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Fクラスの問題児たち


翌朝、学園の空気は少しだけ騒がしかった。


原因は分かっている。


俺だ。


廊下を歩くだけで、ひそひそ声が追いかけてくる。


「昨日の模擬戦、見た?」

「殿下に勝ったってマジ?」

「でもFクラスだろ?」


違う。勝ってない。むしろ計画は大失敗だ。だが噂というのは事実より“面白さ”を優先する生き物らしい。


(まずいな……)


目立たない人生計画が、開始三日目で崩壊しかけている。


教室に入ると、ガルムが勢いよく立ち上がった。


「レイジ!! お前すげぇじゃん!!」


やめてくれ。声がでかい。


「いや、誤解だから」

「殿下に勝ったんだろ!?」

「勝ってない」


即否定するが、ガルムは聞いていない。肩をバシバシ叩いてくる。力が強い。普通に痛い。


ミーナは机に足を乗せたまま、じっと俺を見ていた。


「……あんた、何したの?」

「何もしてない」

「嘘つけ」


即バレるのやめてほしい。


「殿下がわざと負ける理由なんてない。つまり、あんたに何かある」


鋭い。Fクラス、思ったより観察力が高い。


俺は肩をすくめる。


「たまたまタイミングが良かっただけ」

「ふーん」


納得してない顔だ。


その時、教室の扉が勢いよく開いた。


担任教師が入ってくる。昨日ガイダンスをしていた男性だ。名前は確か、バルド先生。


「全員席につけ。今日は実戦訓練を行う」


ざわめきが広がる。


Fクラスで実戦訓練は珍しいらしい。ガルムが目を輝かせ、ミーナはニヤリと笑った。


嫌な予感しかしない。


「本来、Fクラスは基礎中心だが……昨日の件で上から指示が来た」


先生の視線が一瞬こちらを向いた。


やめて。


「“戦闘適性の再確認”だそうだ」


完全に俺のせいだ。


クラス全員の視線が突き刺さる。


「レイジ、お前のせいじゃね?」

「違う」

「絶対そうだろ」

「違うって」


否定しても意味がない。社会人経験上、こういう時は黙るのが正解だ。


演習場へ移動すると、既に簡易結界が張られていた。地面には魔法陣。観客席にはなぜか他クラスの生徒までいる。


(なんで増えてるんだ……)


嫌な汗が出る。


先生が説明を始める。


「本日の訓練はチーム戦。三人一組で模擬戦を行う。戦闘不能または降参で終了」


チーム戦。


つまり個人能力より連携重視。


これは助かる。


俺が目立たずに済む可能性が高い。


「チームは——こちらで決める」


先生が紙を読み上げる。


「ガルム、ミーナ、レイジ」


終わった。


問題児コンビ+疑惑の新人。


周囲から笑いが漏れる。


「事故チームじゃん」

「演習場壊れるぞ」

「結界強化しとけ」


やめてくれ。


ガルムは拳を握りしめる。


「よっしゃ!! 俺たち最強チームだな!」

「最弱チームだろ」

ミーナが即ツッコミを入れる。


俺は額を押さえた。


(目立たない計画、完全終了のお知らせ)


対戦相手が発表される。


Aクラス三人組。


空気が変わった。


周囲がざわつく。


「え、格上じゃん」

「FにA当てるの?」

「テストだろ、完全に」


つまり——実験台。


Aクラスの代表らしい三人が前に出る。動きに無駄がない。装備も上質。見るからに“優等生チーム”。


中央の男子がこちらを見て笑った。


「水晶破壊くん、期待してるよ」


完全に挑発。


俺は小さくため息をついた。


(……目立たず終わる予定だったんだけどな)


開始位置につく。


ガルムは前衛、ミーナは後衛爆撃型。俺は自然と中央に立たされた。


「レイジ、指示くれ!」

ガルムが言う。


「……俺?」

「昨日、殿下と戦ったんだろ? 一番分かってるはずだ!」


違う。分かってるのは“逃げ方”だけだ。


しかしここで拒否すると連携が崩れる。チーム戦でそれは危険だ。


俺は観察する。


相手三人の立ち位置、重心、視線の動き。


前衛が突撃型。

右は支援魔法。

左が狙撃役。


(……教科書通りすぎる)


