EP-0 絆の物語
この物語は作者、白燕の個人製作のゲーム『コントラクトソウル』の裏側を補完する小説です。また、この小説は『だいろくかいい!』の設定を受け継ぎ、同じ世界観で進行しています。
またゲーム『コントラクトソウル』は『だいろくかいい!』の設定を受け継ぎ、同じ世界観で、別の町で起こった事件を記録しています。
また同時に、公開済みのゲーム『フラクタル~『いち』と『はんぶん』』とも話が一部リンクしています。
あわせてプレイされると両方のゲームを楽しむ事ができ、この物語の意味を理解できるかと思います。
この物語だけでは理解できない部分もあります。逆に、ゲーム中には知ることのできない面での物語を知る事が出来ます。
読んでからプレイするか、プレイしてから読むか。それは読者様のお好みで・・・。
『東歴』2013年。
世界は今日も順調に回っていた。
歩く人々の喧騒。
働く人々の焦燥。
そういったざわめきの中を泳ぐような日常。
人口が70億人を超えた世界は数多の欲望を抱えていた。
理想の姿形を手に入れたい。
高級外車を倉庫いっぱいに並べたい。
『生き残ればどんな願いでも叶う場所がある』
気付けば、そんな都市伝説がいつの間にか流れていた。
誰が、いつ、どこで流したのかわからない噂。
でも、その噂が本当だと信じる者は聞いた。
『その街は、どこにある?』
『『桃枝市』のどこかにあるらしい』
願いを叶えたい人間はその街へと足を向けた。
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既に秋も更けた10月の寒空の下、一人の少女がぼんやりと空を眺めていた。
「あーあ、パパはもう日本を発ったかなぁ・・・。」
ここは桃花市、その住宅街に建つ古い日本家屋の縁側でだらんと力なく少女は仰向けに寝転がっていた。彼女の名前は、風翼 絆。この家、風翼家の養子であり、現在唯一の留守の番人である。
「今度の任務は・・・海外かぁ・・・。また厄介なんだろうなー・・・。」
彼女の父親・・・と言っても、実際には複雑な経緯があって2歳しか離れていない。本来は『お兄ちゃん』とか『兄さん』とか、『お兄様』などと呼んでいてもおかしくない・・・むしろそれが自然ですらあるのだが、やはり複雑な経緯で『パパ』と呼んでいる。
実際、『パパ』は家の収入源であり、一家の・・・いや、風翼一族の大黒柱である。
『パパ』こと風翼嶺はいわゆる『何でも屋』と言うヤツだ。
依頼があれば報酬と引き換えにどんな仕事でも完璧にこなす。それこそ、近所のゴミ拾いから要人の身辺警護まで、文字通り『何でも』解決する。
そんな嶺が今回旅立ったのは、世界的にも情勢が不安定だと有名な国。内戦が続いたせいで軍部の統制が乱れたままで国内は相変わらず争いが絶えないという。
「なんで人間、仲良くできないのかしらねぇ・・・。」
絆は面倒な人間の本性と、将来の自分の仕事を否定する。
彼女は風翼の人間。いずれはその家業を継ぐ事になるだろう。
・・・と、持っていたケータイ電話が鳴りだした事に気づき、絆は通話ボタンを押す。
『・・・久しぶり、キズナン。元気だった?』
電話から聞こえて来たのは、同じ学校の親友、武藤 和音の声だった。
「カズネン、久しぶり~。今、どこの任務だっけ?」
彼女も、まぁ広義には何でも屋の卵。狭義には『精錬学園』という組織の人間だ。
この『学園』は表向きは超エリート国立学校として存在するが、実際は『能力者』と呼ばれる異端の存在を監視、教育、そして国に利するために様々な依頼を請け負う言わば『秘密組織』といったものだ。現代人には『組織』とでもいう方が的を射た解答なのかもしれない。
『今はね、お隣の町。桃枝市の『精錬学園・桃枝分校』にいる。』
彼女の聞き慣れた声が今の居場所をあっさりと告げる。
「あれ、今回は言えるんだ。」
『まぁ、普通の生徒を演じてるだけだしね。』
意外な答え、そして、普通の生徒? そう、疑問を呟く。
『うん、学園にはいくつか分校があるじゃない?海外とかにもさ。』
絆は小さく相槌を打つ。
『この分校に本校に招くレベルの能力者がいるかの確認と・・・』
