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忌み子  作者: 天宮 氷雨
2/6

羅刹

「取り敢えず、空き家があって助かったぜ……」

「これで雨風は何とかしのげそうだねー」

「……さてと、これからどうするかなんだが……」

「取り敢えずお金を稼がないと……」

「つっても俺らは盗賊扱いだろ? 雇ってくれる奴なんかいねぇぞ」

 はぁ、と溜め息をつく。

「ん? でもそう勘違いしたのはあの人達だけでまだ広まってはいないんじゃないの?」

「まあ、そうなんだが広まるのも時間の問題だな」

 結局、今のうちに稼げるだけ稼いでおこうということで話が纏まった。

「よし、じゃ働き口探すか……」

「がーんばってねぇー」

「……お前はどうするんだよ」

「んー? 私はこの家の掃除したり、家事をしてるよー」

「……そうか。じゃあ何かあったらいつも通り呼べよ」

「はいはーい。頑張ってね」

 それには応えず、さっさと家を出る。そもそも俺にはあんな女必要無かったはずだ。一人で生きて、雇われ兵士をして、戦場で死ぬ。それが俺の生き方のはずだったのに。ていうかあの女何者?

「……さてと、どこか無いか……。というか、俺仕事とか出来るのか?」

 しばしそこで黙考するも、答えは出ない。

「……そうか」

 俺の本職を思い出した。雇われ兵士だ。

「悪くねぇかもしれねぇな」

 そう思った時、小さくリィン――と、鈴の鳴る音がした。

「雪姫か!」

 あの音は戦うことの出来ない雪姫が、唯一助けを求める時に鳴らす鈴。なぜかどんなに離れていようとしっかりとその音は伝わってくる。

 急いで元来た道を戻る。間に合うかっ!



「おい! 雪姫!」

 乱暴に扉を開け、周囲を見渡す。異変にはすぐに気がついた。

 雪姫の姿はない。変わりに、男が四人立っている。

「……誰だ貴様ら……」

「いや何、うちの領域が荒らされていたのでね。『片付け』をしていたまでだ」

 真ん中に立つ、少し小柄な男が答える。

「雪姫……いや、ここに女がいたはずだが?」

「ああ、いたね。最も……どこかへ逃げてしまったようだが……」

 その男が続ける。

「君も、あの女と同じ仲間かね?」

「――だとしたら?」

「『片付ける』までだよ。少年」

 全員刀を一本づつ。なんだ。余裕じゃねぇか。

 アメノムラクモを構え、頭であろう先程の男に走り寄る。

「ふむ。先手必勝、というやつだな」

 中段横薙ぎの攻撃をしゃがんで避け、俺の足元を攻撃してきた。

「遅いな。お前」

 飛んで避けると、後ろに控えていたやさぐれた男が、丁度俺の首の位置を斬りつけてくる。

 なるほど、空中じゃ避けられないから頭との二段構えの攻撃な訳だ。

「だが、甘い!」

 迫ってくる刀を鉄鞘で弾き、相手の顔面を斬りつける。

「ッがぁっ!」

「安心しろ。致命傷じゃねぇ。ただ、お前が光を見る事は二度とないがな」

「てめぇ! よくも啓祐けいすけを!」

 三人目の男、少々大柄な男が刀を抜いて走ってくる。

「突っ走る奴は嫌いじゃねぇぜ。ただな……」

 腹部を狙って突き出された刀を半回転して避け、戻る力で思い切り刀を振るう。

「もうちっと頭使わねぇとやってけねぇぜ?」

 刀は腹部を切り裂いた。

「ぐぅっ」

 男は倒れ込み、うずくまった。

「なんだ。もう後二人か」

「……そのようだな。仕方ない。弥一やいち。死んで来い」

「えぇ!? 酷くない!?」

「だってお前、使えないだろう」

「あー言ったな!? 見とけよこの野郎! 多分殺してやるよ!」

「多分って言ったな」

 無駄な会話が繰り広げられた後、弥一とかいう頭に似た体格の男は刀を構えた。

「……盗賊なんざ、所詮雑兵と変わんねぇな」

「余り俺を甘く見るなよー……。いくぜ必殺! 超音速豪殺拳!」

「何だその幼稚な名前は!?」

 その上、音速とか言う割には余り速くない。

「しかも刀じゃなくて拳とか言ってやがるじゃねぇか!」

 余裕を持って避け、突っ込む。この速度なら避けきれないはずだ。

「ぐわぁ!」

 だが、俺が攻撃を仕掛ける前に弥一は勝手に吹っ飛んだ。

「!?」

「くっ……超音速豪殺拳の反動が……」

 あるんだ。反動。

 最早どうでも良くなってしまうが、一応敵なので放って置く訳にも行かない。……雪姫も探さなければだというのに!

