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王都襲撃


異変は、夜に起きた。


王都アルヴェイン。

魔術院上層区画。


宿舎として割り当てられた部屋の窓からは、無数の灯りが見えていた。


昼間の喧騒とは違う、静かな夜の王都。


「……眠れない」


ベッドの上で天井を見ながら呟く。


地下封印区画での出来事が頭から離れない。


アーク・シール。

封印鍵。

黒獣の声。


自分が世界の仕組みの一部だったなんて、まだ現実感がない。


コンコン。


控えめなノック。


「起きてますか?」


ノアだった。


扉を開けると、寝間着の上に外套を羽織った姿。


少し不安そう。


「音が……落ち着かなくて」


彼女は胸元の装置を押さえている。


共鳴が続いているらしい。


「また封印の反応か?」


「違います」


首を振る。


「もっと近いです」


その瞬間。


――ドン。


遠くで爆発音。


床が揺れた。


窓の外を見る。


夜空が赤く染まっていた。


魔術院の外周部。


炎が上がっている。


警報魔術が鳴り響いた。


《緊急警報。外壁防衛結界、破損確認》


《全職員、戦闘態勢へ移行》


ノアの顔が青ざめる。


「……来ました」


嫌な予感が確信に変わる。



廊下へ出ると、すでに騎士団が走っていた。


魔術師たちが戦闘装備へ切り替えている。


リヒトがこちらへ駆け寄る。


「神谷レイジ、ノア。来い」


「何が起きてるんですか」


「魔術院外壁が同時攻撃を受けた」


短い説明。


「目的は不明——だが」


一瞬、視線がこちらへ向く。


「封印区画の可能性が高い」


やっぱりか。


階段を降りる途中、窓越しに見えた。


黒い影。


空中に浮かぶ人影。


ローブ姿。


顔は仮面で覆われている。


そして。


紫色の魔法陣。


エリシアが合流する。


「敵は反封印派ネメシス


聞き慣れない名前。


「古代封印の破壊を目的とする組織です」


ノアが震える声で言う。


「そんなの……本当に存在したんですか?」


エリシアは短く答えた。


「伝説だと思われていました」


つまり。


今まで影にいた連中。


そして今日。


動いた理由は一つ。


俺だ。



魔術院外庭。


結界の一部が破壊され、夜空がむき出しになっていた。


騎士団と仮面の魔術師たちが交戦している。


光と爆炎。


完全な戦場。


その中心。


巨大な魔法陣が展開されていた。


黒い術式。


地下封印区画へ向けて伸びている。


「封印干渉術式……!」


エリシアが叫ぶ。


「まずい、直接侵入される!」


仮面の男がゆっくりこちらを見る。


距離は離れているのに、視線が合った気がした。


そして。


低い声が夜に響く。


「見つけたぞ」


魔力が収束する。


完全に。


こちらを狙っている。


封印鍵アーク・シール


空気が凍った。


敵は知っている。


俺の正体を。


次の瞬間、巨大な魔力弾が放たれた。


一直線。


俺へ向かって。



巨大な魔力弾が一直線に迫る。


避けられない速度。


空気が焼ける。


「伏せろ!!」


リヒトが叫ぶ。


だが身体が動くより早く——


光が割り込んだ。


ガァンッ!!


金属の衝突音。


目の前で魔力弾が弾かれる。


アルベルトだった。


白銀の剣を構え、衝撃を受け止めている。


「王都で歓迎される方法としては、少々過激ですね」


軽口。


だが額には汗。


今の一撃は本気だった。


爆発が夜空を照らす。


騎士団が前線を形成する。


「防衛線展開!」


魔術師たちが結界を重ねる。


仮面の魔術師たちは数十人。


統率が取れている。


ただのテロではない。


戦争の動き。


エリシアが叫ぶ。


「彼らの目的はレイジです! 隔離を——」


その瞬間。


仮面の男が手を上げた。


地面に黒い魔法陣が展開。


影が伸びる。


鎖のような魔力が地面から飛び出した。


一直線に俺を拘束しようとする。


(速い——)


反応が遅れる。


だが次の瞬間。


手首のブレスレットが強く光った。


ノアの装置も同時に輝く。


頭がクリアになる。


時間が少し遅く感じた。


(……見える)


