キイ
ここから帰る前に一つ確認しておきたいことがある。
『お前って名前なんだよな?』
『はい。ですが基本的には名前を持っているのが大多数です。私も昔は名前があったのでしょうが、放浪する時間が長かったのでしょう。すっかり忘れてしまいました。』
名前を忘れるほどって、どのくらいの時を過ごしたんだこの精霊は。
放浪してこの地を見つけ、留まり、メイド隊の誰かが来るまでずっと1人でこの花畑にいたと。
俺だったら寂しさで死にたくなっていたかもしれないな、俺ってこの精霊に比べたら恵まれているんだなぁ。
……しかしそろそろこの精霊を精霊呼びするのは味気が失くなってきたな。
『よし、じゃあお前に名前を付けよう。そうしよう』
『えっ!?な、名前ですか!?私に!?』
『あぁ、問題ないだろ?名前を付けるだけなんだから。』
おっさっきまで落ち着いていた精霊の声が急に上ずり始めたぞ?
なんだなんだ、嬉しいのかしょうがねぇなぁ!いい名前を付けてやらないとな。
そうだな、この花畑の精霊……キンセイカ……金木犀……きんもくせい……よし、決めた。
『お前の名前はキイだ。……ん?』
俺がキイの名前を宣告すると同時に一瞬体が重くなった気がした。
本当に一瞬だったので別に対して気にする必要はない筈だ。本体に強制送還されるほど力も使ってないし。
『んー何だったんだろうな。ってあれ。』
おや、おかしいな。俺の目がおかしくなってしまったのか?
キイって確か光る球体だったはずだよな?でも今キイのいる場所だったところに美少女がいるな。15、6歳の
『ど、どうもウルトル様ー……』
俺をウルトル様だなんて呼ぶ存在はさっきまで1人だけだったはずなんだけどな
いや、現実逃避は止めておこう、話が進まなくなる。
目の前の少女は確実に奴だ。それはまぎれもなくヤツさ。
『キイなの?』
『はい、今まさにウルトル様より真名を授かりました。キイで御座います。』
『え、何。精霊って名前を持つと人型になるの?俺みたいに?』
『えっとですね、精霊への名づけはレアなケースですが、特別なものでその精霊より格段に力が無いと名前を付けることはできないのです。』
『あら、そうだったのか。』
『体が人型なのは私がそのように臨んだからです。』
さっきの体が重くなった感覚はそういう事だったのか。
キイがあんな声を上げたのも俺が下手に名前を付けて力が弱まることを良しとしなかったのだろう。
実際はピンピンとしているけどな。キイの懸念は杞憂だったという事だな。
うんうんと頷いていると俺の裾をクイクイと引っ張られる感覚がした。見てみるとまぁ予想通りにユッテだった。
「姉さん?どした?」
「ウルトル、さっきウルトルが指差していたところ……そこに誰かいるんですか?」
あれ?さっきは温かい気がするってだけだったのにキイの存在を感知した?
でもユッテの力が増したわけではない。すると考えられる可能性と言えば……
ちらりとキイを見ると頬を軽く染め目を逸らしおった。
『も、申し訳ございません……何故か名前を授かった際ウルトル様の力が私に流れ込んできて……』
あーなるほどね、光る球体が人形になった本当の理由がそれか。
そしてあの名付けたときの気怠い感じもそれが原因か。
まぁ別に力なんて有り余るくらい持っているから別にいいだろう、それでキイが困るわけでも無さそうだし。
「気のせいじゃないのか?」
「そうでしょうか……?でも何かウルトルに近い様な?」
本当は気のせいではないのだが、気のせいという事にしておこう。いつか気分が乗ったら話すことにしよう。今日は色々ありすぎたからユッテも限界だろうからな。
というかそろそろ
「そんなことより、そろそろ帰ろう。」
「でもまだ明るいですよ?」
「今から帰らないとお昼ご飯が夕食になるぞ?」
「うっそれは嫌です……」
そうつぶやくユッテ。同時にユッテとクイルの腹が鳴りお互いがしょぼんとした顔になる。
「ほら、腹減ったろ?今から帰れば昼ご飯には間に合うだろうさ。」
「分かりました。さぁウルトル、クイル帰りましょう!」
「うん!僕も早くご飯食べたい!」
子どもにとっては食事は重要だからな、帰るに値する理由だ。
俺たちは来た道を戻り帰路につく。キイはまたお越しくださいませとだけ言い俺たちが見えなくなるまでずっとお辞儀をしていたようだ。




