あなたは神を信じますか?
はじめまして。
こちらはプロローグになります。詳しい内容については後ほど触れます。
めんどくさくなったら次の話まで飛んでくださいませ!
「君は神を信じるかい?」
みたところ80歳前後に見えるきれいな白髪のその男性は、初対面であるにもかかわらず、目の前にいる少年――ルイ・ボーヴォワールにそう質問した。ルイは言われたことの意味が分からず、返答が遅れる。
「いや、唐突に聞いても困らせてしまうだけじゃったな。すまない。……別に、この質問への返答次第で君への対応が変わったりはせん。ただ純粋に、疑問に思っただけじゃ」
そういわれてもなお、ルイは返答に困った。
この国では、アルメナ教という宗教がとても大きな影響力を持っており、神に関する話は親しい中でしかしないというのが暗黙の了解としてある。ルイがすぐに答えられないのも当然なのだ。
しかし、その男性は暗黙の了解など知ったこっちゃないと話を続ける。
「実は、サジェスから宿題を出されていての。神の存在について考えなければならんのじゃ。こういうのは一人で考えるのではなく、複数人で議論を交わすべきじゃろう? ぜひ儂の相手になってほしい。まず、君は神を信じるかい?」
「……正直、あまり信じていないですね」
ここで、ルイがこの部屋に入って初めて声を発した。その声からは気怠さを感じられたが、同時に少しの好奇心が含まれている。
「そうか、ちょうどいい。それでは儂は神の存在を信じる側にまわろう。さてさて、まずはどうしてあまり信じていないのか、その理由を尋ねようか?」
「……信じていない、というか……神が居るっていう証拠がどこにもないから、居るとも居ないとも言えないはず、っていうのが僕の主張です」
「なるほど……つまり儂は、神がいると考える理由を君に言えばいいわけだ」
そういうと男は自分の髭を触りだした。その口元には自然と柔らかな笑みが浮かんでいる。どうやら本当に、この議論を楽しんでいるようだった。
彼は姿勢を正し、顎にあった自分の手をルイを目の前に持っていき、そして人差し指を一本だけ立てた。
「1つ目、魔法の存在について。我々は願うことによって、何もないところから石を生み出したり、永遠に燃え続ける火を自在に操ったりできるじゃろ。アルメナ教の上層部は、失った腕や足をもう一度生やしたりすることもできると聞く。このような奇跡を起こせるのは神あってこそだと思うのだが、どうじゃね?」
「確かに、魔法は人類の願いを聞き届けた神が代わりに起こしてくれる奇跡だ、という説はあります。ですが、現代では魔法の研究が進み、ある程度のことまで分かるようになって来ました」
ルイは、男からの質問にあまり間隔を空けずに答えた。
この手の意見はよくあるもので、その度にルイは学校で、同じような反論を何度もしてきた。学校に通っていたころの記憶を辿れば、体が覚えていたのか、すらすらと言葉が出てくる。
「ぼくは魔法は、物が上から下に落ちるように、単なる現象のひとつに過ぎないと思っています。魔法を人類が使えるから神はいる、というのは少し強引ではないですか?」
「なるほどね……無詠唱で魔法を使う際には神に願う必要があると聞くが、それについてはどう考えるのじゃ?」
「その人にとって願うという動作がルーティンになっているのでは? だから、願うと魔法を発動させやすい」
「なるほど……では、次に2つ目」
男は、ルイに全く反論されていないかのように、あっさりと次に移る。ルイが気づいたときには既に、彼の立てた指はもう1本増えていた。
「魔物の設計がかなりおかしい、ということは知っているじゃろう? 普通の動物なら飛べないような構造でも、翼をはためかせてドラゴンは飛ぶ。ありえない速度で走る狼や、異常なまでに成長する植物だっている。これらの違和感は全て、神が魔物を設計したからじゃというのがアルメナ教の教えのひとつじゃ。これについてはどう考える?」
「……なんで魔物が存在するのかは分かりませんが、それだけで神がいるという証明にはならないと思います」
「確かにそうじゃ。だがアルメナ教のこの考えに従うと、魔物が繁殖して増えるのではなく魔素だまりから突如発生するという謎についても、『神が魔素から自分の書いた設計図通りに魔物を生産している』というふうに解釈が出来る。辻褄はあっているように感じんか?」
ルイは、反対意見を言おうとしたが出てこなかった。心の中ではぼんやりと、「それを理由にするのは違うんじゃ……」と思っているが、神がいると仮定すれば確かにそう言えなくもない、気がしなくもなくて、微妙な顔で黙り込んだ。
男は、黙ったルイに何も言わず、楽しそうな顔で三本目の指を立てる。
「3つ目、精霊について。魔物でさえ食事をするのに、精霊には食事らしきものは無いじゃろ。というか、そもそもこちら側にすら存在していない。アルメナ教では、精霊を神の使い、又は小さな神々ということになっている。そうでなくても、精霊は現在、最も神に近いと考えられている。精霊がいるから神がいる、と考えるのはどうじゃろうか」
現在の説では、いま人類の住む空間を表とするならば裏側があり、そこに精霊は住んでいるということになっている。この裏側という言葉が、なかなかこの説を的確に表現できておらず、たくさんの学生を躓かせてきた。もちろんルイもその中の1人である。
より詳しくこの説をについて説明すると、同じ時間の経ち方で同じ大きさのもうひとつの世界が、同じ座標の数え方でこちら側と重なって存在している、という考え方だ。この裏側の世界は、ただ魔素――教科書的には、「ホシノ粒子」――だけで満たされている。
このホシノ粒子の塊が精霊であり、神が魔法を発現させる時のエネルギーもホシノ粒子である、ということになっている。
ルイはこの説をある程度理解するのにかなり時間がかかった。
「その説については深く知らないですが、それでも精霊がいるから神もいる、と考えるのは強引な気が……」
ルイは、もしかして神はいるんじゃ……という気分になってきた。信じはしないが、やっぱり居ないという証拠もないよな……と、若干流されそうになった瞬間に。
「ま、その通りなんじゃがな」
男があっさりと肯定した。
「正直儂、アルメナ教の教えあんま信じてないし。君が最初に言った、神は居るとも居ないとも言えないってのが正解じゃろ」
「だったら今までの時間、なんだったんですか……」
ルイは呆れながらそう言った。
なんで、辺境の村の村長がこんなこところまで学習しているのか。そこは気になったが、あまり突っ込まないこととする。
「村長! 助手君! 待たせてすまない!」
遠くから、ルイをこの部屋に連れてきた張本人の声がした。
「おや、楽しい議論の時間はもう終わりかの」
「そうみたいですね」
「なら、少年。君の旅がひと段落着いた頃にでも、続きをしようじゃないか」
そう言って村長は、優しげに微笑んだ。
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