魔力の流れ。


軌道。


弱点。


自然に理解できる。


身体が動いた。


半歩横へ。


鎖が空を切る。


自分でも驚くほど滑らかな回避。


アルベルトが目を見開く。


「今のは……」


仮面の男もわずかに動きを止めた。


「覚醒が早いな、鍵」


声に興味が混じる。


怒りではない。


研究対象を見る目。


それが逆に不気味だった。


リヒトが前へ出る。


剣を抜く。


「ここから先は騎士団領域だ」


重い殺気。


空気が震える。


だが敵は退かない。


むしろ笑った。


「我らは解放者だ」


黒い魔法陣が空に広がる。


巨大な術式。


魔術院全体を覆う規模。


エリシアの顔色が変わる。


「封印共鳴強制術……!?」


ノアが震える。


「まずい……音が暴れてる……!」


地下から鼓動が響く。


ドクン。


ドクン。


封印結晶が反応している。


敵の狙いは明確だった。


俺を使って封印を揺らす。


仮面の男が手を伸ばす。


「来い、アーク・シール」


胸の奥が強く引っ張られる。


体が前へ動きそうになる。


(……くそ)


抗う。


だが共鳴が強すぎる。


その時。


ノアが俺の腕を掴んだ。


「聞いてください!」


必死な声。


「あなたの音、まだ安定してます!」


彼女の魔力が流れ込む。


優しい波長。


暴れていた共鳴が少し静まる。


意識が戻る。


そして初めて理解した。


守られるだけじゃ終わらない。


狙われるなら——


止める側になるしかない。


魔力を集中させる。


暴走ではない。


制御。


地下結晶と同じリズム。


ドクン。


呼吸を合わせる。


視界が澄む。


仮面の男を見る。


「……それ以上やるなら」


自分でも驚くほど落ち着いた声。


魔力が静かに立ち上がる。


「止める」


夜の戦場で。


神谷レイジは初めて、自分の意思で力を解放しようとしていた。



夜空を覆う黒い魔法陣が脈動する。


地下封印区画の鼓動と完全に同期していた。


ドクン。


ドクン。


空気が震える。


仮面の男が静かに笑った。


「そうだ、それでいい」


手を広げる。


「鍵よ、目覚めろ」


胸の奥が強く引かれる。


だが——今回は違った。


ノアの手が腕を掴んでいる。


温かい魔力。


優しい波長。


暴走ではなく、支え。


呼吸を合わせる。


一度、目を閉じた。


(……落ち着け)


地下結晶と同じ鼓動。


ゆっくり。


確実に。


魔力を循環させる。


すると見えた。


空間に流れる魔力の線。


敵の術式。

結界の綻び。

共鳴の中心。


全部。


理解できる。


手を前へ出す。


自然に言葉が浮かぶ。


知らないはずの古代語。


「――アーク・シール」


瞬間。


足元に巨大な光の魔法陣が展開された。


白銀の術式。


黒い魔法陣と正反対の波長。


衝突。


ギィィィン!!


空間が悲鳴を上げる。


観測塔の結晶が一斉に発光。


騎士団も敵も動きを止めた。


誰も見たことのない魔法。


光の鎖が空間から現れる。


何十本もの鎖。


敵の術式へ絡みつく。


仮面の男の声が初めて揺れた。


「……制御しているだと?」


鎖が黒い魔法陣を締め上げる。


封印。


破壊ではない。


固定。


術式が次々と停止していく。


エリシアが息を呑む。


「干渉術式を……上書きしている……!」


地下から響いていた鼓動が安定する。


ドクン。


ドクン。


正常なリズムへ戻る。


仮面の男が一歩下がった。


「なるほど」


声に興奮が混じる。


「未完成の鍵ではないか」


手を振る。


瞬間、敵の魔術師たちが同時に後退した。


撤退。


騎士団が追おうとするが、リヒトが止める。


「追うな。罠の可能性がある」


仮面の男は最後にこちらを見る。


「いずれ再び会おう」


低い声。


「世界が終わる前に」


影が崩れ、姿が消えた。


静寂。


戦闘が終わった。


光の鎖がゆっくり消える。


同時に膝の力が抜けた。


「……っ」


倒れそうになる。


ノアが支える。


「大丈夫です!」


息が荒い。


だが意識は保てている。


暴走していない。


初めて。


自分の力を制御できた。


周囲を見る。


騎士団。

魔術師。

研究員。


全員がこちらを見ていた。


さっきまでの“観察対象”ではない。


完全に。


戦力として。


アルベルトが小さく笑う。


「……想像以上だ」


リヒトも頷く。


「王都防衛戦力に追加だな」


エリシアは静かに宣言した。


「神谷レイジは正式に王国特別管理対象——」


一拍置き。


「同時に、王国防衛協力者として登録します」


評価が変わった瞬間だった。


セリスが近づく。


少し安心した表情。


「王都を救いましたね」


「大げさです」


「いいえ」


真剣な目。


「今日からあなたは、ただの学生ではありません」


夜空を見上げる。


炎は消え、王都の灯りが戻っていた。


だが分かる。


これは始まりに過ぎない。


敵は俺を“鍵”と呼んだ。


そして世界は、封印の終わりへ向かって動き始めている。


神谷レイジ。


封印鍵アーク・シール


その名が、王都に刻まれた夜だった。

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