消えないで
今思えばそれは〇〇
そこにいたのは君で。ここにいるのは私。ここは暗い部屋で、窓から入る小さな光が唯一の明かりなわけで。君はそこに座り込んでいたわけで。私は君を見つめたままただ途方もなく立ち尽くすしか無かった。
君は、そこにいる君は、いつもの君なんかじゃ無かった。目からは鋭さが失われ、表情は暗く、いつものなんともいえない雰囲気は消えていた。怖かった。
「ねえ、返事をしてよ」
「……」
答えはない。何も言ってはくれない。なんで?
「バカ。意地悪、冗談ばかり」
一番彼が反応しそうな言葉を吐いてみる。
「バカ、バカ。大馬鹿だよ。嘘つき、弱虫、意地悪、変態、ドS、毒舌!」
「……」
これだけ言って見せたって、彼は全く反応しない。いつもだったら、口をへの字に曲げ、ひどく顔をしかめて、冷たい声で否定するのに。私を突き放すような、声で。
「酷い。なんか言ってよ。こっち向いてよ、私を見てよ!」
なんで? 何でなんだろう。これくらい必死になってみたのに。なんか言ってよ。
「私が嫌いなの? 私なんかそばにいて欲しくないの?」
「……」
「ねぇ、私そんなに必要ないのかな。反応する価値もない?」
「……」
情に任せて変なことまで言ってしまった。でも、そう言ってしまいたくなる雰囲気の方が悪いと信じたいもので。今の君は、何だか消えそうで。心配になり過ぎて。目の曇りが取れなくて。いやだ、ああ、いやだ。寂しくなって、なり過ぎて、怖くなってきて。君にしがみつきたくなる。でもきっと、この様子じゃあきっと、君の方がよっぽど重症なのは明らかなんだけど。
自分が抱きつきたい気持ちを、君を抱きしめてあげたいに無理やりにすり替えて、しがみつく。…冷たいわけではなかった、君の体は。でも、暖かくはなかった。私よりも体温が低い。逆に不安が増してくるけれど、その分君は安心できるはずだって、何とか誤魔化した。
「ねぇ、なんか言って」
「……」
「私が必要だって言って?」
反応が来ないのはわかっていた。でも、言わずにはいられない。でないと私が壊れてしまう。
いつもだったならきっと君は、抱きついた、否、しがみついた私を、引き剥がすんだろう。嫌そうな顔して。最悪の事態を想定した結果なら。最良でも、困った顔して早く離せ、って言うだろうから。受け入れてくれている、君の顔なんて想像出来ないから。君はそんなに甘くないから。君は確かに予想外の行動をするけれど、こんな時に期待なんかしちゃいけないから。だから…。
だからこの異常な状況でしか私は君に対する情の全てを吐き出せないから。
ただの自己満足でしかないことくらい分かってる。私は君の反応が怖いから、受け入れてくれないことが怖すぎてならないから、君から返答が来ないこの状況で吐き出せるのだと。なんて笑える、なんて滑稽な、なんて格好のつかない自己陶酔だろう。
「ねぇ」
「……」
君がこちらに視線を向けた。相変わらず力の無いものだったのだけれど。いつもの明るめでいて鋭い雰囲気が戻ってきそうで。私は、喜んだわけでもなく、戸惑った。
「…っ、ごめん、な、さい」
最後に君が疑問に思ったような顔をしていた。何で謝るのか、と。
そして、本当に私は、聞こえる声で言った
「ほら、また君はどっかに行ってしまうじゃないか」
その声は震えていた。
夢だった。酷い夢を見た。夢から醒めてから、まだ一度も君には会っていない。
会いたいんだけどな。
消えないで。
作者が実際に見た夢をまたまた改造して作りました。
あ、別に作者は病みじゃないですよ!
中2は禁句です。