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幼馴染の彼女にしておく  作者: トマトクン
第四章 『そして、姫君が救出されていく』
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7

 文化祭まで残り二週間。そろそろ、クラスでも本格的な活動に変わっていく。部活動は短縮されて文化祭準備へ。もっとも、文化祭実行委員は結構前から準備を開始。なので、私はだいぶ前から文化祭モード。これは去年の文化祭を楽しめなかったから。理由は私とマクが互いに問題を抱えてたせい。もっと言えば、私は文化祭の時点で問題が解決してない。ちなみに、マクはまだ引きずってたっけ。


 ともあれ、私にとっては文化祭初参戦といってもいい。純粋に楽しめるという意味で。クラスと協力して、出店の計画を立てていく。私のクラスはコスプレ喫茶。定番すぎて使い古された手法。しかも、ラブリーなイメージでやることはハード。特に女子の負担が大きすぎた。


「みどちゃんはもちろんあれだよね。ウエイトレス」

「え? 私は裏方がいいんだけど。裏方ソルジャーで」

「あはは。裏方ソルジャーってなに?」

「ノリ? 兵士みたいにばりばりがんばる」

「ほうほう。そんでソルジャーね」

「そ。ハイパーソルジャー目指すよ」

「だめ。却下だー」

「えー」


 いつも一緒に話す女の子――由美ちゃんが体の前でバッテンを作る。得意のオーバーアクション。私も大概でないけど、レベルが違う。小さな体をいっぱいに使って表現。おかげで、やってた作業が中断する。


「だってさ、みどちゃんはクラスきっての主力。だめに決まってんじゃん。ゴールを量産するエースがベンチなんて。そんなチームありえないって」

「私がソルジャーになりたくても?」

「もちろん。司令官の命令だからね。敬礼!」

「はっ! 分かりました。司令官!」


 敬礼。思わずノリでやってしまった。少し恥ずかしさがこみ上げてくる。ただ、由美ちゃんは満足したみたい。首を大きく振って頷く。


「てか、みどちゃん。ちんちくりんの私だってかり出される予定なんだからね」


 本人はいたく謙遜。でも、由美ちゃんはお人形みたいでかわいい。少女らしい魅力がある。


「ここは一つ、みどちゃんにも引き受けてもらわないと。とくに男の子たちが黙ってないと思うよ。みどちゃんのコスプレを見たい人がたくさんいると思うし」

「だけど私、打診されてないよ? 由美ちゃんみたいに。だからやんなくても――」

「だから、みどちゃんはだめなんだよー」

 急にだめ出しされた。なんだっていうのだ。


「みどちゃんはウエイトレス。そんなの当たり前だって。みどちゃんがクラスの中で群を抜いてかわいいんだから。しかも、スタイルまで完全体なんてっ」


 ちょっと過剰なスキンシップをされた。少し泣きそう。文化祭の準備作業も放り出したまま。


「それに篠原くんだって見たいと思うよ」

「え? マク?」


 すかさず反応してしまう。マクの名前に。


「そう。愛しのマクくん」

「そ、そこまで愛しいわけじゃないもん。幼馴染としてほんの少し愛しいだけ」


 これは言い訳。あまり効果もなく。かえって目を細められた。


「かぁわいい。かわいすぎるよ。さすがはクラスにおける垂涎の的。高嶺の花のお姫様。篠原くんも羨ましいな。こんなにラブリーな女の子と幼馴染で。私なら欲望に負けそうだよ」

「えっと。私、やっぱりお姫様なの?」

「んん? なんでそこに注目するのかな。あ、さては篠原くんに守ってもらったとか? だからお姫様? 正解?」 

「半分くらいはね」

「半分か」


 自分の顔の前で、左右分割するように手を添える。変顔もプラスされて面白い。本当にオーバーアクションの伝道師。レパートリーが豊富だ。


「しかし、みどちゃん。最近はどしたの? 篠原くんと」


 舌足らずな感じで尋ねられた。なのに、ちゃかした様子はなし。これは由美ちゃんの人柄か。ここまで心配されるなら、説明しないといけない。


「うん。それがね」


 やっぱり説明できない。私だけがマクと気まずくなってる理由。それはマクのあそこを握ってしまったから。大きくて固かった。てか、これでは私がエッチな女の子みたいじゃないか。いや、実際にそうかもしれない。だって、まったく切り替えられないんだし。


