あの時起こったこと
あの瞬間間違いなくエトリはダークエルフを口内に入れたはずだ。
なのにいないといないという事はまぁ……つまりは
「すまん、アラキファ。逃がしたみたい。」
「そのようね……にしてもあんたまたでかいの作ったわね。片付けれるの?」
鳳凰作った神が何言ってるんだか。あれよりかは小さいと思うんだが。
しかしアラキファの言う通りこのままじゃ邪魔だな。
「エト、戻って。」
俺の声に反応すると、エトリの体が徐々に小さくなり一つの種粒と化した。
よしよし、これで持ち運びが可能になったな。
さて、こっちは終わったし王様だ。あんだけ叫んではいたものの汗びっしょりかいて気絶はしていないようだ。
凄い精神力だな……逆に気絶していれば楽だったとは思うんだが。
「ウルトル、あいつどう思う?」
「あいつの狙いはエルベルド王の命、だったのかな。試合に負けて勝負に勝ったとかほざいていたから王を戦えなくする……のが目的だったのかもな。」
「私か……。」
王が苦悶の表情を浮かべ左肩を見つめる。確かにこの状態じゃあろくに闘えないよな。バランスもとりづらくなるだろうし
ん?待てよ?
「エルベルド王、お聞きしたいのですが、何故王が左腕を切るようなことになったのですか?」
「その前にウルトル。いや、ウルトル殿聞きたいことがあるのですが。」
「え、いやなんですかエルベルド王……殿なんていきなりそんな。」
朝まで呼び捨てにしていたじゃん。何でいきなり殿呼ばわりなんて気持ち悪い。
しかも敬語なんてさ。そういうの目上の人に対して使う言葉じゃん。王様が使うもんじゃないよ。
「ウルトル殿は先ほどから我らの神、アラキファ様と仲がよろしいご様子……更に子供とは思えぬ力の使い方。もしかしてウルトル殿は」
あ、これバレてるな。あれだけ暴れれば流石に察せられるか。
アラキファにもため口で話していたんだもんなぁ
そのアラキファの方をちらっと見るとあちらも俺の視線に気付き無理無理と言いたげに手を振る。
ここまで来て隠すのももう無理だよな。しゃあない。
「あぁ、お察しの通りだよ。俺は神樹。神樹のウルトルだよ。あ、これここだけの話だから。間違っても他の人には言わないでな。」
フォルクスとあのそっくりコンビにはばれちゃっているんだったな。炎神様のお言葉のせいで。あとであいつらにも黙っておくように言っておこう。
さて、王と王子のの反応はというと
「そうでしたか……いや、子供がウォーウルフから逃げられるとは、とても思わなかったので。これで合点がいきましたぞ。」
「え、騙されてなかったの?」
「ウォーウルフの件は信じておりました。ですがその後が……現実味に欠けると言いますか。」
「あ、いいんで。もういいんで。それよりも……」
アッカン、あんだけ自信もってばれてないとか思っていた自分が恥ずかしくて仕方ない。
フォローするエルベルド王のやさしさが辛い。
おう、王子。お前はお前で何固まっているんだよ。あれか、今まで自分が愚民愚民言ってた相手が実は神と言い出して脳がそれを理解していないのか。
あれは放っておこう。
「おっと、申し訳ない。この腕の話でしたな……あれは数刻前。私はあの愚息とともに、ここで暴動の報告を聞いておりました。騎士は皆暴動に向かわせていたため、ここには我々と報告するものしか存在しませんでした。」
「ん?フォルクスはどうしたんだ?ユッテ達を連れて城に戻ったんじゃないのか?」
街に移動する際フォルクスにユッテとフィーレさんの事を頼んだつもりだ。もしかして彼もダークエルフの味方でユッテ達をどこかにとか!?
「フォルクスはルーマル家の者たちの決して傍を離れず守護を任せております。」
……変に深読みしちゃった。ごめんフォルクス疑っちゃって。
でも彼一人に任せてあるという事は実力は折り紙付きなのかな?なら安心だ。
「話を続けますぞ。民衆を連れてきたという騎士の報告を受けておりました。その騎士が見せたいものがあると私の手に指輪を乗せたのです。」
あ、もしかしてそれって
「木の指輪か?」
「察しがついておりましたか。いかにも……その指輪を見てみると心がざわついたのです。何というか不快に思えるような……怪しげに思い指輪を手放そうとしました。しかし――手がいう事を聞かんかったのです。」
恐らくその時点で呪いが移っていたんだろう。そしてそいつの正体こそダークエルフなのだろう。あいつ幻覚か何かで化けることが出来るみたいだからな。
「私はそこで感じたのです。私の手が、腕が何かに汚染されているような感覚を。まるで毒、いやそれよりも性質が悪いものと思いました。このままでは不味い、そう思い私は自らの腕を」
切断したという事か。その判断は正解だっただろう。
もし切断しなかったら今頃エルベルド王は呪いによって暴徒と同じように暴れはじめていただろう。
そして近くにいた王子も感染する可能性もあった、と。
「ちなみにその腕は?」
「あちらに。」
エルベルド王が残った右手が指差す先には本当に左腕が転がっておりその周りには例の気配が憑りついていた。
うーん、グロいなぁ。これは子供には見せちゃいけないだろう。
俺は耐性あるし王子は放心しているけど普段バッサバッサ魔物狩っているんだから平気だろうけど。
「浄化したところであれ腕にくっつくの?」
「無理よ。すぐに引っ付けて高位の回復魔法使ってなら付くかもしれないけれど私そんなの使えないし何より火傷で止血したから断面ももうぐちゃぐちゃよ?」
「神様だからって何でもできるわけじゃないのな。」
「神だって万能じゃないのよ?あなただって私のような強い焔出せないじゃない。」
確かにそうだが――神様だとしても得意不得意は人それぞれなんだな。いや、神それぞれなんだな。
エトリに対する文章を追加しました




