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能力検査


王国魔術院による検査は、翌日すぐに始まった。


場所は学園地下。


普段、生徒が立ち入ることのない区画。


重い鉄扉を三つ通過し、魔力遮断結界を抜けた先に、それはあった。


巨大な円形施設。


床一面に刻まれた複雑な魔法陣。

壁には無数の観測装置。

天井には魔力収束用の結晶が浮かんでいる。


完全に研究施設だった。


「……本気すぎない?」


ミーナが思わず呟く。


ガルムも落ち着かない様子で周囲を見回す。


「俺ここ来ていい場所なのか?」


「本来は来ちゃダメな場所だな」

カイルが平然と言った。


中央にはエリシアと監察官リヒト。


そして白衣の魔術師たちが忙しく動いている。


ノアはその中で資料を抱え、明らかに緊張していた。


俺と目が合うと、小さく手を振る。


少しだけ安心した。


エリシアが前へ出る。


「これより能力検査を開始します」


声が施設全体に響く。


「目的は三つ」


指を立てる。


「魔力容量測定」

「属性適性確認」

「そして——異常共鳴反応の検証」


最後だけ明らかに重かった。


俺は円の中心へ立つよう指示される。


足元の魔法陣が淡く光る。


「まず通常測定です」


エリシアが言う。


「魔力を自然に循環させてください」


深呼吸。


意識を落ち着ける。


体内の魔力を流す。


いつも通り。


……のはずだった。


観測装置が一斉に光る。


魔術師たちがざわつく。


「数値上昇!」

「まだ伸びてる!?」

「測定上限越えます!」


エリシアが眉をひそめる。


「上限解除」


装置の光がさらに強くなる。


だが数値は止まらない。


リヒトが低く言う。


「学生の量ではないな」


ガルムが後ろで呟く。


「レイジってそんなヤバかったのか……?」


俺自身も驚いていた。


普段こんな感覚はない。


だが本番はここからだった。


「次、共鳴検査へ移行します」


エリシアの声が少し硬くなる。


「封印波長に近い魔力を模擬再現します」


嫌な予感。


ノアが慌てて近づく。


「少し負荷かかります。気分悪くなったらすぐ言ってください」


「分かった」


魔法陣が変形する。


黒い線が追加される。


空気が冷える。


そして。


低い振動音が響いた。


ドクン。


心臓が跳ねる。


視界がわずかに暗くなる。


(……これ)


遠征で感じた波長。


黒獣の気配に近い。


装置が魔力を放つ。


次の瞬間。


体の奥で“何か”が反応した。


ドン。


魔力が暴れた。


床の魔法陣が一気に発光する。


「出力急上昇!!」

「制御不能!」


ノアが叫ぶ。


「レイジさん、落ち着いて!」


落ち着こうとする。


だが違う。


俺が動かしていない。


内側から。


もう一つの魔力が目覚める。


熱い。


重い。


懐かしい。


頭の奥で声が響く。


『……目覚めの時』


視界が黒く染まり始めた。


エリシアが即座に命令する。


「全結界展開!」


壁面の魔法陣が同時起動。


防護層が形成される。


だが。


床に亀裂が走った。


魔力圧だけで石材が軋む。


生徒たちが息を呑む。


リヒトが剣に手をかける。


「止められるのか?」


エリシアは答えない。


ただ俺を見つめる。


そして小さく呟いた。


「……やはり」


魔力がさらに膨れ上がる。


もう一つの“核”が、完全に目を覚まそうとしていた。



ドクン。


心臓の鼓動が異常なほど大きく響く。


視界の端が黒く染まり、周囲の音が遠ざかっていく。


(……まずい)


分かっている。


魔力が暴走している。


だが制御できない。


俺の意思とは無関係に、体の奥から何かが溢れ出してくる。


床の魔法陣が白から黒へ変色した。


観測装置が次々と警告音を鳴らす。


「出力限界突破!」

「結界耐久率低下!」


エリシアが叫ぶ。


「第二防護層展開!」


光の壁が重なる。


だが魔力圧は止まらない。


空気そのものが重くなる。


ガルムが膝をついた。


「……重っ……!」


ミーナも歯を食いしばる。


「魔力だけで押されてる……!」


カイルが前へ出ようとするが、リヒトが腕で制した。


「近づくな。巻き込まれる」


正しい判断だった。


今の俺の周囲は、暴風の中心と同じ。


触れればただでは済まない。


頭の奥で声が響く。


『……未熟』


低い声。


黒獣のもの。


『器が耐えきれていない』


やめろ。


止まれ。


そう思っても魔力は増え続ける。


視界が揺れる。


意識が沈む。


(……このままじゃ)


