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忌み子  作者: 天宮 氷雨
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新たな刺客

いや、多分刺客じゃないです

「……ふぁー」

 いつの間にか寝てしまったようだ。木が生い茂っているために薄暗いが、木々の間から太陽を見ることが出来た。

「あれ、あいつら……」

 辺りを見回しても、金裄と封華の姿はなかった。寝ている間にどこかへ行ってしまったのだろうか。

「……まあ、いいか」

 寝首を掻くぐらい簡単だったろうに。それとも起きている時じゃないと面白くないとか。

「おい、雪姫。おーきーろー」

「……うぅーん。あと二日……」

「二日ってどれだけ寝るつもりだよ! さっさと起きろ!」

「はぁーい……」

 ゆっくりと毛布から雪姫が出てくる。

「ふぅぁぁあ……。ここどこだっけぇー?」

「東山だ。おら、さっさと帰るぞ」

 雪姫の返事を待たず、自分の荷物を荷台に乗せる。

「あー待ってよぅ……って、どうせ良介じゃ馬車動かせないじゃない」

「それが分かってるならさっさとしろよ!」



 自分達の根城につくと、まず荷物を降ろす。

「じゃ、雪姫。これ質屋に入れてこい」

「えー? 私ー?」

「ったり前だ。お前ずっと家にいられるとか思うなよ。つーか今回の件はお前の責任だろうが」

「ちぇー……まあいいや。じゃ行ってくるねー」

「おう。つかまったりするんじゃねぇぞ」

「はぁーい」

 雪姫を見送り、自分は家に戻る。

「あ、刀研がねぇと……」

 アメノムラクモを取り出し、どこからか砥石を持ってくる。

 金裄達との戦闘のせいでいくらか刃こぼれしている。

「あー血ぃついてら。仕方ねぇ、洗ってから……と」

 一通り血を洗い流し、丁寧に研ぐ。剣速が速いものだから余り切れ味は気にしなくてもいい様な気がするが、鋭さによって真空刃の伸びが変わるのでできる限り研ぐ様にしている。

「……よし、こんなもんか」

 刀を鞘に戻し、適当な場所へ投げる。

 そうして、暫くぼーっとしていると雪姫が帰ってきた。

「あれ? 随分早かったな」

「んー? そう? まあ、はいこれ。お金」

 雪姫から金を受け取る。

「ふーん……まあ、それなりの金額だな。まあいいや」

「今日はどうするの?」

「んー……。別にする事もねぇしな……。適当でいいんじゃねぇか?」

「じゃ適当に寝てるねぇ」

「……好きにしろ」

 と、言ったものの自分も特にやることがないのでその辺に寝っ転がる。

 辺りが静かになると外の音が家に流れてくる。

 鳥のさえずり、そばを流れる川音、風の通り抜ける音。

「……すぅ……」

「で、こいつはホントに寝てやがるし」

 だが、本当に眠くなるほど、静かで、それが心地良かった。

「……やべぇ……俺も眠くなってきた……」

 雪姫に加え、俺まで寝てしまっては危険だ。静かでも、この辺りには未だに盗賊がうろついているのだから。

 寝てしまわないように、体を起こし外へ出る。透き通るほどの青い空だ。

「……いや絶景かな」

「うおっ!?」

 いつの間にやら後ろに見覚えのない若い男が立っていた。

「誰だよお前」

「ああ。自己紹介が遅れたかな。僕の名前は『田南部たなべ 白夜びゃくやっていうかな。宜しく」

「お、おう……」

 あっけなくあちらに流れをもっていかれる。

「それでだね、少し聞きたい事があるかな」

「何だよ」



「ここどこ?」



 先程の男は今目の前で飯をかっ喰らっている。

「ったく。蓋を開ければ名前しか分からねぇんじゃねぇか……」

「そうかな。まあ、所在が分からないんじゃ流れ者でもいいんじゃないかな」

「そういう問題じゃねぇっての」

 男は名前以外の事を覚えていないようで、身のまわりに関する質問には首を傾げてばかりだった。

「ったく。妖怪とかじゃねぇんだろうな?」

「それはないと思うかな。特に力を使えるわけでもないし……」

「ふん。言ってみただけだ」

「うん。よしおかわり」

「黙れ馬鹿。図々しいだろうが」

「ちぇーつれないなー全く。で、この無駄にボロい家が君の家?」

「うるせぇ! 俺だって好きで住んでるんじゃねぇんだよ!」

 思わず声が大きくなる。

「へぇー……。じゃ君も流れ者?」

「いや違うが」

「ふーん……まあ、暫くお世話になりますー」

「ああ……て待てやコラ」

 着物から食器をとりだし、食べ終わったものと一緒に洗おうとしている白夜の肩をつかむ。

「ん? 何?」

「何じゃねぇよ。何でお前がここに居候する事になってやがる」

「え? 居候?」

「そうだ」

「居住じゃないの?」

「聞いてるのは言い方じゃねぇよ! 何でお前が住むんだよここに!」

「何でって、僕所在全然分からないし。流れからしてここにお世話になろうかと」

「どんな流れだ!」

「たっだいまー」

 そこへ、今まで寝ていた雪姫が目を覚ます。

「おい、なんで起きてただいまなんだ」

「いいじゃん。ていうかさぁー誰それ」

 雪姫が白夜を指さして言う。

「いや、なんか――」

「どうも初めまして白夜っていいます」

 無駄に爽やかに自己紹介する。

「なんでいるの?」

 ごもっともだ。



「……なるほどねー。つまり白夜さんは自分の境遇が分からず、さまよってたらなんか黄昏てる良介がいたから後ろに立って驚かしてやろうと」

「そう言うこと」

「で、白夜さんとしてはここに住まわせて欲しいと」

「理解が早くて助かるね」

「んー……」

 流石の雪姫も考え込む。

「な、やっぱ止めたほうが……」

「いいんじゃない?」

「っておい! あっさり受け入れるな!」

「えー? だって可哀想じゃん。別に追い出す理由もないし」

「いやまあ……確かにそうなんだが……」

 考えても、雪姫の言うとおり追い出す理由はない。

「じゃいいじゃん」

「はぁ……もう好きにしろ……」

 ここで俺は全てを放棄した。

「おい白夜」

「何?」

「ここに住む以上何もせずにいられると思うなよ」

「じゃあ、何すればいいのかな?」

「先日依頼が入った。お前のテストも兼ねて今日の夕方作戦を展開する」

「……穏やかじゃなさそうな依頼だね」





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