはただのゴブリンなんです。しかし、偶然というべきでしょうか。私の気づかない間に森に入った人間がそれと遭遇しまして!」
「何、殺されでもしたか?」
この問いにキイはブンブンと頭を横に振り、否定を示す。
「逆です。ゴブリン程度だったことから人間が殺すことが出来ました。出来ましたが――」
この流れ、嫌な予感がするんだけど面倒くさい案件の予感がするんだけど
「そのゴブリンが纏っていた気配が人間の近くにいたエルフに乗り移ってしまったんです!そしてそのエルフが暴走して人間を皆殺しにしてしまいました」
「はぁ!?乗り移った!?」
いやまて、確かに乗り移ったというのも気になるところだが、もっと関心を持つべき場所があった。
人間の近くにいたエルフ?ヤバイ、今その人物に凄い心当たりあるんだけど。
まさかだと思うけど!
「おいキイ!そのエルフは小さいか!?」
「はい!」
「んでもって銀髪か!?」
「はい!」
「美人になりそうだが顔に生気ないか!?」
「美人に――!?え、え、は、ハイ!」
「あの子かぁーッ!」
美人云々に詰まったのは少々気になったが、朝方に来たエルフ娘と特徴が面白いぐらい合致している。
あの子で確定みたいだが、という事は彼女があの気配に憑りつかれてヒロルドを殺したのか?
しかしなんで森の中に……あぁ、花畑探すためか。もう無理だと思うけど
っと、そんなこと考えている場合じゃないな。魔物じゃない以上キイだと殺す以外出来なくなってしまうから俺を呼んだのだろう。
なら俺がすることは
「キイ、案内してくれ!」
「かしこまりました!」
俺は花畑から駆け出し脳内キイナビの指示に従いエルフ少女の元へ向かう。
あ、あの気配に近付いたのが何となく分かる。段々不快な気配が漂い始めて来たぞ。
『ウルトル様、その近くです!どうかご無事で!』
ご無事でってそういえば、エルフ少女はどうやってヒロルドを殺すことが出来たんだろうか。
冷静に考えたらエルフと言えど子供……実は何千年生きて来たロリBBAでしたって可能性も無きにしも非ずだ。
その力をもってすれば商人のヒロルドを殺すのだって容易い――んぇ!?
突如として俺の眼前に尖った何かが飛んできた。
顔を傾け回避し、通り過ぎたそれを確認し……え?これ、俺がやるような木の根っこの槍!?
視線を前に戻すとうわっ!一気に根の槍が飛んできた!
「くっそめんどくせぇ!」
驚きはしたものの一切の脅威ではない。俺目掛けて飛んでくる根の槍を俺は全て叩き落とし地面にめり込ませる。
森の魔物にこんなことは出来ない。トレントと呼ばれる木の魔物なら出来るかもしれないが、いないことは確認済みだ。
それに加え、槍が発射されたであろう場所から漂う気配。うん、これをやったのは
「おっしゃ、発見。」
朝会った時よりも生気を失ったような顔をしながらも薄ら笑いを浮かべる銀髪のエルフ少女の姿がそこにあった。
彼女の周りには触手のようにぐにゅぐにゅと木の根っこが蠢き、その先には苦悶の表情を浮かべながら絶命したヒロルドと軽装備された男、そして感染源であろうゴブリンの死体が刺さっていた。
おっと、エルフ少女と視線が合った。
彼女は会った当初の無表情ではなく愉快気に口角を上げて嗤う。人を不快にさせるような笑みを浮かべて、言った。
「ミィツケタ」
エルフ少女が手を振るうとそれに応えるように周りの植物の枝が、根が、葉が、武器と化し俺に襲い掛かってくる。
一部の隙間の無い攻撃。いやぁまさか俺が司る植物に攻撃されるなんてなぁビックリしたよ。
うん、まぁ
意味ねぇんだけどさ。
"元に戻れ"
喋った訳じゃない。ただ、念じただけだ。ちょっと怒り気味に念じたけどさ。
するとどうだ。枝も根も葉も、全て何事もなかったかのように元通りになっているじゃありませんか。
……案外出来るもんだな。
エルフ少女は目の前で起こったことが認識できず何度も手を振い、先程同様気を操ろうとしているのだろうが無意味だ。
だって俺が操られないように抑えてるんだもん。
「コノ……ッ!コノ……ッ!」
おーおー必死な表情で操ろうとして……可愛いな。
ずっと見ていよう。
『鬼畜ですか。』
頭の中に何か聞こえた気がするけど気のせいだよね。
ほら、頑張れ頑張れ。あとちょっとで操れるぞーあとちょっとがどれくらいかは知らんけど。
次第にエルフ少女の手や足が震えはじめ、立っているのもやっとという状態になって来た。
そりゃああんだけ力を行使していればねぇ……
「ウ……あ……。」
あ、気絶した。
んでもって黒い靄出てきてどっかに行こうと――いや、行かせんよ?
「おりゃ。」
どうすればいいのか分からないのでとりあえず両手で掴んでみると
霧散しちゃったよ。




