表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の彼女にしておく  作者: トマトクン
第四章 『そして、姫君が救出されていく』
73/77

19

 もう、すっかり退屈してた畠山ちゃん。いつのまにか近くの茶店に入ってる。そこでくつろいでお団子を食べてた。ちゃっかり私の分までご購入。なのに、串へ刺さってるはずのお団子が一つずつ少ない。たしか、三つずつだったような。


「待ちくたびれちゃったよ。ずいぶんな長電話だったよねえ」


 緑茶をすすりながら、くつろぎモード全開。たしかに長い時間待たせてしまった。


「ごめん。ここは私がおごるから。他にもなんか頼む?」

「お、いいね。私、ぜんざい食べたかったんだ。その後、梅干しを食べると最高だから」

「ごめん。その考えは賛同できない」


 畠山ちゃんの梅干し好きには困ったものだ。マヨラーみたいに梅干しを携帯してるくらい。そういえば、タネの処理はどうしてるんだろう。タバコみたいに専用の入れ箱でも作ってたっけ。聞いたことなかった。


「ところで、電話はなんだった? 律くんだってことは分かったんだけどね。話の内容からして。でも、あんまりそばで聞いてるのもあれだから。私はこっちに移動したんだよ」

「そっか。ありがとう。で、相手は律くん。もちろんあの話。詳しくはこうなったの」


 私は、律くんと会話をかいつまんで話す。


「ほうほう。それは結構な面白さだねえ。なんて面白い展開なんだ。翠ちゃん、合格だよ。エンターテイメントのコツを分かってるじゃないか」

「もう。それだとさ、畠山ちゃんはどっちでも良かったみたいだし」

「そんなことないって。たぶんね」


 説得力なし。すでにぜんざいは食べ終わってる。注文して食べる時間よりも話が長いとは。さすがは楽しいゲームだ。弟の買ってくるゲームとは大違い。などという皮肉を言っても仕方がない。死活問題ではなくなったものの結構な展開。だから、律くんは絶対に見つけなくてはいけない。そして、律くんにちゃんとした告白をさせるんだ。そうすれば、私もマクに言いたいことが告げられると思う。なんとなく。マクだってしてくれそうな気がする。気のせいかもしれないけど。要するに、これは験担ぎ。私たちは剣が峰でぎりぎりの攻防をしてる。その結論が今回のゲームに影響してる錯覚。間違いなく関係ないのに。でも、そう感じるから不思議だった。


 ともあれ、これからの作戦を相談。律くんも今まで以上に本気で隠れるという。ちなみに、先ほど確認してたピエロ劇は準備終了。すでに幕は下りてた。劇は昨日と同じくたくさんのピエロが出演。遠目では分からない。あの中に律くんはいるんだろうか。というか、いない可能性の方が高い。今、急に思った。もし、あそこにいたら大変だ。現行犯逮捕みたいな感じになってしまう。


「やっぱりさ、まずはだよ。由美ちゃんから情報を聞かないと。だって、翠ちゃんには律くんのパーソナル情報が少なすぎる。二人が出会って一ヶ月弱じゃないか」

「うん。そうだよね。私がマクを把握してるのとはべつかな。律くんだと知らないことが多すぎる。推理なんてさ、ささいなことから強引に繋げていくのに。そこが分からないなんて。どうにもできないよ。本気で隠れられたきついかも」


