ユッテの準備
さぁて、ユッテの部屋の前まで来たんだが……そう言えばユッテの部屋って入ったことが無かったな。どうなってるんだろうなぁ
でもユッテの部屋からさ、ドッタンバッタン聞こえているのは何故なんだ?
ノックしてみよう。こんこんっと
「だっ誰ですか!?」
ユッテさん?あなた今自分の部屋にいるのに何でそんなに切羽詰まった声出してるんですかね?
「俺だよ、ウルトルだよ。」
「ウルトル!?ちょっ、ちょっと待ってください!」
すると再びドッタンバッタンとした音が部屋から聞こえてくる。ここで扉開けたらどうなるんだろうなぁと思っていたら音が止み、ゆっくりと扉が開いた。
そしてその隙間からユッテの顔が見えた。でも何だその顔、また息切れしてるじん。
「何してたの?」
「明日の準備をですね?持っていくものを考えていたんですよ……。」
肩で息をするユッテの奥を覗き込むとお世辞にも綺麗とは言い難い部屋があった。散らかっているのはあれは……本か?
「姉さん、持っていくものってもしかして本?」
「え、えぇそうなんです。どの本を持っていこうか迷ってまして。」
「ちなみに何冊ほど?」
「百冊持っていきたいかなと。」
「無理だろ!!」
思わず大声でツッコんでしまったが、いやいや何を言っているんだこのお嬢様は。
中を確認しようと扉の隙間に手を掛ける……おい。
「姉さん?何をしてるんだ?」
「そ、それはこちらのセリフですよ。ウルトルぅ……姉弟とは言え女性の部屋に入ろうとするのは如何なものでしょうかぁ……」
姉さんが俺を部屋に入れまいと扉を押して抵抗し始めたではないか。というか必死な形相してるな!?
「分かった、部屋に入るのは止める。」
「本当ですか?」
瞬間、ユッテの扉に加える力が弱まる。まぁよくある展開ならこの隙に渾身の力で扉を思いっきり中に入るってものだが、流石にそこまでしたらユッテに嫌われそうだから俺は止めておく。決してヘタレてなどいない。
「だからせめて姉さん、十冊にしよう十冊に。それなら俺が持っててあげるから。」
「え?何でそこでウルトルが出てくるんですか?」
ユッテに俺の中に存在するアイテムボックスの事について教えた。十冊程度なら簡単に持ち運べるしユッテの荷物も減る。これでいいじゃないかと。
「それならウルトルが持って行く分さらに私も何冊か持って行けますよね!?」
「そんなことすると持って行かねぇぞ!?」
この一言でようやくユッテは仕方ないと折れてくれた。いや、そんなに長く滞在するわけでも無いのに、どれくらい読むつもりだったんだ。まぁ本当は10冊持って行くのも100冊持って行くのも1000冊も俺のアイテムボックスからすると全然平気なんだけどな?
このアイテムボックスとやらは使用者によってその大きさは異なるらしい。他の人と比べたことが無いから何とも言えないが俺のもそれなりの大きさだろうな。実はこの中に魚とか釣り道具とか入れているのだ。
ユッテはこれから持って行く本の厳選に入るだろう。部屋に入ることは敵わなかったが、部屋に何かがあるかはよく分かったわ。
あの部屋は本にまみれてるんだな。
その夜、俺が庭で確認した限り最後まで部屋の明かりがついていたのはユッテの部屋のは気のせいだろう。多分、恐らくきっと。
さて、出発当日。2台の馬車が屋敷に停まっており、片方の馬車には俺たちの荷物が積み込まれていた。まぁ俺の荷物は無いんだけどな。王に謁見する際のお土産が比較的多いみたいだ。
「さて、じゃあそろそろ出発するか!……ユッテ大丈夫か?」
「え、えぇお父様。大丈夫ですよ……?」
そんなフラフラして大丈夫とは説得力が無い。こりゃ馬車の旅は寝旅行決定か?
「ユッテ、ほらシャンとしなさい?よだれもほら。」
レナさんは付いてこない代わりに見送りに来てくれていた。今はユッテの顔をごしごし拭いてるけど。
俺たちに同行するフィーレさんとアイヴィーさんは先に馬車に乗り込みせっせと拭き掃除をしていた。御者さんがやっていると思うのだが、念には念を入れてだそうだ。
「ウルトル、ユッテの事お願いね?私、今のあの子見てるとすっごい不安なのよね。」
あぁうん、その気持ちは分かりますよ、レナさん。俺も注意を払ってユッテを見ておこう。
……あ、そうだ。
「母さん。一応これを渡しておくよ。」
「あら何かしら?……種?」
「種に見えるけどね、何か危ないことがあったらこの種を握って強く念じて。そしたらすぐに戻ってくるから。」
「あら、それは心強いわね。これを使う時が来ないのが一番なのでしょうけどね。」
これでもしここら辺に例の魔物が現れても大丈夫だな。
まぁメイド隊人たちはまだまだたくさんいるから杞憂だと思うけど一応な。それにキイもそんなことがあったら何かしらのアクションをしてくれるだろう。
これで心置きなく王都に行けるってものだ。
ただラディさん。そんなにレナさんをガン見するなよ……少しの間に会えないからって眼球に焼き付けるほど見つめなくても……




