秋の魔女に出会ったぼくは
彼女はどの季節の魔女よりも儚い。
ぼくの住んでいるこの地域には、秋と呼んでいい時期がほとんどない。
だからなのか。
ぼくが出会う彼女は、いつも違う姿をしていて、いつも初対面だと言われる。
「初めまして」
皆、そう言って、優しく微笑んで、ぼくの手をとる。
かれこれ6人目だ。
彼女が何者で、一体何をするためにここにいるのか、というのは今までの5人から聞いているので、そのへんの質問は省く。
「今年は、できるといいね」
「……うん。ありがとう」
そう言って、彼女は準備を始める。
持っていたカバンから、一本の棒を取り出す。
20cmくらいの長さで、それを片手に持ち、山に向かって振るう。
四拍子のリズムで。
何度も、何度も。
月がてっぺんに昇るまで、彼女はそれを続ける。
ぼくはそれを見守る。
今年は、うまくいくかな。
「……どう?」
「難しいよ」
「そっか。がんばって」
「ねえ、わたしで何人目?」
「6人目だよ」
「ふうん」
「何?」
「わたしは、何番目に可愛い?」
これは初めて聞かれた質問だ。
「みんな同じくらい可愛かったけど」
無難に返す。
「そっか」
彼女は残念そうな顔をした。
「今年も、無理だなぁ」
「……どうして?」
「だって、今までと同じ、なんでしょう?」
そうつぶやいた彼女の言葉にハッとしたけれど、もう取り返しはつかない。
「……ごめん」
「いいの。ねえ、来年の子は、上手くできるかな」
「できるさ。君の分まで」
「だといいなあ」
その年の魔女も、成功することはなかった。
こうしてまたひとりの魔女が消える。
6人が何処へ行くのか、ぼくは知らない。
聞いても教えてくれなかった。
来年こそは、うまくできるといいね。
草木も枯れ、秋虫の声一つ聞こえなくなって久しいこの山を眺めながら、
ぼくは一人、夜空に願った。