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王国からの招待



能力検査から三日後。


学園は、表面上はいつもの日常に戻っていた。


授業。

訓練。

生徒たちの笑い声。


だが裏側では、明らかに空気が変わっていた。


廊下を歩けば視線を感じる。


教師だけではない。


見慣れない制服の大人たち。


王国軍の兵士。

魔術院の研究員。


学園が半分、国家施設になったようだった。


「完全に監視対象じゃん……」


ミーナが小声で言う。


「否定できない」

俺は即答した。


隣ではノアが資料を抱えながら歩いている。


すでに半公式の同行状態。


最初は距離を取っていた彼女も、今では自然に隣にいる。


ガルムがニヤニヤしながら言う。


「お前ら完全にコンビ扱いだぞ」


「違う」

「ち、違います!」


俺とノアが同時に否定した。


……タイミングが最悪だった。


ミーナが吹き出す。


「息ぴったりじゃん」


ノアの顔が真っ赤になる。


その時。


学園全体に鐘の音が響いた。


通常授業停止の合図。


生徒たちがざわつく。


放送魔術が起動する。


《全生徒へ通達。中央広場へ集合》


嫌な予感しかしない。



中央広場。


すでに全校生徒が集まっていた。


そして。


見慣れない光景。


王国騎士団が整列している。


銀の鎧。

統一された旗。


中央には豪華な馬車。


完全に公式行事。


ざわめきが広がる。


「なんだこれ?」

「王族来てるのか?」


やがて学園長が前へ出た。


「本日、王国より正式使節が到着した」


空気が張り詰める。


「目的は——特別招待の通達である」


視線が自然とこちらへ集まり始める。


嫌な予感が確信へ変わる。


馬車の扉が開いた。


中から降りてきたのは、若い女性。


金色の長髪。

白と青の礼装。

胸元の紋章。


王族。


誰が見ても分かる。


広場が静まり返る。


彼女は堂々と前へ歩き、声を響かせた。


「王国第二王女、セリス・アルヴェインです」


どよめき。


王女。


本物。


セリスは生徒たちを見渡し、まっすぐ言った。


「本日、王都より正式な招待を持参しました」


一歩前へ出る。


そして。


視線が止まる。


完全に。


俺に。


「神谷レイジ」


名前が広場に響いた。


数百人の視線が一斉に集まる。


逃げ場ゼロ。


王女は微笑む。


だがその瞳は真剣だった。


「あなたを王都へ招待します」


ざわめきが爆発する。


「えええ!?」

「なんでFクラス!?」

「王都!?」


ガルムが固まる。


ミーナが口を開ける。


ノアは完全にフリーズ。


王女は続けた。


「これは個人的な招待ではありません」


声が少し低くなる。


「王国議会承認による正式要請です」


つまり。


拒否権はない。


王国が動いた。


学園を越え、

国家を越え、

物語の舞台が広がる。


神谷レイジは今、王国の中心へ呼ばれようとしていた。




中央広場は、完全に混乱していた。


「王都ってあの王都!?」

「議会承認って何だよ!?」

「なんでレイジ!?」


ざわめきが止まらない。


当然だ。


ただの学生が王女直々に指名されるなど、前代未聞だった。


俺自身が一番状況を理解できていない。


王女セリスは静かに手を上げた。


その瞬間、広場の音がすっと消える。


魔力による簡易静音結界。


さすが王族、としか言いようがない。


「詳細は個別に説明します」


彼女の視線がこちらへ向く。


逃げ場はなかった。



学園本館・応接室。


豪華だが堅苦しい部屋。


学園長、監察官リヒト、魔術院代表エリシア。


そして王女セリス。


完全に国家会議の構図だった。


俺とノアだけが明らかに場違い。


「まず安心してください」


セリスが穏やかに言う。


「拘束ではありません」


「……それは助かります」


本音だった。


彼女は小さく笑った。


「ただし重要案件ではあります」


やっぱりそうなる。


セリスは真剣な表情に戻る。


「神谷レイジ。あなたを王都へ招く理由は三つあります」


指を立てる。


「第一に、封印指定級存在の共鳴者である可能性」


予想通り。


「第二に、能力検査で確認された特殊魔力構造」


ノアが少し緊張した様子で背筋を伸ばす。


そして。


セリスは三本目の指を立てた。


「第三に——王都地下封印区画が反応したためです」


空気が止まった。


「……反応?」


思わず聞き返す。


エリシアが補足する。


「王都には古代封印群が存在します」


学園長が頷く。


「王国最大級の封印管理施設だ」


セリスが続ける。


「あなたの覚醒以降、封印の一部が周期的な魔力共鳴を起こしています」


つまり。


俺が原因?


