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俺を嫌ってる高嶺の花が、転移したら妻になってた

掲載日:2025/12/26

 目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

ふと違和感より先に、隣の気配に気づく。

振り向くと、息を呑んだ。

はて、どういう状況だ。


――あれ、坂本さん?


 かつて、俺――山田雅人やまだまさとが一方的に距離を詰めすぎて、はっきりと嫌われていた、高嶺の花。

誰もが憧れるその背姿がそばに。

彼女が、何の警戒もなく無防備に、隣で眠っている。


 記憶が追いつく前に、小さな重みがのしかかった。


「ぱぱ、まま、起きて! 

 もう朝だよ」


 子どもが、俺と彼女の上に順番に乗ってくる。

自然すぎるその仕草に、頭が真っ白になる。


――俺たちは、死んだはずじゃなかったか。



 後になって分かったことだが、この家には三人分の生活があり、俺は夫で、坂本さんは妻で、そしてこの子は俺たちの子どもだった。


――どうやら、俺達は異世界転移したらしい。


生活の痕跡はどれも自然体そのもので、まるで俺たちが長年ここで夫婦関係をやってきたかのようだった。

しかもその関係は、俺たちが意図して選んだものではなく、最初から「既にそうだった」らしい。


――俺達の身体には、この世界の常識、この世界での自分の立場、職業などが、既に刷り込まれていた。




――――――――――――




「すっかり、嫌われちまったな……」


 ただの、いつもの帰宅路。

そこで、またあの子のことを考えていた。


 坂本美心さかもとみこ、我が学園生全員が虜になるほどの美貌の持ち主。

黒髪長髪で背は比較的高め、細身でスラっとした立ち姿は誰もが羨む。

誰とも分け隔たりなく話し、楽しそうにする姿にはおもわず見惚れる。

そんな彼女のことを、俺はもちろん大好きだった。


 あまり関わったことはないのだが、いつも見せる何気ない笑顔や、横を通ったときに感じる優しい甘い香りがたまらなく好きだ。

しかし、恋愛経験ゼロに近い俺に、彼女が振り向くわけもない。

DMで一目惚れしましただの、今日も可愛かったですだの、そういうのを送ったのが災いして、今じゃすっかり本人に嫌われている。

それも、はっきりと。


 なんで分かるかって?

そんなの、全SNSをブロックされ、なおかつ

『マサトくん、ちょっとキモいというか…』

みたいな陰口を聞いたからだ。


 嫌われてしまったからにはこれ以上手出しも何もしないが、静かに見守りましょうということで。

たまたま、帰路は同じ交差点を通るから、そこで少しでも彼女の近くにいるだけだ。


 交差点に着くと、青信号を待つ人集りが、今か今かとスマホをいじってたむろしていた。

先頭には……坂本さんの姿が。


 俺は少しづつ前に寄っていき、坂本さんとあと2人くらいを挟む形で近づいた。

ほんのりと、ここからも優しい香りが漂ってくる。


 やがて、信号に青が灯ると、人集りは一斉に歩き出す。

ふと彼女の方を見ると、少し早歩きをしていた。

俺も負けじとついていく。

気づけば、俺と坂本さんが少し離れた位置におり、後方に集る人達を先導する形に横断していた。


 …思わず、小刻みに動くスラっとした美脚に目移りしてしまう。

しかし、すぐにそっぽを向き、あと3メートルほどの向こう側へと向かっていた。


 ……なのだが。


 何かがおかしい。

思わず目を見開く。


そっぽを向いた先にて、視界の端が何かが動いた。

音がして、誰かが叫んでいる…?

