01 - 歪みが生まれる契約
「貴女が望むものとは? 絶対的な力? 唯一無二の強さ? それとも……」
「……正義の味方」
虹色の柱が二重螺旋を描くように現れた時。
鮮やかな和みの歌は、全てを優しく包みこむ虚空から大地へと響き渡る。
二つの虹を背景に空は歌う。
――君は、信じますか?
今から約14年前、和歌山市の西部に位置する海の上に一つの人工島が造られた。
隣の和歌山市の面積を一回り大きくしたくらいの、小さな島だ。
「……欲しいの、正義の味方みたいな力が」
「……それが答えかい?」
天空に月という名の使者が現われる夜。
歌空中部地区にある歌空中部駅から徒歩10分以内という距離に建つ、グレーとホワイトの縞々網様の奇妙なカラーリングが特徴なワンルームマンション。
そのマンションの屋上に、二人の男女が居た。
一人は緑色のマントに身を包み、顔の上半分は「PTL」と大きく横書きした青色の面を付けている。顔と体格は隠れているが声か ら男だと察することが出来る。
もう一人は腰より長い翡翠の髪を持つ小さくて小柄な女の子。レモン色のパーカーに、黒いスパッツ。
「救いたい人たちがいるの……だから」
両手をグッと握りしめて拳を作る。
大好きな人たちが頭を遮り、歯を食いしばる。
海のように美しい蒼い瞳で男を睨む。
翡翠の髪を持つ少女は求める、正義の味方。
男はニヤリと不気味に口元を歪ませ問う、
「では、契約するか? 私は君が望むものを与えよう。だが君は私の願いを叶えること。肯定の答えならば」
男ことPTLは、女の子に右手を差し出し、
「契約成立の証として握手を交わそう」
少女は……伊藤 伊歩は迷わず自分の右手を上げて握手に応じた。
「承諾。君が望むべきモノのため、私の願いを叶えてもらうため……力を授けよう」
刹那、伊歩の体が紅色の光に包まれる。
暖かくて。
冷たくて。
安心できて、
とても怖い。
光と闇。
表と裏
有と無。
存在しているが非存在の力。
力の名は、
「存在を捩じ曲げる歪みの力……ディストーション」
PTLは言う、
「これで君も超能力を使う、小さな正義の味方だ」
歌う空。
正義の味方。
契約。
歪み。
ここから始まる……孤立した正義の味方の長い、長い物語。