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最強クラスの戦い方



Sクラスとの試合当日。


競技場の空気は、これまでとは明らかに違っていた。


観客席はほぼ満席。貴族席には教師だけでなく、外部の来賓らしき人物まで座っている。噂は完全に広がっていた。


「Fクラス対Sクラスだってよ」

「番狂わせ、またあると思う?」

「いや今回は無理だろ……」


そんな声があちこちから聞こえる。


正直、俺も同意見だった。


(普通に考えれば無理だ)


だが問題は、もう“普通”では済まなくなっていることだ。


控室で腕章を締め直す。


ガルムは落ち着きなく歩き回っていた。


「やべぇ……緊張してきた……」

「今さらか」

「Sクラスだぞ!? 緊張しない方がおかしい!」


ミーナは椅子に座りながら指輪型魔導具を調整している。


「私はちょっと楽しみ」

「怖くないのか?」

「怖いよ。でも強いやつと戦う方が面白いじゃん」


性格が戦闘民族寄りすぎる。


俺は深く息を吐いた。


頭の中ではすでに戦場のシミュレーションが回っている。


Sクラスの特徴。


・個人完成型

・連携依存なし

・判断速度が速い

・崩れない


つまり——。


普通の戦術が通じない。


「レイジ」


ガルムが立ち止まる。


「今回、どう戦う?」


まっすぐな目だった。


逃げ場はない。


俺は静かに答えた。


「勝ちに行く」


自分でも少し驚いた。


以前の俺なら“目立たない方法”を優先したはずだ。


だが今は違う。


ここまで来て中途半端に負ける方が、後味が悪い。


ミーナがニヤリと笑う。


「やっと本音出た」


「ただし条件がある」

俺は続けた。


「絶対に無理するな。崩れた瞬間終わる」


二人が頷く。


作戦はシンプルだ。


——相手に“戦わせない”。


控室の扉が開いた。


「Fクラス代表、入場準備」


審判の声。


いよいよだ。


競技場へ出た瞬間、歓声が押し寄せた。


視線。


音。


熱気。


前世では絶対に立たなかった場所。


中央フィールド。


反対側から、Sクラスが歩いてくる。


三人。


中央はカイル。


両脇には男女一人ずつ。


右の少女は細身で、剣を一本だけ持っている。無駄がない立ち姿。速度型だろう。


左の男子は長杖を持つ魔導士。魔力量が外からでも分かるほど濃い。


そして中央のカイル。


手ぶら。


武器を持っていない。


「……素手かよ」

ガルムが呟く。


カイルが笑った。


「必要ないからな」


観客席がざわつく。


挑発ではない。


事実として言っているのが分かる。


審判が中央に立つ。


「両者、位置につけ!」


俺たちは三角陣形。


Sクラスは横一列。


構えすらバラバラ。


それなのに隙がない。


(これが完成型か……)


審判の手が上がる。


静寂。


競技場全体が息を止める。


「——開始!」


瞬間。


Sクラスの三人が同時に消えた。


「……は?」


視界から消失。


次の瞬間、右側から衝撃。


ガルムが吹き飛ばされる。


「ぐっ!?」


速すぎる。


少女の剣撃だった。


同時に後方で魔力爆発。


ミーナが後退する。


「なにこれ速っ——!」


カイルはまだ動いていない。


ただ立っている。


なのに圧がある。


(まずい……想定以上だ)


俺は即座に叫んだ。


「二人とも距離取れ! 正面見るな!」


ガルムが転がりながら立ち上がる。


ミーナが爆発で牽制。


だがSクラスは追撃しない。


ただ位置を変えただけ。


余裕。


完全な余裕。


カイルがゆっくり歩き出した。


「まずは観察だ」


観客席が静まり返る。


試合なのに、試されている空気。


「君たちがどこまで戦えるのか、見せてくれ」


その瞬間、理解した。


これは戦闘じゃない。


——試験だ。


Sクラスが、俺たちを測っている。


そして。


本当の戦いは、まだ始まってすらいなかった。



「二人とも、深追いするな!」


俺の声と同時に、ガルムが体勢を立て直す。さっきの一撃で吹き飛ばされたはずなのに、すぐ戻ってくるあたり本当に頑丈だ。


「速すぎるだろあいつ!」

「速度型だ。正面で追うな!」


右側の剣士――Sクラスの少女は、すでに別の位置に移動していた。足音がほとんどしない。加速魔法ではない。純粋な身体操作。


(魔力補助の完成度が段違いだ)