その時。


結界の外から、小さな影が飛び込んできた。


「ノア!?」


誰かが叫ぶ。


ノアだった。


魔力圧に押されながら、一歩ずつ近づいてくる。


「危険だ、下がれ!」

エリシアが命じる。


だが彼女は止まらない。


震えながらも前へ進む。


「……大丈夫です」


小さな声。


「この音、知ってます」


俺の前まで来る。


距離、数メートル。


普通なら立っていられない圧力。


なのに彼女は目を閉じた。


両手を胸の前で重ねる。


淡い光が生まれる。


強い魔力ではない。


優しい波長。


静かな音。


ノアが呟く。


「怖くないですよ」


その声が、なぜかはっきり届いた。


「あなたの中の音、怒ってるんじゃない」


光が広がる。


暴れていた魔力に触れる。


衝突ではない。


共鳴。


『……同調者?』


頭の中の声が止まる。


初めて、戸惑ったように。


ノアが一歩近づく。


「落ち着いてください」


手を伸ばす。


触れる寸前。


俺の中の魔力が大きく揺れた。


視界が白く弾ける。


一瞬、別の景色が見えた。


広大な荒野。

黒い巨大な影。

その前に立つ、小さな光。


ノアと同じ色。


そして。


ドクン。


魔力が急速に収束した。


圧力が消える。


警告音が止まる。


静寂。


膝が崩れた。


「……はぁ……!」


息が戻る。


視界が正常に戻る。


目の前にはノアがいた。


少し汗をかいているが、無事だった。


「……戻りましたね」


安心したように笑う。


周囲が完全に沈黙していた。


誰も動かない。


エリシアがゆっくり近づく。


信じられないものを見る目で。


「……今、何をしました?」


ノアは困った顔をする。


「えっと……音を合わせただけです」


意味不明な説明。


だが結果は明白だった。


暴走が止まった。


しかも——


俺ではなく、ノアによって。


リヒトが低く呟く。


「……抑制できる存在がいたか」


その一言で理解した。


状況が変わった。


俺だけが異常だったわけじゃない。


ノアもまた、この事件の中心に立ち始めていた。




施設内に、ようやく静寂が戻った。


さっきまで鳴り響いていた警告音は止まり、魔法陣の光もゆっくりと弱まっていく。


誰もすぐには言葉を発しなかった。


ただ一つ確かなのは——


暴走は止まった。


そして、それを止めたのがノアだったという事実。


「……立てますか?」


ノアが手を差し出す。


少し迷ってから、その手を取った。


驚くほど普通の感触。


さっきまで世界を押し潰していた魔力が嘘のようだった。


「ありがとう」


自然に言葉が出た。


ノアは少し照れたように笑う。


「いえ……私もびっくりしてます」



エリシアがゆっくり歩み寄る。


研究者の目だった。


恐怖ではない。


純粋な探究心。


「観測結果を表示」


壁面の装置に光が走る。


大量の数値と波形が浮かび上がった。


魔術師たちがざわめく。


「二重波形……いや三層?」

「同期率が途中で一致している……?」

「こんなデータ見たことないぞ」


エリシアが腕を組む。


数秒、黙って解析画面を見続けた。


そして結論を口にする。


「仮説を提示します」


全員の視線が集まる。


「神谷レイジの内部魔力は、単なる二重構造ではありません」


画面に三つの波形が表示される。


「第一層——人間由来の魔力」


これは当然。


「第二層——封印指定級存在と同系統の魔力」


部屋の空気が重くなる。


そして。


彼女は三つ目を指した。


「第三層——抑制波長」


ノアが目を丸くする。


「……え?」


エリシアは続ける。


「先ほどノアが干渉した瞬間、この第三層が活性化しました」


波形が重なり、安定した形になる。


「つまり彼の力は“暴走した”のではない」


一拍置く。


「封印側の魔力が覚醒しようとし、それを抑制する機構が働いた」


「抑制……?」

バルド先生が聞き返す。


「はい」


エリシアはノアを見る。


「そしてその機構に最も近い波長を持つのが彼女です」


ノアが完全に固まる。


「わ、私ですか!?」


「偶然ではありません」


エリシアの声は確信に満ちていた。


「共鳴感知体質は極めて稀ですが、封印系魔力と相性が良い例が古文書に存在します」


学園長が静かに言う。


「つまり……」


エリシアが頷いた。


「この二人は、対になる可能性があります」


対。


言葉が重く落ちる。


俺とノアが同時に沈黙した。


リヒトが腕を組む。


「危険度評価は?」


エリシアは少し考えた後、答える。


「単独では高危険度」


そして。


「共同状態では——安定」


施設が再び静まり返る。


結論は明確だった。


俺一人では危険。


だがノアと共にいれば制御可能。


ノアが小さく呟く。


「……だから、安心する音だったんだ」


その言葉に、不思議と納得してしまった。


エリシアが宣言する。


「本日より、神谷レイジの魔力管理は特別監視対象へ移行」


そして続ける。


「ノア・セレスを正式な共鳴観測者として任命します」


逃げ道は完全に消えた。


学生生活は、もう元には戻らない。


だが。


暴走の恐怖よりも先に、奇妙な安心感があった。


少なくとも——


一人ではない。


こうして能力検査は終了した。


だがそれは終わりではなく、


“覚醒編”の始まりに過ぎなかった。


封印は弱まり、

鍵は目覚め、

そして世界は次の段階へ進み始める。


神谷レイジとノア・セレス。


二つの音が重なった瞬間、物語は新しい運命へと動き出した。

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