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幼馴染の彼女にしておく  作者: トマトクン
第四章 『そして、姫君が救出されていく』
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 すでに、人はだいぶ集まってた。グラウンドは人だかり。開け放った窓から、聞こえるざわめき。私はそれを横目にしながら駆け足。今度こそ本当の逆走だ。みんなが下へ行くのに、私は上へ。とにかく上。生徒会室は一番高い階。ここまで来ると、一年の時を思い出す。その頃は毎日のように上ってた。これでスタイルが改善するのではないか。そんなふうに考えるほど。最初はかなりきつかったはず。今の半分でも呼吸が早くなるし。心臓だってバクバクだ。私の思い通りに行かない心音。どうしてくれるか。これから、私かマクが重要なことをいうかもしれないのに。せめて、その前くらいは平常心でいたい。


「やっと着いた」


 私は部屋の前で深呼吸。その後に、軽くノックして扉を開ける。


「あれ?」


 入ってすぐ。見えたのは律くんだけ。マクがいない。どこへ行ったんだろうか。もしかして着替えた? その可能性は大いにある。


「ああ、鮫島先輩。用事はお済みになったんですか」

「うん。終わったけど」


 続けてマクのことを聞いてみる。と、同時に視線を巡らす。いた。奥のソファーで寝てる。体を縮こませてくるから分かりにくい。


「この通りですね。僕とお話をしてすぐでした。ちなみに、僕は忘れ物があって取りに来たのですが」

「うん。それでで?」


 私は律くんの話を急かす。


「はい。そして、そのあいだが約一分くらいでした。つまり、ばたんきゅーなんですね」


 話しながら、グラウンドが一望できる場所へ。ここも屋上と同じ。階下だけでない。遠くまで広い景色が見渡せる。ふいに、一望千里という言葉が思い浮かんだ。


「おそらく、文化祭が終わったことで、安心感が芽生えたのでないでしょうか。ここずっと、神経が高ぶってて眠れなかった。なんて自分で言ってましたし。どうやら、相当疲れてたみたいですね。看板作成のお話しも聞きました」

「あー。うん。そうだよね」


 マクのテンションの高さ。そういうのも加味すると正しい。あれがマクに取っては徹夜明けのノリ。結構、私をいじってたような。結局、自分だけ楽しんでお休みか。いい身分だと思う。


「にしても、篠原先輩はいいご身分で」


 なんと。律くんも私と同じことを考えてたみたい。


「僕の好きな二人の先輩にものすごく好かれてて」

「ふ、二人?」

「二人ですよ。鮫島先輩は僕に言われたことを忘れてるんですか?」

「あ、いや。そんなつもりはなかったけど。どうにも本気とは思えなくて」

「いえいえ。好きな気持ちは変わらないですよ。その感情を踊って表現してもいいですし。まあ、こんなことは誰かがどこかでやってると思いますが」

「えー。そんな奇特な人はいないって。やってたら変わった人だし」

「今のはあれですか? 暗に僕のことを変わった人扱いしましたね」

「ばれたか。あはは」


 私は笑う。律くんもつられたように同じく。


「てか、律くん。それはだめだよ。前も言ったと思うけど」

「そうですか。じゃあ、僕は篠原先輩でも狙いますか。そうすれば、丸く収まりますね」

「そんなことはないから」


 冗談も甚だしい。私はソッチ系に全く興味がない。想像することすら拒否だ。怖い怖い。


「さて、そろそろ僕は行かないと。遅れてしまいます」


 外を見る。雑然と集まるたくさんの人。あそこにいるほとんどがうちの生徒。この様子であれば、そろそろ始まりそうだ。


「ちょうどいいじゃない。律くん。主役は遅れていくんだから。そうすれば、さらに注目を浴びるしね」

「たしかにそうですね。では、ごゆっくり」


 と、言われても困る。すでにくつろぎモード。マクに至っては意識を手放してる。


 律くんがドア先で急に振り向く。そして、こっちへ戻ってきた。また、忘れ物だろうか。だとしたら、相当な抜かり具合。単に緊張してるかもしれない。これからする一仕事に。いや、そんなタイプではなかったな。なんて考えを改める。