同時に、後方の魔導士が杖を軽く振る。


空気が震えた。


「ミーナ、上!」


「分かってる!」


爆発魔法を上空へ撃ち込む。


直後、光弾が空中で弾けた。


観客席からどよめきが起きる。


「今の、詠唱なし!?」

「Sクラスの魔導士やばすぎだろ……」


相手は“予備動作”がない。


つまり反応してからでは遅い。


カイルはまだ動いていなかった。


両手をポケットに入れたまま、こちらを観察している。


「連携は悪くないな」


余裕の声。


評価されている。


戦っているというより、採点されている感覚。


……正直、腹が立った。


「レイジ、どうする!?」

ガルムが叫ぶ。


頭の中で高速に状況を整理する。


正面突破:不可能

持久戦:不利

連携勝負:通じない


なら——。


「戦うな」


「は?」

ミーナが振り向く。


「攻撃を狙うな。動かし続けろ」


ガルムが眉をひそめる。


「逃げ回るってことか?」

「違う。“戦場を固定させない”」


Sクラスは完成型。


つまり最適な距離・最適な位置・最適な判断を前提に動く。


ならその前提を壊す。


「ガルム、一直線に走れ。攻撃しなくていい」

「了解!」


ガルムが横方向へ全力疾走する。


観客席がざわつく。


「逃げてる?」

「作戦か?」


少女剣士が追撃に動く。


その瞬間。


「ミーナ、逆側!」


爆発。


地面が抉れ、視界が揺れる。


戦場の形が崩れる。


Sクラスの三人の位置関係が一瞬だけズレた。


ほんの一瞬。


だが、それで十分だった。


カイルの目がわずかに細くなる。


「……なるほど」


初めて反応した。


読まれ始めている。


だが同時に、向こうも想定外に入った証拠。


魔導士が位置を取り直そうとする。


「今、中央空く!」


ミーナが爆発を連続発動。


攻撃ではない。


地形破壊。


地面に段差ができる。


観客席から驚きの声。


「地形変えてる!?」

「戦い方違くね!?」


そう。


戦闘ではなく“環境操作”。


完成された戦い方ほど、環境変化に弱い。


少女剣士がわずかにバランスを崩す。


ガルムが笑う。


「今なら行ける!」


「行くな!」


即座に止める。


「まだ早い!」


ガルムがギリギリで止まる。


次の瞬間、魔導士の広域魔法が発動。


さっき突っ込んでいたら直撃だった。


「うおっ……危ねぇ……」

「焦るな」


カイルがゆっくり頷く。


「面白いな。本当に」


ついにポケットから手を出した。


空気が変わる。


観客席が静まり返る。


「少し、こちらも本気を出そうか」


……来る。


本当のSクラスが。


そして俺は理解した。


ここからが、“試験”ではなく“戦い”になる。



カイルが一歩、前へ出た。


それだけだった。


なのに空気が重くなる。


観客席のざわめきが自然と止まり、競技場全体が静まり返った。魔力の圧ではない。存在そのものが場を支配しているような感覚。


(……これがSクラスの中心か)


今まで動かなかった理由が分かる。


必要なかったのだ。


カイルは軽く首を鳴らした。


「環境を崩す戦い方か。悪くない」


褒めている口調なのに、余裕は消えていない。


「でも、それは“時間稼ぎ”だろ?」


図星だった。


俺たちの戦術は勝ちに行くものではない。崩れない相手に“ズレ”を作るための準備段階。


だが——。


カイルが踏み込んだ瞬間、視界が揺れた。


速い。


少女剣士とは違う種類の速度。


無駄がない。


最短距離。


「ガルム、右!」


ガルムが盾のように前へ出る。


衝突。


鈍い音。


ガルムの体が数メートル後ろへ滑った。


「……っ!!」


防いだ。


だが完全に押し負けている。


カイルは驚いたように眉を上げる。


「耐えるのか」


その隙。


「ミーナ、今!」


爆発が横から炸裂する。


だがカイルは振り向きもしない。


片手を軽く振る。


衝撃波が爆炎を裂いた。


観客席がどよめく。


「魔法を素手で!?」

「なんだあれ……!」


(魔力操作が異常に上手い)


攻撃ではなく“流している”。


力で勝っているわけじゃない。


技術差だ。


カイルが俺を見る。


「君が核だな」


完全に確信されている。


隠す段階は終わった。


なら——やることは一つ。


俺は深く息を吸った。


「二人とも、最終段階いくぞ」


ガルムが笑う。


「待ってました!」


ミーナも口角を上げる。


「派手なのOK?」

「制御できる範囲でな」


頷き合う。


ここまで来て逃げる意味はない。


「ガルム、全力で前出ろ。ただし三秒だけ」

「三秒!?」

「十分だ」


ガルムが雄叫びを上げて突進する。


真正面。


Sクラス相手に真正面。


観客席が息を呑む。


カイルが迎え撃つ。


その瞬間。


「ミーナ、最大出力。俺の合図で地面」


「了解!」


魔力が収束する。


競技場の空気が震える。


カイルが初めて警戒の目を向けた。


「……なるほど」


理解したらしい。


だが遅い。


「——今!」


爆発。


地面が隆起する。


攻撃ではない。


フィールドそのものが傾いた。


足場崩壊。


少女剣士の踏み込みがズレる。


魔導士の詠唱が中断。


そして。


カイルの重心が、ほんの一瞬だけ浮いた。


その瞬間を、俺は待っていた。


「ガルム、押せ!!」


全体重の体当たり。


完全なダメージではない。


だが——ライン際。


カイルの足が境界線へ触れる。


審判が目を見開く。


一歩。


半歩。


そして。


「——場外!」


静寂。


次の瞬間、競技場が爆発した。


「Sクラス押し出した!?」

「嘘だろ!!」

「Fクラスやべぇ!!」


ガルムがその場に倒れ込む。


「はぁ……はぁ……やった……?」


ミーナも肩で息をしている。


「マジで通じた……」


カイルは場外で立ち上がり、服の砂を払った。


怒っていない。


むしろ楽しそうだった。


「一本取られたな」


審判が宣言する。


「Sクラス代表、リーダー一時離脱!」


試合はまだ終わっていない。


だが。


初めて。


最強クラスが“崩れた”。


カイルがこちらを見る。


その目に、初めて対等な色が宿っていた。


「……いいね」


笑う。


「ここからが本番だ」


歓声の中。


俺はようやく理解した。


この戦いは、勝敗以上の意味を持っている。


落ちこぼれFクラスが、最強に挑む物語。


そして——


俺自身が、もう“目立たない側”には戻れないところまで来ていることを。

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