EP-02 結華と絆
コントラクトソウル、第三話となります。
杖を届ける事になった絆の物語。
さて、二人が出会うと何が起きるか・・・
桃花の町は山々に囲まれた盆地だ。
今でこそ道路が山を貫いてはいるが、山を登ればかつての十二階位の痕跡を見る事ができる。例えば、第三階位のお城とか。
今、絆は杖を片手にバスに揺られていた。
杖は竹刀を入れる袋にしまっている。一般人から見ればただの剣道少女のはずだ。
「あーあ、ママと御簾さんが暇なら車で送ってもらうのになー」
ママ、とは嶺と同じく養子としての母親。現在23歳なので一般的に言うような「母親」ではない。
だが、もう10年以上一緒に過ごしているので絆としては母親だと胸を張って言えるのである。
「ママは暇なんだけど御簾さんが忙しいとは・・・とほほ・・・」
この母親にはいくつか重大な欠点があった。
その一つがその運転の荒さだ。
かつて絆が急ぎの用事で車を飛ばしてもらったら、文字通り、飛んだ。
数々の格闘技法や嶺の「大鷲」に乗って空を飛ぶといった経験のある絆でさえ車酔いでしばらく動く事ができなかった。
「あはは、だらしないぞー絆ちゃん!」
「瀬名、お前の運転は同乗者に優しくない」
母親、瀬名とその双子の妹、御簾の会話が頭をよぎる。
バス代がかかってしまうが数百円を惜しんであの暴走運転を逃れられるなら、バスは正解だったかなと小さく頷く。
バスの景色は既に山を切り裂いた道を抜け、桃枝の町に入っていた。
一級河川である桃枝川の橋を渡り、桃枝市の中心にやってきた。
「次は桃枝市、廃ビル前ーお降りのお客様はお手元の停車ボタンをお押しください」
運転手の声が車内に響く。絆は素早くボタンを押した。
「次、止まります」
綺麗な電子合成された声が響いた。
なんでもこのバス会社は今話題の歌姫を雇ったとか聞いたなと思い出す。
バスがゆっくりと青い壁の前に停車した。
絆は小銭を支払い、バスを降りる。
桃枝の天気は今日も晴れ。
盆地の桃花と違い、雨が多い桃枝も10月の寒空が連日続いているのだった。
「さてと・・・分校はどこかなっと」
桃枝分校を探してキョロキョロと周囲を見回す。
「あ、あれっぽい」
赤い屋根の大きな建物が見えた。
その周囲には結界が見える。
「見た感じ、侵入者と防御の複層結界かな?流石に本校に比べたら手薄か」
仮にも一般人が多い分校と能力の暴発や能力者の喧嘩が日常茶飯事の本校ではそれは当然防御層も違う。
ちなみに、本校の場合は最前面から防御、視界誤認、防御、侵入者感知、能力離散の複層結界である。
「もしもーし、学園本校の風翼 絆でーす」
耳につけたヘッドセット型の通信端末に向かって叫ぶ。
声は分校に伝わり、分校からの返事が来る。
「お疲れ様です。お入りください」
絆は杖を持って分校へと向かった。
木の床を踏んで、周囲を見回す。
既に放課後で学生の姿はまばらだった。
「ここにはいないわね」
絆は階段を昇って行く事にした。
校舎を登り、3階へ進む。
「あ、誰かいた」
どうやらこちらに向かって来る人影がいた。
「ねぇ、ちょっといい?」
絆は赤髪の女子生徒に声をかける。
「はい?」
何気ない返答、だが、唐突に襲いかかる強烈な違和感。
能力が本能的に作動する。
(・・・何、この感覚!)
背筋を悪寒が走り抜ける。
「ねぇ、鴻上 結華って子を探してるんだけど、知らない?」
冷静に、聞いた。
胸のざわつきは焦燥に変わっている。
「・・・」
赤髪の少女の警戒の眼差し。
流石にこれでは話もできない。絆は目の前の少女に名乗ることにする。
「私は風翼 絆。別に怪しい者じゃないわ」
警戒は変わらず続いているが・・・ほんのわずかに空気が緩む。
目の前の少女はやや大きな目で、どこか上の空な雰囲気をまとっている。簡単に言えば不思議系、というとこか。
「私が結華ですけど・・・」
ビンゴ!小さくガッツポーズ
「あなたが結華ちゃんね、カズネン・・・ううん、武藤 和音からあなた宛に荷物があるの」
杖を取り出し、結華に押し付けるように渡す。
焦燥はいつのまにか小さな恐怖に変わっている。
何故、どうしてこんなにも怯えているのか自分でもわからない。でも、確実に、結華の能力は、自分に害をなす!