「えっと、鮫島先輩」

「なに? どうしたのさ? また戻ってきて」

「ははは。そうですね。でも、鮫島先輩からお願いを聞いてませんでした」

「あれ? そうだったっけ?」


 そんなはずはないと思う。だって、律くんは自分自身が何をするか理解。つじつまが合わない発言だった。


「まあ、厳密には違うんですけどね。電話越しで聞きましたから。なので、面を向かっていってください。いいですね」

「うん。分かった」


 これは律くんのこだわりみたいなもの。ある意味、験担ぎといってもいい。何を担いでいるかは分からないけど。たた、そんな雰囲気は感じ取った。


「じゃあ、律くん。私は律くんにお願いする。君は君の中で一番好きな人に告白。君ができるすべての感情をぶつけてね。これはあそこでやらなくてもいいの。二人っきりの時でもいい。そこは律くんに任せるから。いい?」


 律くんは黙ってる。精神を集中させてるみたいだ。


「律くん?」

「あ、はい。分かりました。これで大丈夫。てか、よくよく考えたらあれですね。鮫島先輩に言われる筋合いはなかったです」

「うわー」


 あんまりな言葉に私は驚く。


「なぜなら、鮫島先輩はそうじゃないでしょ。あまり説得力が感じられません」

「うっ、ほんとだあ」


 我ながらひどい。がっくりと肩を落とす。どっと疲れが来たような気がした。


「まあ、それでも決心はつきましたね。後は踊ってなんぼですよ。では、今度こそまた。楽しみにしててください」

「はーい。じゃあね」


 律くんが駆け足で去っていく。本当に時間が差し迫ってた。実は、さっきまでの私もそうだったけど。今の状況は全然が違う。グラウンドの様子がすべて見える場所。マク以外誰もいない生徒会室。しかも、当の本人は眠ってる。おかげで、時間の流れが急に変わった。このまま溶けてしまいそうなくらい穏やかに。私は何をすればいいんだろう。ふと思った。











 とりあえず、マクの近くへ。マクは、私がソファーに座ると寝返り。寝苦しそうにむずがった。


「マクのやつめ」


 しかし、私の決意は風前の灯。二年半前に誓った想い。すでに効力はなくなってきた。だって、私が得体の知れない敵を相手にして戦う必要もなく。童話みたいなお姫様でいられる。マクが変わったから。無論、童話でなくてもいい。ささいな日常におけるお姫様。ほんの少しだけでずいぶん違う。


「あ」


 ふと思う。結局、マクは自分自身で救ったと。昔のしがらみにケリをつけて。それが文化祭が終わったことによって完成。重石が取れた。けじめはつけたと思う。


 にしても、その瞬間の格好がお姫様のコスプレ。救われるのはお姫様か。いつだってそういうふうにできている。なぜだろう。たかが偶然の符号なのに。


「ひゃあ」 


 いきなりだった。マクが座ってた私を枕に。膝の上へ軟着陸。こうして、チャイナドレスで膝枕。相性最悪のような。スリット部分がちょっと不安。具体的にどうなるか。その想像がつかない。


「てか、狸寝入りかよ」

「いや、半分くらいは寝てたし」


 素早いレスポンス。しかも、半分寝てたとか。そんなことはありえない。


「なんていうかね、寝てても意識がある状態。なんとなく分かるよね。翠」

「う、うん」

「でも、何かが足りないんだよ。そう、枕。枕がないと。これも普段から枕にこだわりすぎたせいだ」


 その通り。マクは枕にこだわりがありすぎ。というか、いろいろなアイテムに拘泥する癖を持つ。まあ、枕は睡眠があまり取れなかったせいもあるけど。そこだけは考慮してあげたい。