いや。


俺と“繋がっている”。


「王都で直接確認する必要があります」


拒否できる雰囲気ではない。


だが一つ疑問が浮かぶ。


「……危険じゃないんですか」


セリスは少し考えて答えた。


「危険です」


即答だった。


「だからこそ、王都の管理下で行います」


正直すぎる。


だが嘘はない。


ノアが小さく手を挙げた。


「わ、私も同行するんですか?」


エリシアが頷く。


「当然です。共鳴観測者として必須です」


ノアが青ざめる。


「王都……」


地方出身らしい反応だった。


リヒトが低く言う。


「護衛は騎士団が担当する。安全は保証しよう」


保証、という言葉が逆に不安を強めた。


セリスがこちらを見る。


王女ではなく、一人の人間の目だった。


「無理にとは言いません」


少しだけ声が柔らかくなる。


「ですが、あなた自身の答えにも繋がるはずです」


転生の理由。


黒獣。

封印。

二重魔力。


全部。


ここで断れば、何も分からないままになる。


深く息を吸う。


そして答えた。


「……行きます」


部屋の空気がわずかに動いた。


セリスが微笑む。


「ありがとうございます」


その笑顔は、政治的なものではなく、少しだけ安心したように見えた。


こうして。


学園生活は新しい段階へ進む。


次の舞台は——王都。


世界の中心。


そして封印の核心が眠る場所だった。



王都行きが正式に決まったのは、その日の夕方だった。


学園内にはすでに噂が広がっている。


「Fクラスのレイジが王都行き」

「王女直々の招待らしい」

「国家案件だってよ」


廊下を歩くだけで視線が集まる。


もう隠れる段階は終わっていた。



寮の部屋。


最低限の荷物をまとめながら、ようやく現実感が湧いてくる。


王都。


この国の中心。


政治、軍事、魔術——すべてが集まる場所。


「……遠いな」


思わず呟く。


コンコン、とノック。


「入っていいですか?」


ノアだった。


両手で小さな箱を抱えている。


「これ、魔術院から支給です」


中には細い銀色のブレスレット。


「共鳴安定装置です。昨日の暴走対策で……」


少し申し訳なさそうに言う。


「私も同じもの付けます」


見ると、彼女の手首にも同型の装置があった。


対になる設計。


思わず苦笑する。


「完全にセット扱いだな」

「そ、そうですね……」


少し照れるノア。


沈黙が落ちる。


だが気まずくはない。


「……怖いですか?」


彼女が小さく聞いた。


「王都」


少し考える。


「分からないことが多いのが怖い」


正直な答えだった。


ノアは頷く。


「私もです。でも……」


少しだけ笑う。


「一人じゃないので」


その言葉に、不思議と肩の力が抜けた。



翌朝。


中央広場には王都行きの専用馬車が待機していた。


王国騎士団。

魔術院関係者。

学園教師。


完全な公式出発。


ガルムが肩を叩く。


「王都でも暴れてこいよ」

「暴れる予定はない」


ミーナが腕を組む。


「帰ってきたら全部話してね」


「生きて帰れよ」

カイルが静かに言った。


短い言葉だったが、一番重かった。


王女セリスが近づく。


今日は礼装ではなく、動きやすい外套姿だった。


「準備はよろしいですか?」


「あとは乗るだけです」


彼女は小さく頷く。


そして、周囲に聞こえない声で言った。


「……少しだけ、本音を言ってもいいですか?」


意外だった。


王女の顔ではない。


同年代の少女の表情。


「王都は、味方ばかりではありません」


低い声。


「あなたを“利用したい人”も必ず現れます」


予想はしていた。


だが本人から言われると重みが違う。


「だから私は、あなたを先に呼びました」


「先に?」


「ええ」


少しだけ微笑む。


「選ばれる前に、選ぶ時間を持ってほしかった」


その言葉は政治ではなかった。


個人的な配慮。


少し驚く。


彼女は王女としてではなく、一人の人間として関わろうとしている。


その時。


広場の端に立つ一人の少年が目に入った。


見知らぬ制服。


高級な剣。

鋭い視線。


明らかに貴族。


俺をじっと見ている。


敵意……というより。


評価。


値踏み。


目が合った瞬間、彼は小さく笑った。


挑戦的な笑み。


(……面倒そうなの来たな)


直感が告げる。


王都には、新しい関係が待っている。


味方も。

敵も。


馬車の扉が開く。


セリスが手を差し出す。


「では、王都へ」


一歩踏み出す。


学園を離れる瞬間。


平穏な日常が、完全に背後へ遠ざかった気がした。


こうして神谷レイジは、王国の中心へ向かう。


封印の真実と、

転生の理由、

そして世界の運命が待つ場所へ。


王都編、開幕。

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