「で、それが?」

「う、うん。私にも分からなくて」

「ふーん。そっか」


 由美ちゃんが額に角を生やして考えだす。しかも、その角がメトロノームみたいに動く。この手の動きには何の意味があるんだろう。などと考えてもむだかな。ただ、なんとなくのノリでやってそうだ。おかげで、由美ちゃんと話す時はノリでの会話が多い。それが由美ちゃんのリズムだから。


「んで、結論は? 教えて司令官っ」


 敬礼。今度は恥ずかしくなかった。


「う、ううむ。それはね。うんと。うーん」


 なぜかせっぱ詰まっていく。なんだか見てて面白い感じ。


「あっ!」

「んん?」

「あのさ、みどちゃん」


 急に顔を近づける。距離はまつげの一本一本が確認できる範囲。


「それは恋。恋だよ恋。確定。間違いないって。そんでタイトルはこうかな。私は幼馴染に恋してる。いいね。完全体だ」


「そのまんまじゃん。少しはひねろうよ」

「え? だめ? みどちゃん主演で映画化決定じゃないの? いや、むしろクラスの文化祭の出し物にしよっか。変更だよっ変更」

「映画化決定から文化祭の出し物って。グレード一気に下がったよね。高級フランス料理からお茶漬けくらいに」

「そんなことないよ。最強だってうん。分かってないなあ」


 その後、由美ちゃんにしっかりと最強の理由を説明された。正直よく分からなかったけど、盛り上がってる彼女は楽しい。とくにオーバーアクションが。なので、私はうんうんと頷く。










 

 事態は思ったよりも大きくなった。しかも、へんなところが繋がっててびっくり。そのせいだろう。預かり知らぬところで物事が進行。そんな感覚に陥っていく。


 ともあれ、由美ちゃんの適当な閃きから一時間後。ずさんな計画は実行へ。なんという行動力。必要な人物も呼び寄せてしまった。はたして、どうなることやら。なし崩し的にこうなったとしかいえない。流れに任せすぎたかな。


 クラスの文化祭準備はすでに終了。ただ、今日の予定通りには進んでない。少し遅れてる。でも、これくらいは間際の馬鹿力でなんとかなると思う。それが文化祭の雰囲気。去年だって、絶対間に合わないと言われた分野があった。たとえば、校門の看板イラスト。ここは最大級に目立つ作品。文化祭の肝といっていい。これを美術部の人と有志が担当した。しかし、慢性的な人手不足で明らかに大変そうだった。なのに、徹夜して完成させたと聞く。


 そういった去年の情報も確認して、文化祭実行委員は計画を立ててるんだろう。マクも大変だ。議事録とかもあるって言ってたし。こういうのを微に入り細を穿つなんて言うのかな。由美ちゃんの計画とは大違い。比べるまでもない。


「心配なんか無用だって。みどちゃん」

「てか、マクの性格からして違うかも」

「そんなのやってみないと。ものは試しだよね」


 胸の前で両手握り拳。気合い入りすぎかな。


「だいたいさ、こんな面白いことは絶対にやるべきだよ。よしっ。はたちゃんにも伝えなくては。はたちゃんの方がみどちゃんの扱いが上手だから」


 やっぱり、そっちがメインなのね。私を実験台にして楽しむ予定。いいとも。受けて立とうじゃないか。


「で、結局どうなりました? 由美姉の思いつきを受け入れるんですか? 鮫島先輩」


 しびれを切らしたらしい。呼び出された彼――次期生徒会長と噂される律くんが私に問う。


「どっちでもいいかな。でも、なし崩し的にそうなるかも。ニ対一だから。しかも、もうノリノリだし。たぶん、畠山ちゃんも賛成だと思う」

「だね」


 と、由美ちゃん。


「鮫島先輩もとんだ災難で」


 律くんは同情心のこもった声で言う。つまり、彼も気まぐれで呼び出されたのか。


「しかし、由美ちゃんと律くんがいとこ同士なんて。世間は狭いというか。それにいいの? 文化祭実行委員の会議を抜け出してきて。生徒会でないマクだってちゃんと出てるんだよ」