坂本さんも何かを怖がるようにその場に立ち尽くしている。


 …危ない。

それだけは感じた。


 ―――思ったのも遅く、俺達の目の前に猛スピードで走行している、制御を失った大型トラックが迫っていた。

止まる気配もなく、ただ立ち尽くすことしかできない。

だが、隣にいる彼女が、どうしても酷く怯えているのだけが見えた。


 …まずい。

なんとかしなくては。


 後方の人集りが一斉に声を上げているらしい。

……しかし、そんなの聞こえやしない。


「坂本さんっ…!」


 俺は動かせるはずもない身体を目一杯伸ばして、彼女を庇う形で抱きかかえた。


 そして、そのまま逃げようとしたが――


 ―――ものすごい衝撃音とともに、激しい痛みに襲われたと思うと、俺も彼女も、血を流して倒れていた。





 ―――これで、終わったはずだった。

なのだが、だ。





 こうして第二生が始まって。

まるで不思議な感覚だ。


 あの衝撃音と、あの激しい痛みのことなど、当の昔のことにしか感じられない。

ただあるのは、俺達が夫婦であるという、作られた既成事実のみ。

望んで作られた関係というわけでもなく、ただここにその事実があるというだけ。


 日本とまるで似通った、いわば平行世界のような空間。

名義、地名、景色などは全く見覚えもないが、異世界特有の剣や魔術といった非現実さの無さに、どこか親近感すら湧いてしまう。

高層マンションの一室にて、専業主婦の妻と、在宅勤務している俺と、我が子一人の確かな一家の暮らしが、不自然に佇まっていた。


 ほっと一息をついた。

パタリとパソコンを閉じると、時刻はもう12:00を周っていた。

おそらく妻は、我が子を幼稚園に送り届け、買い出しをして帰ってきたところだろう。

ふとリビングに顔を出すと、無造作に置かれた買い物袋と、買ってきた品を冷蔵庫にしまう妻がいた。


「あ、お仕事お疲れ様です。

 今から昼ごはん作りますね」


 手慣れたように声をかけてきたと思えば、そそくさと昼食の用意を始めた。

始めて見る光景のはずなのに、なぜか新鮮味を感じなかった。


 ここで、思うところがある。

彼女は前世では学園の高嶺の花、坂本美心だった。

そして俺はそんな彼女に乱雑に好意を伝えて嫌われた身だ。

そんな二人が、死んだタイミングが一緒だったからって、肉体そのままで転移した先で夫婦だった。


 まるで都合が良すぎる。

俺的には、好意を未だ寄せる彼女と近くに居れることになって嬉しいばかりだが、

彼女にとっては最悪の二文字でしかないはずだ。

ただ、彼女は俺の妻としての役割をいかんなく果たしてくれている。

今朝だって、俺は何もせずとも妻の朝ごはんを食べられたし、息子の送迎だってやってくれた。

そして、今だって俺が急かしたわけでもないのに、昼食を作ってくれている。

その一連の姿を見るだけで、感謝の気持ちと好きという気持ちがどんどん増していく。


「できましたよ」


 テーブルの上には、二人前の昼食が置かれた。

俺はありがたく頂くと、すぐに食べ終え、


「ありがとう」


そう言い残して自部屋に帰った。


 時は流れ、辺りは夕空。

おそらくもうすぐ我が子が帰ってくる頃合いだろう。

今か今かとリビングで待ち構える。


 ガチャリと、玄関口が開く音がした。


「ぱぱ!

 ただいま!」


 それと同時に、可愛らしい息子が飛びついてきた。


「おかえりなさい。

 …ん?

 どうしたんだそんなに汚れて」


 息子の柔らかい肌に触れ、髪の毛の甘い香りに気を取られながらも、俺は服に付着する泥のような汚れを見つけた。

……あ、俺の服にも付いちゃった。


「あ、これはね――」


 と、息子が言いかけたところで。


「あ!

