見せたいもの
眼前に広がるのは見渡す限りの花、花、花。
赤青黄、様々な色、様々な種類の花が所狭しと咲き誇っている。
「こりゃ……花畑か。」
我ながら何ともまぁ気の抜けた声だ。だが仕方ない、実際目の前の光景に驚いているからな。
前世ではこんな光景見てもへーすごーいで終わっていたかもしれないが、今は別だ。目の前の光景に心が奪われたようで口をぽかんと開けるのが精いっぱいだ。
「はい!ここが私のウルトルに見せたい場所です!」
腰に手を当て、えへんとドヤ顔をするユッテ。なるほど、こりゃあ人に見せたくなる景色だ。
「確かに素晴らしい景色だが……何で見せてくれたんだ?」
「ふふ、お返しですよ。」
「お返し?……何のだ?」
心当たりはないな……あっもしかしてあの時のミニトマトだったりするのか?
いやあんなものはお返しされるようなもんじゃないよな。
「分かりませんか?」
「あぁ、すまんが分からん。」
もう降参だ、さっぱり分からない。というかユッテには本当に色んなものをもらいすぎているから俺が何かしたところで恩を返したとは思えないんだけど。
「仕方ないですね、教えて上げます!これはウルトルが私の弟になってくれたお礼なんです!あとサンライトの花もです!」
「え?それだけ?」
「それだけって……それが重要なんです!!ウルトルの馬鹿!」
「えっ、俺が怒られるのか!?」
いきなり怒り出してどうしたんだ一体。ユッテの弟になるくらい別にどうってことはないのに。あ、でも姉さんと呼ぶのはまだ抵抗はあるな。
いやそんなことよりも、怒らせてしまった。
怒らせてしまったら謝ろう。精一杯謝ろう。
何度も手のひらを合わせユッテに許しを乞う俺。あ、これラディさんがレナさんに謝ってる時もこんな感じだったような……
何回も誤っているとその行為が面白かったのか、ユッテはしょうがないですねぇと笑って許してくれた。本当によかった……
「でもここって本当にいっつも咲いてるよね……?どうなってるんだろう。」
ナイス話題転換だ、クイル。君には後で適当な果物を上げよう。覚えていたら。
さて、常に咲いてるって何だその不思議植物。いや俺が言うのも何だけどさ。もしかして誰かが手を加えたからここの花は枯れないとかか?
よく見るとこの花畑、ここを歩けと言わんばかりに一切花が咲いていない場所があった。
さらに誰かによって整備されている感が増してきたが、花を踏み荒らすのは木が引けるので遠慮なく歩かせてもらおう。
「ユッテ、ここってそのメイド隊の誰かが整備しているのか?」
「いえ?この道があるのはメイド隊が見つける前からあるんです。不思議ですよね。」
ずっと花を咲かせ続けたままなんて魔法とかそういう力じゃないとほぼ無理だろう。一瞬造花を疑ったがそんなこともなかった。ちゃんとこの花々には生命を感じる。
うんうんと考えながら道なりに進むと見上げるほど大きな木に突き当たった。
その木も枝に黄色い花を咲かせており、どこかその花と香りは実家に生えていた金木犀を思い出す。
「この木は?」
「えーっと確か、キンセイカの木だったと思います。希少な木なんです。」
名前もどことなく金木犀に似ているなぁ。
もしかしてこのキンセイカも他の花同様に花を咲かせ続けているのか、本当にここをこの状態に保っているのは何者なのか。
『もし、もし』
「っ!?」
不意にどこからか女性のような声が聞こえた。しかし周りを見渡しても人影は確認できない。この場所にいるのは俺とユッテとクイルだけのはずだ。
あのさっきのウォーウルフのような気配も感じない……気配?そうだ、気配だ。
ちょっと集中して見ると、あった。俺たち以外のもう一つの気配。
だがそれは意外なところにあった。
「……キンセイカ?」
「ウルトル?どうしたんですか?」
俺が無意識に呟いた言葉にユッテが反応する。いきなりキョロキョロしたからもしかして不安がらせちゃったか?
何でもないと笑って言ってユッテをごまかしておいた。
さて、この気配。ウォーウルフの気配とは白と黒と言った具合に全く異なる感じがする。つまり悪さをするようなものでは無い筈だ。
だが、無視できない気もする。
『あぁ、やはり私の声が聞こえるのですね。私の気配を感じられるのですね。であれば……』
頭に響いてくる声、その声が一旦途切れたかと思うとキンセイカの木の幹から光る小さな球体が現れた。
……何これ。
いきなり現れた変な光る玉、もしかしてこいつが俺に話しかけてきたやつか?
『見えているのですね?貴方の目の前に光る球体が。』
『あぁ、見えているな。それがお前の姿か?』
俺はグンダル様と話すような感じで頭の中で喋ってみた。恐らくこれで相手にも声が届くはずだ。
まぁ口で声を出しても聞こえるとは思うのだが、そんなことをしたら変な目で見られかねないからな。
『はい、お初にお目にかかります、神たる御方。私はここの花園の管理をしております、名もなき精霊にございます。』
ほー、ここを管理していたのは精霊だったのか。というか話には聞いていたんだけどいるんだな、精霊って。
しっかし、神たる御方って何か恥ずかしいな。相手側からしたら事実なんだろうけど。




