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「うるさい黙れ」
げしげしと、恭弥はオレの足を蹴り続けている。酷い。
「な・・・な・・・」
どうしよう。こっちはこっちで酷くなってる。名もなき彼女さん可哀想です。
「なんで私の頬を引っ張るのよ!恭弥!!私よりもそっちの方を引っ張りなさいよ!」
あの・・・泣いてもいいんですか・・?
「「男の泣くところなんて見たくない(わ)よ!!!」」
いや、待ってくれ。オレ、何も喋っていない筈・・・
そんなオレの顔を見た彼女は、呆れたように言った。
「あなたねえ・・・もう少し表情を隠す事を覚えなさいよ・・・それじゃあ、こっちに筒抜けなのよ?私は人の考える事くらい、簡単に分かるんだから・・・」
「ま、まあ・・・ずっと親友をしていたから・・・時雨の考えていることは分かるって言うか・・・?」
恭弥の方はまあ・・・何かを誤魔化しているような気がしてならないが・・・
とりあえず、彼女の方を観察してみた。
長い黒髪は腰まで落ちていて、真紅の瞳は夕日のようにキラキラと輝いていて、顔があまり表情が見えないせいか、神秘的なベールに包まれてた。
もしも、彼女が表情を読み取れるんだったら、表情で会話してやろうじゃないか。
「ーーーふふ、あなたって面白い人ね・・・恭弥と違う面白さよ?」
「なーんで私の名前を出すのです?」
それはもう、頭がおかしい人の同志だと思われているようです。
「それは君のせいだろ!!!」
そう恭弥はオレに怒鳴った。
は?恭弥はなんでオレの顔をみていないのに考えていることが分かるんだ・・・?
思わず、心の中を見透かされるのではないかと目を逸らしてしまった。
目を逸らした先には、夕日があった。それをオレは思わず見つめてしまった。
「ねえ、君?人と話している時は、視線を相手から逸らしたらダメよ?」
彼女は一瞬、呆れたように言った。だけど、すぐに表情がわからなくなった。
「夕日、綺麗でしょ?それが消えるまで・・・だってーーー
ーーーあまりにも綺麗で、死にたくなるもの」
ああ、だからこの人は夕日を・・・背中に向けていたのか。
だとしても不思議だ。
この人を見たことがある。そう、まるであの事故にあった女性なのかもしれない。だけど、あまり思い出せない。鍵を掛けた、ということよりも、魂が二つに分かれて覚えていないという感じだ。
「もうすぐ、日が沈むわ・・・本当はね、ココには探し物をしに来たの・・でも、ココにはなかったみたい」
「・・・どーせ死に場所を探していたんでしょ?」
「フフーーそう言うことになるわね・・・まあ、ようは済んだし、あなた達はあなた達の用事を済めばいいわ・・・」
ーーーそれじゃあね、と彼女は優雅に去っていった。
日没には、まだ少しの猶予があった。
「ーーーなんだったんだろ。あの人・・・」
「それが私のお姉ちゃんだよ・・・」
いや、分かってるけどさ・・・あ、恭弥のお姉さんだからか・・・
「よーく分かった!朝日どころか、夕日が完全に沈むところを見れるとは思うなよ!」
「いや、だから済まんかったって!!!」
ま、まあ。短いながらも、オレの一日が終わるのであった・・・
「あ、ノートに印とか書いてなくね?」