約束しただろ?
「ルーマル侯爵、それにユッテさんにウルトルさん。本日は申し訳ありませんでした」
フォルクスは正門まで案内してくれたかと思えば、深々と頭を下げだした。
うーん、フォルクスは全然悪くないんだけど……
「顔を上げてくれ、フォルクス君。こちら側にも非はあるのだからな……」
ラディさんがそう言うものの、一向にフォルクスの顔は上がらない。もうこっちが申し訳なくなってくるなぁ。
「王はこれより、仕事に就かれますため、しばらくはお時間が取れません。何かご伝言があればお伝えしますが。」
「そうだな、申し訳なかったと伝えておいてくれないか。後、私たちは1、2日ほど王都に残らせてもらうが構わないか?」
「どうぞご自由に……滞在の間の宿泊地はせめてもののお詫びにこちらで手配させていただきます。連絡は私がしておきますので。」
そう言うとフォルクスはメモとペンを取り出しすらすらと地図を書き、フィーレさんに渡す。
こんなでかい城があるんだから一室や二室くらい貸してくれてもいいんじゃないかと思ってみたが、あんな騒動おこしちゃった後だ。まぁ変な目で見られること間違いなしだよな。
ここは王都の宿にしておこう。
フォルクスと別れる際、彼は俺を一瞥すると軽く頭を下げてきたので思わず俺も会釈する。
何で俺に礼をしたんだ?分からん。
「ユッテ様?どうされましたか?大丈夫ですか?」
馬車に乗っている時、隣でアイヴィーさんの慌ただし気な声が聞こえた。
何とユッテが熱を出しているのだと。
やはりあの王子と対した時、あんな緊張感の中無理したのが祟ったのか。
顔を真っ赤にし、苦しそうに息をしている。
……治すか?とりあえず俺の力を込めた果物をユッテに――
「止めろ、ウルトル。」
「何で止めるんだよ、父さん。」
俺の行動を言葉で止めたのはラディさんだ。いやいや、あんた何言ってんだよ。娘が、ユッテが苦しんでるのに何で治そうとする俺を止めてんだよ?
「約束したはずだ。力は使わないと。」
「確かにしたけど……」
キイからもぜぇったい使わないでくださいとか言われていたな。
「ユッテのこの症状は今に始まったことではない。一日ゆっくり休めば良くなるさ。」
結局折れたさ。力は行使しなかった。不服ではあるんだけどね、でもあんな状態のユッテから
「ウルトル、私は、大丈夫ですよ……」
と言われたら折れるしかないじゃないか。ただし本当に危険な状態になったら全力で力を使わせてもらうけどね。
地図の通りに行った先に本当に宿はあったのだが……
「でかいな。」
「お屋敷ほどじゃないですけど大きいですね……」
「ウルトル様にフィーレ!そんなのいいですから早くユッテ様を休ませるために行きますよ!!」
あ、ごめんなさいアイヴィーさん。ほんとすんません。
ユッテをようやくふかふかのベッドに寝かせることが出来た。まだ顔は赤いが呼吸も穏やかになってきたから本当に寝ていればよくなるだろう。
さて、俺はどうしようか……?まぁユッテが寝てるんだし俺が一人外に出るのも悪い気が
「ウルトル、外に行きたいんだろう?行って来ればいい。」
は?
「え、いいんですか?」
「あれほど王都を回ってみたがっていたじゃないか。ユッテの事は私とアイヴィーに任せなさい。流石に1人は駄目だからフィーレも連れて行きなさい。ほらこれ、小遣いだ。」
ラディさんは、ぽんと小さい袋を俺の手のひらに置く。見た目よりも重く、ジャラジャラっと聞こえたから結構入っていそうだ。
「いいから行ってきなさい。ユッテのせいでウルトルが外に行けなかったなんてユッテが知ったらそれこそ落ち込んじゃうだろう?」
確かに、優しいユッテならそれはあり得るな。
……じゃあお言葉に甘えさせていただこうか。