 もう帰ってすぐにお風呂に入りなさいって言ったのに」


 と、少々怒り気味に妻が駆け寄ってきた。


「ごめんなさい…」

「…今回は良いけど……

 パパにも付いちゃったから、一緒に入りなさい」

「はい…」


 と、しょんぼりする息子をよそに、俺もそそくさと入浴の準備を始めた。

お風呂場に入る手前。


「パパも、気をつけなさいね」


 と、どこか冷徹にあしらわれた。


 共に湯船に浸かると、話を振られた。


「ぱぱって、ままと仲悪いの?」


 唐突な質問である。

湯船で発泡している、ラベンダーの香りのする入浴剤の香りで鼻を和ませながら答えた。


「別に、悪くなんか――」


 と、言いかけると、少し考え詰める。

前世のことだ。

この世界に来てからも、妻は坂本さんであることに変わりはない。

肉体も、心持ちも、考え方も、何一つ変わっていない。

そうすると、今現在でも、俺は嫌われていると考えるほうが自然そうだ。


 ただ、我が子の前で仲悪いなんて言えるわけない。

言葉を慎むべき状況なのだ。


「――悪くなんか、ないよ」

「ふぅん」


 一度首を傾げられたが、それ以降は何もなく、ただ時間だけが過ぎた。

入浴を終えると、坂本さんの作った夕食を食し、入眠時刻になるまではリビングのソファーにてだらだらと過ごしていた。

だが、横目に見ると、黙々と家事をこなす妻の姿があった。

それを見てしまった以上、何も動かないわけにはいかなかった。


「ごめんね、俺なんかが夫で……」


 一家三人で、夫婦が子供を挟むようにして寝ようとしているところ。

息子は既に入眠していて、この会話は聞こえていないはず。


 妻の表情は、意外にも曇らなかった。


「なんで謝るんです?」


 そう自然に、首を傾げるように問うてくる。

なんでって、そりゃ夫が俺じゃあ嫌に決まってるからだよ。


「だって坂本さん、前世では俺のこと嫌いだったでしょ?」 

「…まぁ、そういうことになるね」

「にも関わらず、その嫌ってる人がよりにもよって夫だったら、そりゃ最悪だろうなって」

「…はぁ」


 その吐息は、ため息にも聞こえた。

全て何の感情もなく頷いてくるものだと思っていたが、そうではなかった。

妻は、何か呆れたように喋りだした。


「確かに、なんで夫がマサトくんなんだろうって思いますけど――」


 と、不意に身体を起こすと、その場に座り込み、俺の方を向いてきた。

パジャマ姿が、あまりに無防備に思えた。


「それは、これからいくらでも変えていけるんじゃないですか。

 この夫婦生活、どうせ死ぬまで続きますし」



 ―――優しい香りが鼻を通った。

どこからか温かい声が聞こえたよう。

気づけば、髪を少し雑にまとめる彼女にまた惚れていた。


「え、その……ありがとうございます…」

「何をもごもごと喋ってるんです?

 それに、私、嬉しかったんですよ?」

「…はい?」

「日本での最後、私一人で死んでたら、私一人で転移してただろうし。

 嫌ってる人とは言え、近くにいたら安心するものですよ?」

「…は、はい……」


 いつの間にか、彼女のペースに乗せられていた。

少し距離を置こうという考え方が、頭の中から消え去っていた。

これからは妻に苦労をさせたくない、ただそれだけを思い浮かべていた。


 妻はまた柔らかく寝そべる。


「…その、何から何までありがとうございます。

 流石、坂本さんというか……」


 その言葉に反応したのか少し顔を上げてこちらを向いてきた。


「勘違いしないでほしいんだけど、

 私はマサトくんを夫として扱いますから、マサトくんも私を妻として見てくださいね。

 前世のことなんて今は関係ないんですし」


 それだけ言い残して、目を瞑った。

俺もそれに倣い、同じように目を瞑る。

ただ温かな余韻に浸りながら、この日を終えた。



 今日から実践することがある。

妻がいつもやってくれる何気ない一手間を、俺がやるのだ。

例えば、毎朝に夫婦で飲むコーヒーを俺が用意したり…。


「マサトくん、別にそれくらい私がやるけど?」


 と、早くも妻に止められてしまった。

だが、それくらいでは怯まない。


「妻としても色々大変だろう?