逆に読みやすい。


気づけば口が動いていた。


「ガルム、正面抑えて。突っ込まない」

「え!? 突っ込まない!?」

「絶対ダメ」

「分かった!」


即従うのがすごい。


「ミーナ、開始三秒後に左側へ広範囲爆発」

「おっけ」


自分でも驚いた。


前世の会議進行みたいに、自然に役割分担している。


審判が手を上げた。


「——開始!」


Aクラス前衛が突進。


速い。


だが予想通り。


「今!」


ミーナの爆発魔法が地面を吹き飛ばす。


視界が煙に包まれ、相手の陣形が崩れる。


ガルムが防御に徹し、前衛を止める。


完璧だ。


俺は動かない。


動けば目立つ。


だが状況だけは読んで、声だけ出す。


「右、来るぞ!」


支援魔法が飛ぶ前にミーナが再爆発。


観客がざわめいた。


「連携いいぞ!?」

「Fクラスだよな?」


違う。


俺はただ、会社で会議を回していただけだ。


気づけば、戦況はこちら有利になっていた。



煙が晴れ始めた頃には、戦況は完全に崩れていた。


Aクラス側は予想外だったのだろう。最初の爆発で足並みが乱れ、支援役と前衛の距離が離れている。教科書通りの陣形は、一度崩れると立て直しに時間がかかる。


「ガルム、押すな。止めるだけ!」


「え!? 今チャンスじゃね!?」


「ダメ。深追いすると囲まれる」


反射的に指示が出る。自分でも驚くほど自然だった。前世で何度も経験した“プロジェクト炎上回避”と同じ感覚。突っ込むより、崩れた相手を維持させる方が楽なのだ。


ガルムは一瞬迷ったが、すぐ頷いた。


「分かった!」


素直すぎる。助かる。


ミーナは楽しそうに笑っている。


「なにこれ、楽じゃん」

「調子乗るな。右後ろ警戒」


次の瞬間、支援役が詠唱を始めた。光が集まる。広範囲拘束魔法だ。


(早いな)


Aクラスだけあって判断が速い。煙を利用して立て直そうとしている。


「ミーナ、上空」


「了解!」


爆発が空中で弾け、詠唱が中断される。観客席から歓声が上がった。


「連携やばくね?」

「Fクラスが押してるぞ!」


違う。


押しているんじゃない。


相手が“想定外”に弱いだけだ。


Aクラスの三人は明らかに焦り始めていた。視線が散り、指示が遅れる。つまり今まで“完璧な状況”でしか戦っていない。


(エリートあるあるだな……)


前世でも見た。優秀な人ほど想定外に弱い。


前衛が苛立ったように叫ぶ。


「まとめて行くぞ!」


三人同時突撃。


悪手。


「ガルム、後退しながら防御! ミーナ、地面!」


「おう!」

「了解!」


爆発が地面を揺らし、前衛の足が止まる。その瞬間、三人の距離が再びズレた。


観客席が沸く。


「なんだあいつらの動き!?」

「指示出してるの誰だ?」


……まずい。


目立ち始めてる。


俺は一歩下がる。なるべく存在感を消す。だがもう遅かった。


Aクラスの中央にいた男子がこちらを睨んだ。


「……お前か」


視線が完全にロックオンされる。


(あー、バレた)


指揮官認定された瞬間だ。


「狙いを変える! 後ろのやつを落とす!」


三人の動きが一斉に変わる。


俺へ一直線。


ガルムが叫ぶ。


「レイジ下がれ!!」


遅い。


距離が一気に詰まる。


本来なら、ここで最適回避を選べばいい。身体はそれを理解している。だがそれをやったら“強い”と確定する。


だから俺は半歩遅れた。


剣が肩をかすめる。


痛い。


わざと受けたが、普通に痛い。


「レイジ!!」

ミーナの爆発が割り込み、相手を吹き飛ばす。


煙の中、ガルムが盾のように前に立った。


「俺の後ろいろ!!」


……いいやつだな。


少しだけ胸が温かくなる。


だが状況は悪い。


Aクラスは完全に方針を変えた。“俺を落とせば勝ち”と判断している。正しい判断だ。


(さて、どうする)


ここで倒れるのが理想だ。


だが——。


「……なんかムカつくな」


小さく呟いていた。


前世で何度もあった光景。


責任だけ押し付けられ、集中砲火を浴びる立場。


理屈では分かっている。合理的な判断だ。でも感情が少しだけ反発した。


ほんの少しだけ。


「レイジ、指示!!」

ガルムが叫ぶ。


俺は息を吐いた。


目立たない範囲。


ギリギリ。


“普通より少し上”に見える程度。


それなら。


「ガルム、左へ押し返せ」

「任せろ!」


「ミーナ、三秒後に最大じゃない爆発」

「最大じゃないって何!?」

「七割」

「細かいな!」


笑いながら詠唱を始める。


相手が再突撃。


その瞬間。


「今!」


爆発。


視界が歪む。


ガルムが突進し、前衛を場外寸前まで押し込む。バランスを崩したところへ、支援役の魔法が誤射気味に味方へ当たる。


連携崩壊。


審判の声が響いた。


「前衛、場外! 一名脱落!」


観客が一気に沸いた。


「Fクラスが先取!?」

「マジかよ!」


まずい。


成功しすぎた。


Aクラス残り二人が距離を取る。完全に警戒モードだ。


そして中央の男子が、はっきり言った。


「……やっぱり、お前が原因だな」


完全に確信されている。


(あー……終わったな、これ)