 はたして、勝算はあるのか。電話してる最中は絶対に見つけだすつもりだった。でも、冷静になって考えると厳しい。まずい側面ばかりが浮かび上がってくる。


「そっか。それは仮のお付き合いをこなしても難しい?」

「うん。難しいかも。三週間だし。ただ、これが畠山ちゃんならべつだよ。人間観察とかしてるから」

「あはは。そうだねえ。でも、どうなんだか。人間観察と手がかりから見つけだす直感は違う。総合力では翠ちゃんの方が断然上。ただ、篠原くんが絡んでないからなあ」

「べ、べつにマクとか関係ないし。たまたまだよ」


 いつもの癖で否定しまった。すでに効力すら持たない。


「翠ちゃん。この前、自分でも認めたのにね」


 畠山ちゃんが諭すように言う。


「そうだけど。うん。てか、マクの話は禁止。今は関係ないからね。こっちに集中できなくなるから止めて。だめだめ」

「ふーん。そこまで気になるんだ。翠ちゃんも成長したね。しみじみとそう思うよ」

「ううー」


 あまり良くない展開。どうしたら、この状況を打破できるか。なんて考えても仕方がない。どうせいつものことだ。気にしなければいい。


「とにかく、今日は情報収集だけにするよ。中途半端に手広くやっても、効率が悪いからね。まずは情報。その次に行動。それが基本原理かな。だから、明日が本番だね。私は文化祭を楽しみながら、必死に律くんを探す。夕方までに見つけて捕まえる。面白いゲームするみたいに楽しまないと」

「ふーん。そういった心構えなんだね。まあ、そんな気がしてたよ。表情を見てるとね。てか、それでいいんじゃない。私も手伝える範囲なら手伝うし」

「ありがと。畠山ちゃん」

「お礼なんか必要ないって。そもそも、見てるだけ面白いんだから。どっちに転んでも最高ー。どうなっても最高ー。ヘビメタ最高ー。梅干し最高ー。生きてるって最高ー」


 ぱくっとまた梅干しを食べる。口の中がデンジャラスじゃないかな。特徴ある味がいろいろと混ざって。まあ、それが畠山ちゃん。私が知ってるいつもの彼女だ。











 文化祭二日目。無事終了。大きな事件もなく。私の懊悩も消えてくれた。後は律くんのゲームを楽しむだけ。あの制限時間つきのかくれんぼ。いや、鬼ごっこかも。主役は次期生徒会長。彼の決断を代えさせる必要がある。私が彼を見つけて、お願いをすることによって。


 とりあえず、今日の情報をおさらい。ほとんど由美ちゃんから聞いた。それが一番てっとり早くて正確。親しいいとこなんて幼馴染みたいなもんだ。私とマクの関係性とほとんど変わらない。そんな雰囲気を醸し出してる。


 ともあれ、とても有益な情報が手に入った。そこで私の問題が浮かび上がる。まずはピエロ姿。私はあの時の印象に騙された。彼の変装はフェイク。そもそも、律くんのクラスはピエロ劇のところじゃない。違うクラスだ。どうりであそこを覗いてもいないはず。というか、私は律くんのクラスくらい把握しておくべきだろう。いくら三週間のお付き合いだとしても。


 しかし、律くんはそこまで計算済みだったのか。だとしたら、文化祭期間で逃げきれると考えてもおかしくない。それは私を甘く見てるわけでもなく。普通に冷静な判断。おかげで、二日間は稼げた。でも、ここからが本番だ。明日は最終日。私はほとんど空いてある。マクも予定がないみたいだ。さりげなく一緒に回る提案してみよう。