 これくらいは俺にやらせてくれよ」


 これなら引き下がるだろう。

あえて、寄り添うような言い方をしている。

そこがポイント高いし、流石に引いてくれると試算しているが。


「――夫に無理させない、それが妻の役割、そして専業主婦の義務なんですから。

 いいからゆっくりしていてください」


 と、食い気味に止められ。

背中を押されるがままに持ち場であるソファーに戻された。


 しかし、ここで食い下がりたくもない。

妻に苦労はさせたくないと、昨晩誓ったのだから。


 その後も俺は必死に動いた。


 朝には。


「今日は俺が息子を送るよ」


 昼には。


「俺が昼食を作るよ」


 夕方には。


「俺が洗濯やっておくよ」


 夜には。


「俺がお風呂掃除やっておくよ」


 なんて幾度となく言ってみた。

ある程度、手間になりそうなものを選んだつもりだ。

しかし、そんな俺の好意をも、


「妻の義務として、私がやりますから」


の一言で全て弾き返された。

俺に何もせず、勤務に集中してほしいからだそう。


 この日は何もできなかったが、次の日こそは、明後日こそはと手伝おうとしたが、結果は何もできず終い。

無力さを実感したが、一番の痛手だったのは――


「…はぁ、だから何もしないでって言ったのに…」


 ――風邪を引いてしまったことだ。

体温、38.7℃。

頭がひどくふらついて座ることすらキツい。

無理したからとは一概には言わないが、ここ最近の疲弊が発症に影響したの確かだろう。


 結局、妻に一任させるのが最適解だったらしい。


 起きてから4時間ほど、何も口にしていない。

食欲がないわけではないが、いかんせん頭のふらつきが酷くて、食べようという気がしない。

今は昼頃だが、今回も何も食べようとも思わない。


 そのことを心配したのか、妻が部屋で寝込む俺のもとへ、すたすたと歩いてきた。


「何か、食べましょうよ。

 早く治すには、やっぱり食べないと」


 それもそうだよなとは思うが、それができたら苦労しない。

妻が俺の寝るベッドの隣で、椅子に座ってこちらをじっと見つめてくる。

この世界に来てからはあまり気にしていなかったが、やっぱり可愛い。

少し高い背に、さらさらとした長い髪。

小さくてつぶらな瞳に、潤んだ口元。

俺を包むほのかに甘い香りが、安心感を与えてくれる。


 そのおかげか、どこからか気が湧いてきた。


「分かったよ、何か食べよう」


 そう答えた。


「分かりました、雑炊でも持って来ますね」


 と、足早にリビングのキッチンへと去っていった。

スラっとした歩き姿に、思わず目移りした。


 やがて、小さな土鍋のような容器を持ってきたと思えば、蓋を開けると湯気がもわもわと立つ雑炊が目の前に配膳された。


「全部は食べなくていいですから、食べれるだけ、無理せずに食べてください」


 そう言うと、隣の椅子に座り込んだ。


「……じゃあ、いただきます」


 おもむろに身体を起こそうとしたが……

……起こすとしんどい。

やはり寝そべり、食べることは諦めることに。


「…ごめん、身体を起こしたらしんどいから食べられないわ」


 そう言い、また目を瞑って寝ようとする。

だが、妻は引き下がらなかった。


「…はぁ、言いましたよね?

 食べないと治らないって」

「…それはそうだけどさ……。

 身体を起こせないから…」


 妻は、少し考えてから。


「…分かりましたよ。

 じゃあそのまま寝ていてください――」


 ……流石に引き下がったか。

もう一度寝ようとした時だった。


「――私が食べさせてあげますから」


 少しの間、沈黙が流れた。


 少し経つと、その意味が分かった。


 ……え?

坂本さんに食べさせてもらえる?

それってどういう…?


「…え……?」

「だから、そのまま寝そべっててください。

 食べさせてあげますから」


 土鍋の近くに置いてあったスプーンを取ったと思えば、雑炊を掬って俺の口元へと運んでくる。

ふと口を開けると。


「熱いですから、気をつけてくださいね」


 と、坂本さんが俺の口内に食べ物を運んできた。

味は、意外に美味しかった。


 一瞬、考えてみる。

そこで、思いついた。

これは、俗に言う、『あーん』ってやつだ。


 それが分かると、俺の頬は途端に赤く染まった。


「…何を照れてるんです?」

「…っ!?

