変装上手の怪盗が捕まったのは
「聞きましたよ、警部。ついに『無限の顔』を捕まえたんですって? おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう。これで私も肩の荷が下りたよ」
友人である私立探偵の言葉に、警部は少し照れたような笑みを浮かべました。
釣られるようにして、私立探偵も笑顔になります。
「『無限の顔』には、僕も何度も、してやられましたからねえ。あいつが捕まったのであれば、ホッと一安心なのは僕も同じですよ」
二人の会話に出てきた『無限の顔』というのは、最近世間を騒がせていた怪盗です。変装の名人で「自分には定まった顔がない」とか「誰の顔にも化けられる」とか豪語するほどでした。
あらかじめ予告状を送りつけた上で、宝石商のお店や大富豪の邸宅などへ盗みに入り、お宝を奪っていくのが彼の手口です。
事前の予告がある以上、警備は厳重になります。警察だけでなく、私設の警備員なども詰めかけているのですが……。
怪盗『無限の顔』は、たとえ犯行の瞬間を目撃されても、建物内を逃げ回る間にサッと一瞬で変装。警察官や警備員、あるいは宝石店ならば店員だったり豪邸ならば使用人だったり、その場に大勢いる関係者の一人に化けることで彼らに紛れて、いつも悠々と逃げおおせるのでした。
「むしろ大勢いればいるほど、変装しやすい相手も見つけやすくなるから、人を集めるための予告状じゃないか……。そんな推測もありましたよね?」
「うむ。その推測が正しかったにせよ間違っていたにせよ、いずれにしても今回は……」
キリッとした表情に戻して、警部は真面目な口調で続けます。
「……人を集め過ぎたのが、奴にとっては裏目に出たのだ。その中に一人、優れた記憶力の目撃者が含まれていたのだからな」
「目撃者? しかし……」
私立探偵は、不思議そうに聞き返しました。
「……いつもみたいに『無限の顔』は、途中で顔を変えたのでしょう? それでも目撃者は、あいつの正体を見抜けたのですか?」
「ああ、もちろん奴は上手く変装したのだが……」
宝石のあった三階の金庫室から、怪盗『無限の顔』が立ち去る一瞬。それを目撃したのは、雇われた警備員の一人でした。
その後、一階の大ホールにて関係者がひしめく中、彼は執事の背中を指さして叫んだのです。「間違いありません、あれが『無限の顔』です。うしろ姿に、はっきりと見覚えがあります!」と。
当日の経緯を説明しながら、警部は口の端で、面白そうに微笑みました。
「……『無限の顔』が化けられるのは正面からの顔だけで、うしろ姿までは無理だったのさ」
(「変装上手の怪盗が捕まったのは」完)