「そうですね。ここだけの話、あまりよくないと思います。なので、こっそり抜けてきたんですよ。由美姉のために。ただ、僕は小心者ですから心配になりますよ」


 それはおかしい。彼が小心者のはずがない。


「えー。そこは私への忠誠じゃなかったの?」

「むりやりです。小心者なので由美姉には逆らえませんよ」

「ふーん」


 二人はどんな関係だろうか。いとこ同士にしては特殊のような気がする。


「ただ、小心者はなあ。そんな人が群衆の前でブレイクダンスはしないよ」

「あー、そこをつかれると何も言えませんね。とはいえ、僕には自覚がありますから」


 本人が思うなら仕方ない。私は律くんを大胆不敵な人物だと思ったけど。


「てか、いいの? 小心者の人間がお付き合いのフリなんかして」

「みどちゃん。だからいいんだよ。ほら、細心の注意を払って任務を執行できるし」


 その言い分は間違いなく後から付け加えたと思う。


「律くんは?」

「うーん。どうでしょうか。なすがままですかね。とにかく諦めてます。由美姉の言うことですし」

「つまり、頭が上がらないんだね」

「そーいうこと。私が律の面倒をよく見てたから」

「おっしゃるとおりで。だから、こんな関係なんです」


 律くんが頭をかきながら一言。やはり、覚悟が決まってるみたいだ。しかし、彼にとっては慣れっこなんだろうか。私は気が気でない。どうなるか想像もつかないから。本当に大丈夫なのかな。


 ともあれ、私の状況を打破するきっかけになればいい。最近はマクの方が余裕があっていただけないし。私が優位になる化学反応が起こってほしい。なんて算段を企てる。


「さて、それじゃあ今回の作戦名を発表するよ」


 ドルルルルル。ドルルルルル。自作のドラム音で盛り上げようとする由美ちゃん。手も波打つように上下へ動かす。いつもみたいなオーバーアクション。見た目は面白いことになってた。というか、二人がいとこなのはよく分かる。体を使っていろいろと表現するからだ。


「題して、篠原くんは嫉妬する。どう?」

「だから、ストレートすぎだって。もっとひねろうよ。由美ちゃん」


 しかし、私の指摘に不思議そうな顔。


「おかしいなあ。完全体だと思ったのに。そこのところは厳しいよね。みどちゃん」


 そうでもない。私が普通だと思う。一応、律くんを見るとしっかり頷いてた。











 篠原くんは嫉妬する。略してシノット。


「……」 


 まったく。へんなところで略さないでほしい。マクが死にたがってるみたいじゃないか。なのに、私の抗議は却下。他に適当なのがないから。なんて言われたら仕方なし。いや、仕方なくなかった。大いに問題ありだ。


「にしてもねー。こんなアドリブだらけで大丈夫なの?」


「大丈夫。みどちゃんが律を好きに使えばいいから。彼は割と対応力があるよ。アドリブにも強いし。ただ、突然意味の分からないことをするからなあ」


 律くんが戻ったので言いたい放題。あ、違う。いても変わらなかった。


「てか、それは由美ちゃんも一緒だし」

「私?」

「自覚あるよね?」

「自覚? あ、あるよ。うん。まあ、いいじゃないか。ねー」

「うん。いいと思うよ。ねー」


 ねーって同意してほしそうな雰囲気。なので、私も由美ちゃんと同じようにする。まあ、実際にいいから問題なし。逆にそれがないと由美ちゃんではなくなる。


「とにかく、これから律くんとお付き合いか。形のみだけど」


 ある意味でいびつなやり方。もしかしたら、あの疑似関係と変わらないかもしれない。マクがお兄さんになり、加絵先輩が妹へ。お互いにその関係を強く欲してた。おかげで、どんどんと内へこもっていく。あの時もそうなる気配があった。


 ところが今回は逆。内側でなく外側。私と律くんはお互いに外を向いてる。私はマクで、律くんは加絵先輩。互いに違う人を刺激するため。しかし、なんという因果か。不思議すぎてびっくりだ。


