祠
「ウルトル!?どこに行っていたんですか!?」
帰るなりユッテにぐいぐい迫られた。おう、アイヴィーさん何か言い訳考えてたんじゃないのか?
そんなことを考えながらアイヴィーさんを見ると目が合った、と思ったら逸らした。この反応は絶対に何にも言ってないな……大方、フィーレさんと出掛けたとだけ言ったくらいか?
「あぁ、ちょっと王城まで行ってきてね。今日の観光案内をフォルクスさんに頼んできたんだよ。いい場所知っているらしいからさ。」
嘘は言ってないよね、王城には行ってフォルクスに案内頼んだ。よし、嘘はついていないな!言っていない部分があるが、ユッテに言う必要は全く無い。
知らぬが仏。
「フォルクスさんに……?」
どうにも疑うような目を向けてくるユッテ。あぁ、いきなりフォルクスさんに案内頼むって脈絡なさすぎるもんな。それもそうだ、気づかなかった。
でも一度言ったんだ、それを覆すようじゃ余計怪しまれてしまう。
「そうそう。俺たちに迷惑かけたから是非ってね。ここで断るのもフォルクスさんに悪いでしょ?」
「まぁ、そうかもしれませんが……」
「じゃあ行かない?」
「行かないとは言ってません!行きます!!」
チョロイ。
行かない訳ないよなぁ……ユッテも俺に負けず劣らずの冒険好きだし、昨日は体調崩したから行きたい欲求が膨れ上がっている。それが幸いしたな。
ユッテは誤魔化しておいたが、ラディさんにはちゃんと話した方がいいよなぁ。
怒られる覚悟をしてラディさんに事の顛末を話したが
「何やってるんだお前は。」
と別に怒鳴られることなく、本の背表紙で叩かれるだけで済みました。
あれ、予想していたのと違う。これもっと俺怒られるべきなんじゃないのか?
怒ってくれと頼むのも変だし、ラディさんの中ではもう怒ったってことになっていそうだからこの話は終わりだな。
昼頃になったら本当にフォルクス来てくれたよ。いや、別に信じていなかったわけじゃないけどまさか馬車まで用意してくれているとはもう有難いわ。
これなら少し遠いところでも大丈夫だな。
「さて、ウルトル様、ユッテ嬢。それに……フィーレさん。貴女も来るんですか。」
いつの間にかフィーレさんも馬車に乗り込んでいた。こればかりは俺も気づかなかったんだけど何したんだよ……
「当然です。御二方に何かあっては遅いんですから!」
フィーレさんの中ではフォルクスの事はまだ信用できていないみたいだな。俺的には信用してもいいと思うのだが……メイドゆえの執事に対する対抗心だったりするのだろうか。
「ふむ、流石の忠誠心ですね。貴女程の人であればうちでも相当の地位に建てると思うのですが。」
「これっぽっちも興味ありません!」
「でしょうね。」
何だ、フォルクスもフィーレさんのずば抜けた能力に気付いているのか。分かる人にはわかるのだろうか、普段のフィーレさんは本当ドジっ子というかどこか抜けてそうな印象を受けるからな。
大抵の人はただのメイドだと思うみたいだ。
その正体はルーマル家が誇る最強メイドなんだけどね。
「さて、ウルトル様。これから観光案内をさせて頂きます。そこでメインともいえる場所があるのですが最初と最後、どちらがよろしいでしょうか?」
「あ、じゃあ最初で。」
こういうものは見れるときにさっさと見れた方がいい。
もし最後にして雨なんて降ってきたら中止を余儀なくされるだろう。前世ならば天気予報があって決めれただろうが、残念ながらこっちの天気予報は知らない。
それならちゃっちゃとそのメインを観光させてもらった方がいいと俺は考えたわけだよ。普段では好きなものは最後に食べるタイプなんだけど今回は合理的に考えさせてもらった。
「了解しました。それではお連れ致しますね。」
フォルクスが御者に行き先を伝え、馬車は出発する。
さて、メインの観光地とやらはどんなところなんだろうなぁ。あーでも確か、エルベルド王は祠って言っていたな。
……ねぇ、馬車荒れた道進んでいる気がするんだけど。この王都にこんな場所もあったんだな。
途中で馬車が止まる。何事かと思えば急な坂道があるからここから歩きみたいだ。
流石にユッテに坂道は酷なのでフィーレさんがおんぶすることになった。でもユッテ顔真っ赤だな。恥ずかしいのか?
幾分か坂道を上るとおやおや、何やら人じゃない人が2人ほどいるな。
正確に言うと人族じゃないな、ありゃ立派な角がついてるし魔人族か?しかも鍛え上げられたその体はいかにも実力者という風格を醸し出している。っていうかこの2人似てないか?
「来たな、フォルクス。そして子等、メイドよ。」
「王の命によりこれよりお前たちを案内する。」
「我の名はグンギ。祠の守護者だ。」
「我の名はガンギ。グンギ同様祠の守護者。」
何この2人、交代で話してそういうキャラなのか?1人がずっと話せよ面倒くさいなぁ。
にしても守護者か、こりゃ本当にこれから行く祠は相当な場所みたいだな。楽しみだ。
でも何の祠か先に聞いておくか。
「えぇっとグンギさん?」
「我はガンギだ。」
知らんがな、ややこしいわアンタら。
「じゃあガンギさん。ここは何を奉っている祠なんですか?」
「ふむ、まぁこれから見るのだし教えよう。これより先にあるのは祠。炎神様を奉る祠がある。」
ほっほう、炎神さまか。こりゃ本当に面白そうな場所に案内してもらったな。フォルクスに感謝しなければな。