 帰り際、美術部の彼と会った。なんだか声を掛けたくなる。あんなことを言われたせいだ。


「神津くん。なんか久しぶり」

「ああ、鮫島先輩ですか。べつに久しぶりでもないですよ。適当なことは言わないでください」


 相変わらずすげない。しかも、すごい威圧感。思いっきり見上げてるせいか。やっぱり体格がいい。彼の特徴だ。


「てか、幼馴染の彼とは上手くいってんですか? 隣にいませんけど」

「あ、今は文化祭実行委員の集まりなの。だから、私は待っててね。そこで君が通りかかったわけ」

「つまり、俺は暇つぶしの相手に選んだんですね。いいですよ。少しだったらお相手しますし」

「ありがとう。神津くんは意外と優しいよね」

「べつに。そんなつもりはありませんよ。勘違いしないでください」


 彼は無表情で言う。


「うん。分かってる。ただ、一つ聞きたいことがあって。神津くんも周囲をよく観察してる方だよね。この前も律くんの忠告をしてくれたし」

「えっと、痴話喧嘩?」

「違うから。でも、私は文化祭期間中に律くんを見つけなくてはいけないの。そして、しっかりと捕まえなければ」

「へえ、そうなんですか。大変ですねえ。では、厄介事に巻き込まれたくないので。どこかで見かけたら声を掛けないでくださ、っと」


 私は、この前と同じように彼をひっぱってた。ものすごい馬鹿力で。またもや、自分でもびっくり。彼を相手にすると、異常な力が出る。不思議でしょうがない。


「てか、鮫島先輩。ほんとにすごいっすね。俺を力で引っ張り込むなんて。絶対にか弱くないでしょ。図太そうだし」

「さすがにさ、失礼だと思うんだけど」

「ああ、すみません。俺、こんな奴なんで。だから、あまり話しかけない方がいいですよ」


 その割にはスムーズに話せてる。前に話した時よりも。


 というわけで、彼にも律くんの件をぼかして話す。少しでも情報を得られれば。そんな思いで聞いてみた。そして、彼はやぼったそうにいろいろと教えてくれた。中には由美ちゃんとは違う情報。とても参考になった。


「もういいでしょう。鮫島先輩。そろそろ、俺を解放してください。これ以上は有益な情報なんてありませんし。ほら、篠原先輩も来ましたよ。では、そういうことで」

「あ、待って」

「まだ、なにか」

「う、うん。えっと、神津くん。文化祭はなにするの?」

「壁です」


即答。私は首を傾げる。


「それって、劇とか?」

「そんなところです。じゃあ」


 神津くんは足早に去っていく。私はその後ろ姿に声を掛ける。


「ありがとう。神津くん」


 やっぱり彼は振り向かない。でも、そこは彼らしいと思った。











 文化祭三日目。今日もいい天気。結果としてすべて晴れ。天気はしっかりお膳立てしてくれた。


「マク、おはよ」

「おはよう、翠。今日は一緒にたくさん回ろう」

「え? マク?」


 風の吹き回しか。はずみでこんなことに。想定外すぎて対応ができない。私は口をあんぐり開けていた。


「あれ? 翠はそのつもりじゃないわけ? 一年の彼を探さなくてはいけないよね。ついでにちょうどいいと思って」

「うん。そうだけど。でも、マクがここまでやる気になるとは」


 実際、どう切り出すべきか。ずっと考えてた。ここは強引にでも連れだそうと。そんな作戦まで立てていた。なのに、あまりにもあっけなすぎる。張り合いがないなんて言わないけど。昨日の帰り、マクは何も追求しなかったのはこういうことか。やっと合点がいく。 


「そりゃやる気にもなるよ。僕の大切な幼馴染が全校生徒の晒し者。こんな事態は防がないといけないね」


 言葉とは裏腹に顔が笑ってる。マクもさりげなく楽しんでた。


「まあ、一緒に探してくれるなら助かるし」

「うん。助けるよ。翠が生徒会長候補アピールのパフォーマンスとして告白される。これはだめだ。だったら、翠が僕に告白してくれる方がいいじゃないか」

「ちょっと、マク。止めてってば」

「おっと、そうだった。さあ、行こっか」


 なんかテンションが高い。基本、ダウナー系のマクなのに。ただ、私としては新鮮。てか、懐かしいかもしれない。昔のマクはこんな感じだった。こうやって、私を連れ回す。だから、私はマクの後ろを歩くだけでいい。マクが道しるべを作ってくれたから。


 ともあれ、今日の私たちは何もない。クラスや文化祭実行委員尾の活動にかり出されることもなく。イレギュラーな事態も起こっていない。なので、好き放題満喫できるはず。まずは一度外に出て、マクが書いた校門前の看板を見ておく。その時、マクは描いた絵を一生懸命に説明。とはいえ、そこで私が分かることはあまりない。色使いとかさっぱり。だから、マクが真剣に話すのを聞くだけ。でも、すごく心地良かった。これはマクが前に言ってた感覚。絶対で最強の空気感に近い。お互いに意識して失ったりもしたけど、また復活してきたと思う。だって、私もマクも違和感を抱かない。つまり、自然体。その調子でいられたら最高。やっぱり最強。幼馴染無敵。たとえ、大きな困難がやってきたとしてもなんとかなる。こんな雰囲気でいられた。


 そして、空気も景色も周囲の人も。すべてが違って見えてくる。なんでこんなことでと思うのに。でも、なんとなく納得してしまう。不思議。私は自分の感覚がどうなってるのか。さっぱり分からない。ただ、心の懊悩の抱えてないマクが近くにいてくれる。その上、幸せそうに笑う。このことで、私は私自身が強化されていく。そんな気がしてならなかった。