そこまで言って、彼女は何かを唸るように声を出す。
「あー、言えない内容?」
守秘義務やら任務中の秘匿事項と言うヤツだ。任務によっては内容が漏れると取り返しのつかない事になるものもある。そう言う場合には学園で『口外不可』の術式を受けて『禁則事項となる部分を話す事が出来なくなる』。
今回もそういったものかと聞いたが、違う、と短く答えられた。
『最近の噂、聞いた?あの願いを叶えたい者は・・・ってヤツ』
言われてむむむ・・・と少しだけ考える。
そして、思い当たる項目が浮かび、あぁ!と手を打つ。
「それって、『桃枝市で願いがかなう』って都市伝説?」
誰も出所を知らない噂、都市伝説。
口裂け女やテケテケなど、都市伝説を聞いた事のない人間はいないだろう。ああいった噂はとにかく伝播が速く、気がつけば社会の常識となっている事もある。
『そう、その都市伝説。・・・その調査に、ね』
和音の言葉は歯切れが悪い。まるで信じていないというニュアンスだが、ややひっかかる。
「嘘に決まってるじゃん」
夢が無いようだが、これが現実。嘘は噂として伝播し、いずれ事実と誤認され、真実と認識される。それが都市伝説のカラクリであり、嘘のドミノ倒しの結果である。
『・・・それがさ、そうでもないみたい。』
だから、この答えには、驚いた。
「どういう事?カズネンがそう言うってよっぽどだよね?」
今まで、この親友とは数々の死線を潜り抜けた仲だ。無条件に都市伝説を信じる人物でないのは絆が一番わかっていると自負しているのである。
『この町に入ってさ、私、ヘンな何かに襲われたんだ』
「ヘンって?痴漢・・・は、ないね。今頃ひき肉だ。」
彼女の能力の強さは良く知っていると自負している。
『それがさ、幽霊』
「ないわー」
深刻に話す親友と、それを軽く流す絆。
『ううん、本当だってば!だって、その時違う幽霊に助けられてさ・・・』
すぅ、と小さく息を吸う音がした。
『俺と契約しろ。お前の願い、俺が叶えてやる』
低い声で、そう言った。
「・・・カズネン?いまのは?」
『その幽霊、『グラン』って言うんだけどさ。今、一緒にいるの。』
親友が妙な薬をやっていないかと心配になった。
『話を聞くに、あるのよ。願いを叶えるための戦いってやつが。』
絆はその言葉に半ば絶句し、半ば呆れた。
「カズネン、どういう事? ・・・詳しく聞かせて。」
だから親友に聞いてみる。
これから、巻き込まれるであろう厄介事の気配を感じて。
これから、巻き起こるであろう面倒事に備えるために。
それから、巻き込まれるであろう自分の役割を知るために。
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あとがき
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はい、お久しぶりです、白燕です!
長いですねー。間違いなく1年ぶり。
去年からゲームをひたすら制作していたので、小説を書く暇がなかなか・・・。というより、シナリオにブレが出るのが嫌で書くに書けなかったんです。ごめんなさい。
さて、この物語はまえがきとあらすじから分かるように、『だいろくかいい!』の正当な番外編であり、同時にまったく新しい『新章』となります。絆が、和音が、嶺が!またまた暴れ出します。
・・・もっとも、主人公は鴻上結華という別人ですが。
結華は次のエピソードで軽く触れる、予定です。
彼女の活躍はゲームでご確認ください。
また、去年公開した『フラクタル』もプレイすると登場人物達の複雑な関係がさらにわかりやすくなる、と思います。
異世界の魔王と、嶺と同じ存在の少年の因縁、
他の世界からのゲストキャラがいたり・・・。
いろいろ仕込んでいますので、是非プレイしてください。
また、ゲーム『コントラクトソウル』は年末の公開となります。
もうしばらくお待ちください。
年末なのは、某イベントに出品するためで、今年は結構頑張ってツクってます!
なので、ゲームを見つけた方は白燕に感想を送っていただければ嬉しいです。
では、長くなりましたが『あとがき』でした!
またお会いしましょう~