(私の能力、【始端と終端の境界者】が反応してる・・・?この子の能力って・・・)
「えっ、和音先輩から?!」
結華の手が、絆に触れた。
(ふーん、そんな能力あるんだ)
唐突に頭の中で結華の声が響いた。
(私は鴻上 結華。あなたの天敵の能力者)
目の前の少女は無邪気に杖を眺めている。なら、この声は・・・?
(始まりと終わりを操る能力も、【生きながらにして死んでいる】能力者には効かないでしょ?)
信じられない事に、生きながらにして死んでいる能力者だと暴露された。そのあまりにも規格外な能力に絆は閉口する。
(安心して、別に危害は加えないわ。「私」をよろしくね。)
フッと気配が消えた。
「今のは・・・?」
思わず結華を見つめる。
彼女ではない彼女。何故だか「青い髪」の姿だったような気がした。
「和音先輩が、私に・・・」
杖を振り回す勢いでいじくっている少女に内心ため息をついた。なんでこんな子に怯えてるんだろうという情けなさと、ちょっとだけ和音になついた事への嫉妬も混ざった目で見つめる。
「じゃ、渡したから帰るわ」
帰ろうとする絆に結華が声をかける。
「ありがとう、絆ちゃん!」
思わずカチンときた。
「私と和音は同い年なんだから私の方が先輩なのーーー!!」
十二階位システムのせいで序列には敏感な絆なのであった。
「うるせーぞそこの乱数共が!」
階段から怒鳴り声が聞こえた。
「お前ら一体なに騒いでる!デシベルたけぇんだよ!」
数学教員、那由多 透が走ってきた。数ヶ月前まで本校の教員だった人物だ。
「あ?絆か、どうしてここに来た?」
「那由多先生、お久しぶりです」
短い挨拶。
「少し、届けにね」
結華の杖を親指で示す。
「なるほどな、解がわかったぜ」
さすがは数学教員である。
まったくの余談だが、彼の口癖は・・・
「世界は数学でできている!逆算すればすべての原因を知る事ができる!」
世界は数学でできている!である。
学園では一日一回は言わないと死ぬ、と噂になっていたくらいだ。
「なるほどな、よし、あんまり騒ぐんじゃねぇぞ?」
そう言って踵を返して帰って行く。
変わった人だが、根は良い人なのだ。
「行っちゃったね」
結華が言って、絆も、そうねと短く返す。
「私も帰るわ。やることやったし」
絆もまた、階段を降りて行く。
「またね!」
なんだかそんな声が聞こえた気がした。
階段を降りて1階へ。
まるで待っていたように那由多が声をかけてくる。
「気付いたか?あの能力に。」
始まりと終わりが両立される能力。あえて言うならば、あれは・・・
「半人半霊の境界者、とんでもないのがいるじゃない」
恐らく、絆と並ぶ世界のイレギュラー。
死にたくない、と死の淵で叫んだ絆の能力と同じ世界の法則を歪めうる異端。
「『聖十字教会』どころか、学園すらも見落とすなんてありえないわ」
学園と対抗する主に西洋で権力を持つ能力者集団。それが教会である。
リーダーは「アリサ・ナイゼルフォート・リシュトーレン・ハルヴィア」。
最強とも言われる火炎系の能力者である。
直接であった事は無いが、その能力は街をまるごと一つ蒸発させる事も可能だという。
きっと女王様気質の人間に違いない。絆は勝手なイメージを膨らませる。
「どうもこの街がおかしいらしい。インパルス周波数が急激に増えている。この解がどこに収束するか、不等式が大きすぎて無理数だ」
どうやら那由多ですら予想外の要因があるらしい。
「なるほどねー。この街、一体どうなってるのよ」
少なくとも、平和ではなさそうである。
何らかの要因があるはず。それを突き止めれば・・・
「まぁいい。俺の計算ではあと7日でインパルスが最大値に集合する。その時に何が起こるのかはわからない。だが何かあれば本校からこっちに応援を送るように校長に言っておいてくれ」
那由多はまた踵を返して歩き去っていった。
絆も、もうやる事はない。桃花に戻る事にした。
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あとがき
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こんにちばんは!白燕です!
今回は投稿がちょっと空きすぎました。
前から書きあがってはいましたが、ゲームと若干すり合わせをしました。
今回から割とゲーム部分に関わる場所が増えてきます。
ゲームを未プレイの方はゲームをプレイして
「あ、ここか!」
となってもらえればと思います。
これの投稿日はゲーム発表までいよいよ1ヶ月なタイミングで投稿されています。
ゲームの方もエンディングを作成中です。
プレイする方はどのエンディングを見るんでしょうか?楽しみです。
それでは、今回はここまで。
また次回お会いしましょう(・▽・)ノ