 マクの描いた看板を抜けて中へ。最初にたくさんのイラストが目に飛び込んできた。中にいた時は違う。外から来ると結構なインパクト。あれは美術部の女子が描いたらしい。後は有志の人だという。たとえば、クラスに一人は絶対にいる。やけに絵の上手い人が。


「どこ行く?」

「上へ行こうか」


 返事は即答。マクは高い場所へ行きたがる。これは三波ちゃんの影響か。元々そうだったけど、その傾向がさらに強くなった。


「じゃあ、屋上以外かな」

「そしたら、屋上手前で」

「そこは何もないよね」

「うん。二人きりになれるだけ」


 ぶん殴っておいた。さらりと恥ずかしいことを口にするな。ドキン。ドキン。私の心臓がおかしくなる、てか、最近はこの手の攻撃が多い。これもマクが、へんな覚悟を決めたせい。いや、へんな覚悟ではないんだけど。


「実際、どうすんの?」

「サイコロ振ってみる?」

「なにが出るかな?」

「そっちじゃないし」

「止まったマス目で人生の縮図が書いてあったりして」

「そっちでもないな。んん?」

「あ、マク。あっちへ行こう」


 私は慌てて駆けだす。それもマクの手を引っ張って。なぜなら、マクの視線がお化け屋敷を向いたせい。あそこに連れて行かれたらひとたまりもない。腰砕けになってしまう。なので、私はマクの手首を握って連れ回す。あっちこっちそっちどっち。果てもなく続く道。人いきれ。目的はどこなのか。単に迷ってるだけとも言えよう。


「えっと、向かう先は女子トイレ?」

「そことは違う方角」

「女子更衣室?」

「そことも違う方角」

「だったら、男子トイレ?」

「私に入れって言うのか」


 なんたって白々しい。私はそっちの方を向いてないのに。文化祭的活動はいつになるのか。マクの気が知れない。


「翠が振り回すからだよ」


 そんな文句を言うと、マクが反論。たしかにそうかも。


「だってさ、マクが怖いところに連れて行こうとするから」 


 だいたいあれだ。お化け屋敷系のアトラクションが多すぎる。まあ、喫茶店と並んで定番なのは分かるけど。先々で見かけるのはどうかと思う。


「とはいってもね」

「なんか、嫌な予感がするんだけど」

「もう覚悟を決めないと。お化け屋敷。そろそろ入りたい気分だし」

「えー。そんな」

「天の啓示だよ」


 そんな神様なら信じたくない。私に不都合な事態をもたらす神様なんて。


「しかし、マクも底意地が悪いよね」

「うーん。そうかな。絶対にやっておいた方がいいと思うよ。吊り橋効果って知ってる?」

「もうさ、ずっとドキドキしてるから」

「え? なに?」

「べつになんでもないし」


 聞こえなくて助かった。私の感情を晒してしまうと、それがすべて弱みへ。おお、危ない。


「てか、マク。テンション高いよね」

「ああ、寝てないから」


 マクが気になることを言う。寝てない。それは彼にとって深刻な問題だ。これまでずっと睡眠が上手く取れてなかったから。たぶん、いろんな思いがフラッシュバックするんだろう。推測だから正確なところは分からないけど。


「ただ、そうは言っても意味合いが違うぜ。僕は楽しくて眠れないんだ。ある種の自覚的な眠れなさ。神経が興奮してると言えばいいのかな。だから、おそらくは文化祭が終わったらバタンキューだね」

「ふーん。それなら問題ないか」

「うん。そういうこと。だって、僕が翠に過ごせるのはとても楽しいことだし」

「今、すごく大切なことを言い放った気がするんだけど」

「気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないし」

「じゃあ、そういうことにしておく。さあ、入るか。ここが最後のポイントだ」

「え?」

「ん? どうしたの? 翠」


 気がつけば、すでに受付を済ませた後。お化け屋敷だ。しかも、結構大きな規模。今まで見た外観よりずっと大きい。残り物に福なんてなかった。


「って、えええー。いつのまにか誘導されてる私っ。どういうことなの?」


 マクはリード上手だったのか。皮肉の一つも言いたくなってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