目立たない計画、再び崩壊。


だがもう戦闘は止まらない。


残り二人が同時に詠唱を開始した。


空気が震える。


さっきまでとは明らかに違う、強い魔力反応。


観客席がざわつく。


「本気魔法だぞ……」

「演習で出すレベルじゃない!」


結界が強化される音が響く。


そして俺は理解した。


——これは、避けないと本気で危ない。



空気が震えていた。


Aクラスの二人が同時に詠唱を続け、演習場の温度がわずかに下がる。魔力が集まりすぎて、肌が粟立つ感覚。さっきまでの模擬戦とは明らかに別物だった。


観客席がざわつく。


「おい、あれ本気魔法じゃないか?」

「演習用出力じゃないぞ……!」


結界の外側で教師たちが慌てて強化術式を重ねているのが見えた。


(……やりすぎだろ)


俺は小さく息を吐いた。


本来ならここで降参すればいい。目立たず、安全に終われる。だが問題は——この攻撃、ガルムとミーナがまともに受けたら普通に危険だということだった。


ガルムは前に立ち、盾のように構えている。


「来るぞ!!」


ミーナも詠唱を続けているが、相手の出力には間に合わない。


(さて……どうする)


頭の中で選択肢が並ぶ。


① 逃げる → チームが被弾

② 本気で防ぐ → 強さバレ確定

③ ギリギリで調整する → 難易度激高


……三択目しかない。


前世で学んだことがある。


「絶対に失敗できない調整」は、だいたい無茶だ。


でもやるしかない。


「ガルム、しゃがめ!」


「え!?」


「今!!」


反射的に叫ぶ。


ガルムが条件反射で姿勢を落とした瞬間、巨大な氷槍と光弾が同時に放たれた。


演習場が白く染まる。


その刹那。


俺は一歩だけ前に出た。


手を前へ。


魔力を“ほんの少し”だけ流す。


ほんの少し。


ほんの少しだけ。


——本気の一万分の一。


空気が歪んだ。


見えない壁が一瞬だけ形成され、攻撃の軌道がわずかに逸れる。氷槍は地面を抉り、光弾は結界に直撃して爆ぜた。


轟音。


砂煙。


衝撃波。


観客席から悲鳴が上がる。


煙が晴れたとき。


俺たちは立っていた。


無傷ではないが、戦闘続行可能。


審判の教師が目を見開いている。


「……今の、防いだのか?」


まずい。


俺は即座に膝をついた。


「ぐっ……!」


わざと息を荒げる。肩を押さえる。限界演技。


「レイジ!?」

ミーナが駆け寄る。


「大丈夫……ギリギリ」

「ギリギリって顔じゃないけど!?」


ガルムが振り向く。


「助かった……今のマジで危なかったぞ!」


観客席からも声が上がる。


「偶然か?」

「結界に当たったんじゃ?」

「運良すぎだろ……」


よし。


セーフ判定。


完全に疑いが消えたわけじゃないが、“奇跡的に耐えた”ラインには収まった。


Aクラス側も驚いていた。詠唱を止め、互いに顔を見合わせている。


その隙。


「今だ、ガルム!」


「おおおお!!」


ガルムが突撃。


勢いそのままに残りの一人を押し込み、場外へ弾き飛ばす。


「二名目、場外!」


歓声が上がる。


残るは支援役一人。


ミーナがニヤリと笑った。


「終わり!」


小規模爆発。


煙が弾け、相手が尻もちをつく。


審判の手が上がった。


「——勝者、Fクラスチーム!」


一瞬の静寂。


次の瞬間、演習場がどよめきに包まれた。


「FクラスがAに勝った!?」

「ありえねぇ!!」

「指揮してた新入生、やばくないか?」


……やばいのは俺の今後だ。


ガルムが俺を抱き上げる。


「やったぞレイジ!!」

「降ろせ! 目立つ!!」


ミーナも笑いながら言う。


「最初は雑魚かと思ったけど、使えるじゃん」

「褒めてるのかそれ」


周囲の視線が再び集まり始める。


まずい。


非常にまずい。


その時、演習場入口から拍手が聞こえた。


振り向く。


そこに立っていたのは——レティシアだった。


いつから見ていたのか分からない。


彼女は静かに歩み寄り、俺を見る。


「やはり、隠していましたね」


小声だった。


誰にも聞こえない距離。


「……今回は偶然です」

「三度目の偶然ですね」


否定できない回数になってきた。


レティシアは楽しそうに微笑む。


「安心してください。まだ誰も確信していません」

「……まだ?」

「ええ。ですが時間の問題です」


恐ろしい宣告だった。


彼女は少しだけ顔を近づける。


「次は、私も本気で試します」


宣戦布告。


完全にロックオンされている。


俺は空を見上げた。


青い。


平和そうな空だ。


なのに現実は真逆。


(……どうしてこうなる)


落ちこぼれとして静かに生きる予定だった異世界生活は、気づけば学園中の注目を集め始めていた。


そして俺はまだ知らない。


この小さな勝利が、Fクラスそのものを大きく変えていく始まりになることを。


——元社畜の平穏計画は、今日も順調に失敗していた。

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