アラキファ
「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
一撃攻撃が通ったことで鳳凰がついに俺に攻撃を仕掛け始める。
嘴を突き立てたり翼の炎を俺目掛け飛ばしたりと単純なものばかりだがそれでも紙一重で避ける結果となる。
まず速いし攻撃一度当たってみたらそれなりに痛かったし、コイツの攻撃、凄い熱いんだよ。
攻撃そのものを避けることが出来てもそれに纏っている焔まで避けられないことがしばしばある。
これが曲者で段々と俺の体力を奪っていく。
だがこちらの攻撃も通っていないわけでも無い。
頭だけではなく翼にも足にも身体にも木刀を叩き込んでいる。
その度に鳳凰は苦し気な声を上げているから相手の一方的な展開という訳ではない。
恐らくだが、俺の方が一歩押している……だろう。だよね?
一体どのくらいの時間この鳳凰と闘っていたのだろう、何分、いや何時間経ったか覚えていない。
それぐらい長い時間打ち合い続け最後に立ったのは
「もちろん俺だよ!!」
神様が鳳凰に負けて堪るかってんだ。
最後に俺の木刀が奴の脳天を再び叩き割った。鳳凰はフラフラと立ち上がろうとしたものの、限界に達したのだろう。悲鳴も上げることなく沈むように倒れ、羽を数枚残して消えてしまった。
楽勝……ではないな。実のところ危なかったぞ。
あのタイミングで休憩してユッテからヒントをもらってなかったら無駄に力を使って俺は負けていただろう。
『お疲れ様。よくそんな体で闘い終えたものね。そっちの方がビックリ。』
「は?何を……」
「ウルトル!体が!」
どうしたのさ、ユッテ。そんな悲壮感に溢れた声なんて出して……体?体って俺の体が何か……?うぇあ!?
あっら、俺の体透けてきてるじゃないの。しかも力が入らないときたもんだ。どうにかユッテに支えられて座っている。
『その体を作る際に込められた力が切れかけてるの。分かる?』
『あー、こんな事態になるのは知らなかったが言いたいことは分かる。』
恐らくこの体は風船みたいなものだ。俺の本体ともいえる神樹から注ぎ込まれた力――空気が詰まっている。
風船は常に中の空気を小さな隙間から排出し、萎んでいく。今の俺もそんな感じだと思う。それに加えて無理に中の空気をひねり出したんだ。そりゃ萎んで消える速度も速くなるわけだ。
ただ仮にこの体が消えてしまったとしても俺の意識そのものは神樹に戻るだろう。体が復活するまで少し時間がかかるかもしれないが。
ただ、そんなことをユッテが知る由もなく、ユッテは目に涙をため抱きしめてくる。
「ウルトル!嫌です、消えないでください!」
「え?いやユッ……姉さん、俺消えるけど消えないからね?大丈夫だから」
「そんな証拠どこにもないじゃないですか!」
確かに証拠の出しようはないんだが……うーん、こうしている間にも俺の体は薄みを増していく。
これ俺消えても問題はないけどユッテの方は問題大ありだな。
目の前で弟が消えてなくなるんだ。ユッテはまだ6歳だ。トラウマになってもおかしくはない。
そんなことは避けるべきだ避けなくてはならない。
しかし今の俺にはどうすることもできない。本体が無いからこの体に力を補給することもできない。ならばほかに何かできる奴がいるとするならばあいつしかいない。
『というか炎神何とかしろよ!お前の遊びのせいだろ!ユッテ泣かしたら許さん!』
『ちょ、私のせい!?……いや、私のせい、ね。あぁもう分かった分かったから。』
え、何とかしろとは言ったけど炎神何をするつもりなんだ?
声が聞こえなくなったと思ったら祠の炎が赤青黄白と輝き始めバチバチと火花を散らし始める。
まさか爆発するとか言わないよね?このあたり焦土と化してなかったことにしようとか頭の悪いことはしないよね。
『君の中での私の扱いがよく分かったわ。』
あ、聞いてらしたんですか炎神様。
祠の焔は徐々に人の形を成し――人の形?
「あー久しぶりにこの姿で出たわ。懐かしいったらありゃしないわね。」
祠から首をコキコキ鳴らしながら出てきた背丈の高い女……ユッテも突如現れた人間に驚いているが、もしかしてまさかこいつ
「お前、炎神か!?」
「え?」
あぁうん。そりゃユッテそんな顔するよないきなり現れた女を弟が指さして炎神なんて言うんだもん。こいつ頭狂ったかとでも思われても仕方ないよな。
さて、目の前のコイツの答えはというと
「そうよ?神樹さん。初めまして、私が炎神よ。名前はそうね……アラキファ、とでも名乗っておくわ。」
「大層な名前もってんな、アラキファさんよ。」
「あら?その様子だとあなた知らないんだ。」
知らないんだって何をだよ。アラキファなんて名前、俺は前世でも聞いたことないぞ?
「アラキファって……その名前この王都の名前ですよね?」
そうだったのか、この王都の名前アラキファって言うんだ。そうなんだ……そう言えば目的地であるこの王都の名前ろくに聞いていなかったな。王都という名前の王都なんてあるわけないよな。
待て、王都の名前がこいつの、炎神の名前?という事はこいつはこの王都が出来たときから存在しているという事か。
「んーその話は今は置いときましょ。それより今はあなたよ、神樹。」
そう言いアラキファはユッテに支えられ座っている俺に手をかざしその手のひらから焔を……え、待って焔ってあんなちょっと待ってそれ熱いって絶対止め差しに行くやつじゃん!
「安心しなさい。これはあなたを燃やす物じゃないから。遊びに付き合ってくれたお礼だから受け取りなさい。」
アラキファの手のひらの焔は鳳凰のものと異なり人肌のように温かく痛みを感じることもなく俺の体に入り込んだ。
するとどうだ、焔が入り込んだところから次第に体が温かくなっていき力が戻ってくる感覚がする。
「ウルトル!姿がはっきりと……!!」
あら、ユッテの言う通り俺の体の薄さもまるで無かったことのように色を取り戻しているじゃないか。
ぷちっと毛を抜いてみると、うん。髪の色も戻っている。
ウルトル、復活!
「回復したようだけど、それ応急措置だからね?」
アラキファのそんな声は歓喜している俺とユッテに聞こえるわけもなく誰の耳にも届くことは無かった。
今回例えとか分かりにくかったら申し訳ありません。




