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【短編】その他の短編

変装上手の怪盗が捕まったのは

作者: 烏川 ハル
掲載日:2026/03/31

   

「聞きましたよ、警部。ついに『無限の顔』を(つか)まえたんですって? おめでとうございます!」

「ああ、ありがとう。これで私も肩の荷が下りたよ」

 友人である私立探偵の言葉に、警部は少し照れたような笑みを浮かべました。

 釣られるようにして、私立探偵も笑顔になります。

「『無限の顔』には、僕も何度も、してやられましたからねえ。あいつが(つか)まったのであれば、ホッと一安心なのは僕も同じですよ」


 二人の会話に出てきた『無限の顔』というのは、最近世間を騒がせていた怪盗です。変装の名人で「自分には(さだ)まった顔がない」とか「誰の顔にも化けられる」とか豪語するほどでした。

 あらかじめ予告状を送りつけた上で、宝石商のお店や大富豪の邸宅などへ盗みに入り、お宝を奪っていくのが彼の手口です。

 事前の予告がある以上、警備は厳重になります。警察だけでなく、私設の警備員なども詰めかけているのですが……。

 怪盗『無限の顔』は、たとえ犯行の瞬間を目撃されても、建物内を逃げ回る間にサッと一瞬で変装。警察官や警備員、あるいは宝石店ならば店員だったり豪邸ならば使用人だったり、その場に大勢(おおぜい)いる関係者の一人に化けることで彼らに紛れて、いつも悠々と逃げおおせるのでした。

   

「むしろ大勢おおぜいいればいるほど、変装しやすい相手も見つけやすくなるから、人を集めるための予告状じゃないか……。そんな推測もありましたよね?」

「うむ。その推測が正しかったにせよ間違っていたにせよ、いずれにしても今回は……」

 キリッとした表情に戻して、警部は真面目な口調で続けます。

「……人を集め過ぎたのが、(やつ)にとっては裏目に出たのだ。その中に一人、優れた記憶力の目撃者が含まれていたのだからな」


「目撃者? しかし……」

 私立探偵は、不思議そうに聞き返しました。

「……いつもみたいに『無限の顔』は、途中で顔を変えたのでしょう? それでも目撃者は、あいつの正体を見抜けたのですか?」

「ああ、もちろん(やつ)は上手く変装したのだが……」


 宝石のあった三階の金庫室から、怪盗『無限の顔』が立ち去る一瞬。それを目撃したのは、雇われた警備員の一人でした。

 その後、一階の大ホールにて関係者がひしめく中、彼は執事の背中を指さして叫んだのです。「間違いありません、あれが『無限の顔』です。うしろ姿に、はっきりと見覚えがあります!」と。


 当日の経緯を説明しながら、警部は口の端で、面白そうに微笑みました。

「……『無限の顔』が化けられるのは正面からの顔だけで、うしろ姿までは無理だったのさ」




(「変装上手の怪盗が捕まったのは」完)

   

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