表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

真面目令嬢「有責側からの婚約破棄はできません。落ち着いてください」

掲載日:2026/05/17

「お前とは婚約破棄する! それで、このカラリーネを婚約者に迎える!」


 王宮の夜会会場に、この国の王太子の声が響いた。

 夜会会場にいる貴族たちは、その声の主である王太子シュミット・ド・アイステリアとその腕に絡みついて離れない少女を一瞬見た………が、すぐにお喋りやダンスに戻る。


「有責側からの婚約破棄はできません。落ち着いてください」


 しかし、王太子シュミットに声をかけられた令嬢はきちんと返事をした。


 令嬢は金髪に緑の目の美貌だったが、ひたすら真面目な表情をしている。

 ……ただ、他の令嬢と違っているのは、片手に分厚い法律書を持っていること。

 そして、ドレスではなく、貴族が戦争に行くときの軍服を着ている所だった。


「有責とは、婚約破棄の原因となる不貞行為つまり浮気や、悪意の遺棄つまり殿下のように健康なのに働かないで私に公務を押し付けたり。正しい理由もないのに王宮から追放しようとしたりすることです。まあ、他にもありますが。というか、殿下は『婚約破棄』という言葉をちゃんと言えたのですね。私、非常に感心いたしました」


 優しく諭すようにシュミットを説得する令嬢に、パーティー会場の隅で人を手配していた宰相が近寄ってきて、


「ミュラー侯爵令嬢様、誠に申し訳ございません。毎度毎度ご負担をおかけしまして」


 いつものようにペコペコと頭を下げるのを鷹揚に令嬢は手を振って押しとどめる。

 そう、王家は負担がかかるのを知っていてクラウディア・ル・ミュラー侯爵令嬢にシュミットとの婚約を頼んでいるのだ。


「宰相様。よろしいのですよ。この国の為です。この国の歴史を勉強すれば、賢君だけが続いているとは誰も思いません。時として、このような殿下も生まれるリスクもあって国家運営は続いていくのでしょうから」


 うんうん、とクラウディアは宰相に頷いて見せる。

 宰相はそんな懐の深いクラウディアに更にペコペコを加速させる。


「そもそも、殿下を押さえつけて言う事を聞かせるのではなく、本日のような外国の方を一切招かない夜会では適度に放し飼いをしてストレス発散させた方が良いと申し上げたのは私です。問題ございません。適度なおしゃべりや運動は、後々結婚初日から次代を繋ぐ作業をするためには必要な事ですから」


「聞いているのか! 婚約破棄だと言っているんだ!」


「はい、聞いておりますよ。『婚約破棄』でございますね。希望に添えず申し訳ありませんが、法律で殿下からの婚約破棄、つまり婚約をやめることはできません」


 かなりすれすれの事を真面目に語るクラウディアに、横から再度シュミットが怒鳴る。

 それを宰相に顔を向けたままクラウディアが返事をする。

 宰相はペコペコする。

 王太子シュミットの怒号をBGMに、貴族たちは優雅にダンスを踊っていた。


「じゃあ、法律を変える!」

「法律を変えるには貴族院の3分の2以上の賛成が必要ですが……」


 クラウディアは、シュミットの言葉にちょっと考えて法律書を確認するように開いたが、


「法律を変えることに反対です」

「反対」

「反対ですわ」

「反対」


 今まで話を聞いていなかったと思われていた貴族たちがそれぞれの楽しみを続けながら口々に『反対』を口にする。

 クラウディアは、周りをぐるっと見回してから、シュミットに、


「だそうです」


 と告げると、とうとうシュミットは地団太を踏んだ。


 そんな子供みたいな仕草をするシュミットにいまだにくっついている令嬢は、よく事態がのみこめていないらしく首を傾げている。


「まあ、この殿下を相手にできるご令嬢は貴重です。あなたは最近平民から男爵家に養子に迎えられたカラリーネ・アホー男爵令嬢様ですね。どうでしょう? 愛妾、つまり愛人という事ではだめでしょうか?」


 クラウディアの緑の目が冷静にカラリーネを見据える。


「あ、あたし、王妃になれるって」


 弱弱しい態度を崩さずに、でも大それたことを口にするカラリーネに、クラウディアは本日初めてにっこりと笑った。


「この殿下が嘘を申し上げて、ご迷惑をおかけしたこと深くお詫びいたします。我が国アイステリア王国の法律で平民出身の者は王妃になれない決まりになっております。まあ、貴族院の3分の2以上の賛成があれば法律は変えられますが……」