「そう。お付き合いね。これでみどちゃんも元通りへ。自分を取り戻すきっかけになるからね。んで、ついでに私たちも楽しませてもらおっかな」

「そっちがメインなのは分かってるし」

「やっぱり?」


 由美ちゃんが茶目っ気あふれるポーズ。やっぱりオーバーアクションだ。


「ただ、本当にいいのかな?」

「律? だったら心配しなくていいよ。華奢に見えてタフボーイだし。たぶん」

「違うよ。マクのこと」


 私はマクと加絵先輩の関係を否定したのに。だけど、同じことをしようとしてる。内側と外側の違いはあっても。ただ、それは私が考えた区分。あまり理由にならない。


「みどちゃん。大丈夫。保証はないけど。見切り発車だって大事だよ。うん。よしっ。司令官よりソルジャーに命令。文化祭までのあいだに作戦を遂行せよー」

「ラジャー」


 敬礼。今日の流れで乗ってしまった。てか、どんな経緯で由美ちゃんが司令塔になったんだか。そのせいで命令されてしまう。


「ソルジャー。ついでに、篠原くんをマクと呼ぶ由来を述べなさい」

「はっ、司令官。私が篠原くんをマクと呼ぶ由来ですか。それは幼馴染だからです」

「たりなーい。もっと具体的かつ分かりやすい説明はないのかね。尋問しちゃうぞ」


 かわいい看護婦が注射しちゃうぞなんて言うノリ。そんな場面は見たことないけど。


「えっと、司令官。それはですね。マークが短縮してマクになっただけで。それまではちーくんと呼んでたんですよ。ただ、あることをきっかけに、私はその呼び方を止めました」


 ちーくん。その、昔から続く呼び方。お姫様な私。王子様のマク。このような頃だ。私が模倣する彼らのストーリーはいつもきれいに繋がっていた。王子様は頼れて、お姫様はかわいい。それは世の中に知られてる話だけでなく。どんな話でもそうだ。たとえば、私とマクにある日常でも変わらない。実際にそうだったと思う。


 だから、マクに頼りっきりだった幼少時と決別するために。私は意識して呼び方を変えた。もちろん、マク自身がいろいろあったせいもある。それで私が騎士にならなくてはいけなかったし。そう。戦う。それが必要なことになったから。


「みどちゃん。そのきっかけって?」


 きっかけ。私が決意した瞬間。


「うん。マクがマクらしく戻るまで。ずっと、見続けないとって考えた日。いつでも注目してる。なんて意味を込めてマークをマクにしたの」


 話を終えて考える。これを誰かに言ったことはあったかな。思い返す。たぶん、記憶にない。言ってないはずだ。それはマク自身が変わってなかったから。ただ、最近のマクは違う。それも私がドキドキして困惑するほどの変化。おかげで、昔のお姫様が顔を覗かせる。もうマクのことで気を張らなくていい。などと示唆してるように。


「そうだったんだ。みどちゃんもただ呼んでるわけじゃないんだね。ちゃんと理由があった」

「そう。でもね、この話は誰にもしてなかった。だって、そうやって呼び続ける必要性があったから。理由を言うと効力が切れそうな気がしたの。だけど、最近のマクの変化。おかげで戻した方がいいと思えて」

「それは篠原くんに恋してるからだね。彼の名前を呼びたくなったと」

「べつにそういうつもりじゃなくて」


 そこは違うのに。でも、めんどくさいからそのままにしておく。


「うんうん。いいことだ。つまり、なおさらアクションをしかけないと。今の状況を打破するためにさ。特にみどちゃんはたくさん武器があるんだし。それを思う存分活用しないと。女の子は自分の強みを使わない限りそのまま。ずっと女の子だよ」

「その言い分は由美ちゃんに当てはまるよね。活用してるの?」

「私? うーん。企業秘密でーす」

「企業秘密かー」

「あー、企業秘密というよりは企業努力をしてない感じか」

「またまた」


 そんな人が私に忠告なんかしない。いや、由美ちゃんならありえるかな。ぱっと思いついたことを言う可能性も。


「ほら、とにかくね」


 話を逸らした。


「うん。律は役に立つと思うよ。よいご報告を楽しみにしてる」

「ご報告?」

「え? 違うの? てっきり篠原くんに恋してて困ってると思ったのに」

「違うって。ニュアンスが違うからね。私はマクの変化に対応し切れてない。だから、現状を打破できないということ」

「うーむ。まあ、いいじゃない。細かいことはなしにしよう。オッケー?」


 由美ちゃんのノリ。結局、私も乗せられた。


「まあ、いっか。うん。オッケーで」

「だねっ。イェーイ」


 また、面白いオーバーアクションをしてる。

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