「……なぁ、お頭さんよ」

「……なんだ」

「なんでこんな奴と……盗賊やってんの?」

「いや、こいつが勝手についてきただけだ」

「そうさ! どうだ凄いだろ!」

「……壱ノ型。『風神』」

 純粋な人間(?)を斬るのは少々心痛むが、ここではそんな情は必要ない。

 哀れにも一瞬で弥一は地に臥す。

「神技……か。つまりお前は良介だな?」

「そうだな」

「そうか……なら俺の敵う相手ではないな。いいだろう。好きにしろ」

 手に持った刀を地面に突き刺し、仁王立ちす頭。

「ハッ。好きだぜそういう潔さ。――死ね」

 男達を片付けると、急いで表へ出る。

「どこだ……?」

 リィン――

 雪姫の鈴が、左の方向から聞こえた。

「あっちか!」


「いた! おい、雪姫!」

「ん? ああ、良介か」

「ああ、じゃねぇ! てめぇあの後遊びやがったな!」

 最初の鈴の音を聞いてから、俺は随分と走らされた。すぐ近くで鳴ったと思って見てみるといなかったり、随分遠くで聞こえたと思ったら、今度は近くで聞こえたり。

「あーうん。暇だったしねぇ」

「コロス」

「ごめんねー。でさ」

「あ?」

 雪姫は少しもったいぶったように間を空けると、笑いながら言った。

「ここってどこ?」



 日も暮れ、辺りはすっかり夜の帳が落ちている。

「……ったく。遊んで迷うバカがいるか」

「ここにいるもーん」

 もと来た道など覚えているはずもない俺達は、ひとまず近くの山へ一晩篭ることにした。

「ここってどこら辺なんだろうな……。微かだが、血の匂いがする」

「本当? 良介は鼻いいねー。フカみたい」

「俺はサカナじゃねぇ」

 話しているうちにも、その違和感は続く。まるでこちらを窺っている様な……纏わりつく様な視線。

「一人……いや、二人か」

「何が?」

「出てこいよ。こんな夜だ。大層月は綺麗だぜ?」

「気付かれていたのか。人間、無族にしては中々の者」

「ていうか、なんでこんな夜中に来ちゃった訳ー? 可哀想だよねーこいつら!」

 茂みから、男と女の二人組が現れる。

「貴様ら……羅刹だな?」

 聞いたことがある。羅刹は時たま、東山に現れると。

「ってことはここは東山だな。おい雪姫。地図あるか?」

「ん? はいどうぞ」

「ちょっと。まさか帰れるとか思ってないよね?」

「よし、こっちの方角だ。じゃ、羅刹、頑張って」

「からかってんじゃねぇっ!」

 突然羅刹男の方が激昂し、身の丈程もある大鎌を振り下ろした。

「危なっ」

「何が危なっ、だ! バカにしているのか!」

「当たり前じゃん。羅刹がどのくらい強いのか知らんが……強いのか?」

「良介。少なくとも力では明らかに羅刹の方が強いよ」

 雪姫が耳打ちする。

「へぇー。成る程。よし、丁度いい運動じゃねぇか」

「軽口を叩けるのも今のうちだと、思い知らせてやる! 行くぞ封華ふうか!」

「あはははは! いいんだねぇ、どうなっても! 金裄かねゆきだって死んじゃってもしらないよぉ! あはははは!」

 えぇー……。なんか封華とかいう女怖いよ。

 大鎌の金裄に対し、封華は包丁ほどの小さな刀を取り出した。

「おらっ! 死んじゃえ!」

 小刀を苦無クナイのように構えた封華は、まっすぐ俺の懐を狙ってきた。

「ほぉ……なかなか速いな」

 幾手も繰り出される斬りつけを最小限の動きで避けながら封華に話す。

「あはははは、ありがと」

 不気味な笑いを浮かべながら封華も答える。

「でもま」

 腰に掛けたアメノムラクモに手を添える。

「すっげー遅いけどな?」

 一瞬の隙を突いて、通り抜け様に『月夜見つくよみ』を放ち、封華を切り裂く。

「……そのアザ。やはりお前、らせ――ツゥゥゥゥ!?」

「あんたふざけんじゃないよ! 仮にも恋する乙女の服なんか切り裂いて!」

 封華が真っ赤になって小刀を投げつけた。

「え? そうなの? だがまあ、安心しろ」

「……何がよ」

 俺は後ろで待機する雪姫を指す。

「あいつは両方ともいける奴だ」

「あんた達の性癖なんか知らないわよ! もー! 私着替えてくる! 金裄! あんた私のあられもない格好みたんだから、覚悟してなさい!」

「俺を巻き込むのか!?」

 よし、一人減った。いや、まさかまた来るのか?それは遠慮したい……。

「まあいいか。金裄、貴様はここで死ね」

 言うと同時に金裄に向かっていく。

「ふ。無族にしてはなかなかの動き。だが、――これならどうだぁ!!」

「なっ!?」

 金裄は大鎌を構えると、ぶんぶん振り回した。

 確かに近づけないけど!

「なんちゃって」

「っ!?」

 いきなり金裄の頭上に鎌が現れたかと思うと、すさまじい速さで振り下ろされた。

「……さっきの回転は遠心力をつける為だった訳か」

「その通り。よく避けたな。かなり力をこめたのだが」

「はっ。速さで俺に勝とうなんざ百万年早いぜ」

「――成る程。では俺も、少し本気を出そう」

 そう言って金裄は体勢を低くした。俺も同じように低く構える。

「羅刹が俺の速さに勝てないって事、思い知らせてやるよ」

 二人は同時に走り出した。

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