「反対」「反対」「反対」


 クラウディアの言葉に、またしても自由な行動をする貴族たちが口々に『反対』だけを口にする。

 クラウディアは貴族たちの言葉にちょっと困ったように微笑んで、カラリーネに小首を傾げて見せた。


「公務に忙殺され、色々な決まりに縛られる王妃より、自由な行動を許されて殿下と愛し合える愛妾の方がアホー男爵令嬢様にはよろしいと思いますが。………ああ、法律によって、平民出身の貴族は王族と子を残すことはできないという事は事前に申し上げておきたいです」

「ええっ、子供を作れないの?」

「はい、でも私が王太子である殿下、ゆくゆくは王の公務まで片付けるので、殿下とアホー男爵令嬢様は遊んでいられてそれも良いかと思われるのですがね。だって愛し合っているのでしょう?」

「……………………話が違う。あたし、実家に帰る。ごめんなさいでした」


 クラウディアの問いに、カラリーネは首を振った。

 そして、シュミットの腕を離して着ているドレスをものともせず、夜会会場の出口に向かって走っていく。


「カラリーネ!!」


 走り去るカラリーネを、シュミットがこれまた走って追っていく。

 そんな二人を何か走る動物でも見送るように、真顔でクラウディアは見ていた。


「本当にミュラー侯爵令嬢様、いつもご負担をおかけして本当に本当に申し訳ありません。ですができれば、未来の王妃として、引き続き王太子妃様として、あるいは実質、未来の王として業務をお願いしたく存じます………」


 宰相がペコペコと頭を上下に振り続ける。


「賛成」

「続行に賛成」

「ミュラー侯爵令嬢様の続行に賛成」

「賛成します」

「賛成、ミュラー侯爵令嬢様万歳」


 と相変わらずこれまでの騒動をスルーしているかに見えた貴族たちが、今度はきちんとクラウディアの方を見て、笑顔で賛成を告げた。

 クラウディアは、何かを確認するように法律書を開いて、指で文字をなぞった。


「まあ、殿下があのような状態である以上、私が殿下を操って王の公務も代行して行うでしょう。もちろん、そうしていけない法律もありません。むしろ非常時などには強く推奨されておりますね」


 そのように少しだけ貴族の勢いに困ったように言うクラウディアに、宰相はまた深く頭を下げた。



 ――宰相はクラウディアが少女の時、シュミットとの縁談を内々に話を持っていった時のことを思い出していた。


 宰相が直々にミュラー家を訪れて、シュミットという困った王太子(一人しかいない王子でしかしアホ)との婚約を打診しようとしたとき、玄関先にまで出て待ち構えていたクラウディアに会った。

 まだ、クラウディアはその時ほんの少女だったが、子供用の軍服を着て、自分の顔よりもはるかに大きい法律書を小脇に抱えていたものだ。

 

 宰相が思うに、ちょうどその頃アイステリア王国と隣国イグニス王国の戦争が終わり、


『国家と秩序が大事』


 だとあらゆる貴族家で子供に言い聞かされたからだろうと思う。


(それにしても、ミュラー侯爵令嬢は特に感受性が強かったようだが)


 と、宰相は懐かしく思い出した。

 小さい頃から評判の悪かったただ一人の王子シュミットとの婚約をどの貴族家も、王家との繋がりという利点を考えても回避する中、ミュラー侯爵令嬢だけが受け入れてくれた、


 そして、


『私、クラウディア・ル・ミュラーは喜んで、国家と法と結婚します!』


 と貴族令嬢としては大きな声で宰相に宣言した。

 宰相はニコニコと貴族らしい表情を壊して満面の笑みを浮かべる少女に、


『いや、あなたが結婚するのは王太子とです』


 とは言えなかった。


 元からシュミットという馬鹿王子と結婚するのではない。

 すでに『国家と法』とクラウディアは仲睦まじく過ごしているのであった。


 -おわり-

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
クラウディアにとって既に王子は他所から貰ったあまり可愛くないのに世話だけは掛かるペット枠だ。 ペット自体に大して思い入れはないけど、余録(王妃業)があるから面倒みてる奴。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