 何もないって」

「…はぁ、勘違いしないでくださいねって言いましたよね。

 妻の義務を果たしてるだけなのに、そうやって意識しちゃって」

「…し、してないですって」


 と、必死に弁明するが。

彼女の顔を見てみると、どこか微笑んでいるように見えた。

どことなく、楽しそうだ。

この世界に来てから、こんな顔は見たことなかった。


 その後も、変わりなく食べ進めていった。

たまに照れながら、談笑しながら、気づけば三分の二は食べていた。

もうこれ以上は要らない。


「ごちそうさまでした。

 ありがとうございます」

「ちょっとは口にできて、何よりです」


 妻は土鍋を片付け始めた。

食べたとは言え、すぐに身体が楽になるわけもない。

なのだが、それ以上のなんらかの治癒効果はあったはずだ。


 ……うっ。


 ここで不意に尿意が来た。

妻が横で片付けをしている最中だが。


「ちょっとトイレ行ってくるね」


 と、思い出し身体を起こすと、ふらつきながらもベッドから出る。

だが、予想以上に視界がゆがんで、思うように歩けず――


「…あっ!」 


 ――片足を踏み外して転んだ。


「…危ないっ…!」


 横にいる妻の声が聞こえたと思うと、俺は間一髪で転倒を回避した。

妻が俺を抱えてくれたらしい。

柔らかい両手が、俺を支えてくれていた。

このままであれば、間違いなく頭を強打していただろうに。


「…もう、だから無理するなとあれほど言っているのに」


 俺は体を張っ起こすと、ベッドにまた寝そべった。


 妻はまた呆れていた。

それに、申し訳なさを何度も覚える。

幾度と心配させてしまったことを悔やむ。


「…ごめんごめん、次からは気をつけ――」


 と、言いかけたが。

そんな声が聞こえた。


「――ホントに怪我したらどうすんのよ」


 少しだけ置いてから。

ようやく言葉が聞き取れた。

え、心配してくれてる?


 この姿は、少なくとも俺の知っている坂本さんとは乖離していた。


「…え?」

「…だから、マサトが怪我したらどうすんよって話」


 え、ちょ、“マサト”?

今まで“マサトくん”だったよな?

どういう距離の詰め方だよ。


「…私の大事な夫なんです。

 無理だけはしないでください」


 そう言う彼女の頬は、どこか赤らんでいた。

そして、手も震えていた。

少し経つと、照れくさそうにその場を去った。


 この日はずっと寝ていた。

時間が経つに連れて、体調がどんどん良くなることを感じていた。

だが、彼女のこの言葉だけは、脳裏から離れることはなかった。


 翌日の土曜日の6:00頃。

息子は休日ということもありゆっくり寝ているが、この夫婦は共に起きていた。


「元気になりました?」

「…坂本さんのおかげでなんとか…」

「…そう、それは良かった」


 妻は少し笑むと、嬉しそうにこちらを向いていた。

朝食も食べ終え、休日ということもありてのゆったりとしたこの朝の自由時間。

ソファーに凭れながら、だらだらとしていると、妻も隣に座ってきた。


 ふと、昨日のことを思い出す。


「…昨日は、ありがとう」


 そう言うと、妻はむくっと頬をふくらませる。

どこか無防備なその姿が、たまらなく愛おしかった。


「…妻として当然の義務ですから。

 夫を一番に思うのが役目でもありますし」


 そんなことを、当然のように言う。

俺のことを一番に思ってくれているのか。

こんな無理矢理作られた関係にでも、しっかり感情を注いで行動してくれているのか。


 この姿には、感銘意外の何もない。


「最後に聞きたいんだけど――」


 と前置きすると、美心は身構えをする。

こちらを向いて、俺より高いはずの身長を低く見せ、上目遣いでこちらを見てくる。


「――俺のことって、今はどう思ってる?」



 小馬鹿にするように不敵に笑むと、すっと柔らかい声で言った。

 


「――そんなの、好きに決まってるじゃないですか」


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