「だからって、私を膝枕にすることはないよね。チャイナドレスなのに。この服は膝枕に適さないと思う。ゆったり感もないし。もちろん、スリットだってある」

「だめだな。翠はなにも分かってない」


 まさかのダメだし。そんなことで真顔になられても困る。その上、膝枕の体勢だし。


「まあ、語ると長くなるからしないけどね。でも、結論は言っておくよ。チャイナドレスと膝枕。この相性は最高だ」

「最高? その前にマクが最低だし。なんか分からないけど最低」

「ごめん。寝ぼけてて正しい判断ができないんだ」

「んなわけあるかー」


 私はマクを払おうと。でも、直前になって思い直す。これはいい機会かもしれない。こういうイレギュラーな状態ならちゃんと言えそうだ。逆に。


「あのさ、マク」

「ん?」

「私、マクに言うべきことがあったよね。それをずっとためらっててさ」

「で、僕はそれを待ってると。そして、翠も僕が言うべきことを待ってる。そして、その内容はお互いに知っている。たぶんね」


 後夜祭の開始。合図が鳴り響く。とても大きな音。私は階下の様子を見たかったけど、身動きが取れない。マクが私を動けなくしてた。


「なんとなく分かるの?」


 そうだったら、私の願望ではない。対して、マクは私が言うべきことを知ってたとは。つまり、私だけがしゃかりきになってた。それだけの話だ。


「たとえば、私がマクにずっと偽ってたこと。年下なのに年上として振る舞った。これが一番大きいかな」


 マクは何も驚かない。間違いなく知ってた反応。そもそも、マクは気にしないタイプだけど。


「ただ、他にもまだあるのね。これよりも重要なこと」 


 それは私がマクの幸せを願ってるだけでなくーー。


 いきなり歓声。後夜祭だ。早くも盛り上がる。マクは起き上がり窓際へ。私もついていく。


「すごいな。京極くんは」


 観客が温まる前にハイテンション。さすがは律くん。とはいえ、彼は道路でブレイクダンスをやり出すくらい。こんなのは序の口かもしれない。


「去年の加絵先輩もすごかったよね。あれで一躍有名になったくらいだし」

「でも、何をしたかは覚えてないんだ。たぶん、僕の精神状態が普通じゃなかったせいかな」

「それは私も一緒。その時の問題で、何も考えられなかったから。すごかったのは心に残ってるし。あ、マク。メイド服が」


 にしても、マクの格好はそのまま。なんとも閉まらない。女装のインパクトはすごかった。 


「てか、ちょうど話してるね。去年の様子。やっぱりすごかったから」

「うん。男装の麗人。そこから深窓のご令嬢へ。見事な一人芝居だったんだね。たしかにそれをやってたかも」


 マクはしみじみと頷く。こうして、しばし見物へ。律くんのパフォーマンスを。後夜祭は最高潮のムード。彼の告白の時は近い。


「なあ、翠」

「なに?」

「お姫様ってどんな気分?」

「え?」


 マクの意図が分からない。


「いきなりなにを言い出すのさ。なんか、ごまかしたいことでもあるの?」

「いや、うん。さすがは翠だ。お見通しか。ただね、大切にしたいだけじゃなくてさ」

「べつの言葉?」

「そういうこと。翠が言ってくれたから僕も言わないと。だって、翠が望んでる言葉だし」


 その言葉を私は待ってた。マクが幸せであればいいと思っても。もちろん、それが大前提なのは変わらない。でも、マクが大きく変わって私も変化。マクの隣にいたいという想い。確実に強くなっていく。たぶん、それは絶対で最強の空気感とはべつの何か。恋とか愛情とかそんな代物。確証はないけども。


 ともあれ、私はお姫様へ。昔々、身に纏ってた感覚。一度捨てる決意をした心構え。でも、すでに必要ないだろう。マクが元に戻ったし。だから、私はマクの言葉を待つ。


「翠?」


 また、後夜祭が盛り上がってきた。律くんの声が聞こえる。加絵先輩への告白だ。そういえば、律くんとした約束。これは守れそうにない。ごめん。なとど胸中で謝る。なぜなら、マクの言葉を聞かなくてはいけない。それも一言も漏らさない決意で。

というわけで、二人はお付き合いを始めたのかな。てか、翠は最後までキャラが弱かった〜。うん。


あとは過去話なんですが、見事に止まってしまいまして(泣)。本当に申し訳ないです。

気晴らしに新しい小説を書いてて、それが完成したら戻ってきたいですね。

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