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永遠の約束

10年後 —— 2月11日


泉アズカは大人になり、念願の職に就いていた。

その日、空はどんよりと曇り、会社には彼女しか残っていなかった。


「…あれからもう10年か…。今でも背筋がゾクッとする…」

彼女は独り言をつぶやきながら、薄暗く光るモニターを見つめていた。


その時、オフィスのドアが開いた。


「おい、泉。今日は残業ないぞ? なんでまだいるんだ?」




彼女が振り向くと、そこには上司の姿があった。


「え? でも先輩のケンチさんに、先月の財務データとサーバー統計の分析を頼まれて…」




「なんだよ、あのサボり魔…それ、本当は俺が彼に今朝渡した仕事だぞ。やらなくていい、君の仕事じゃない」




「…また騙された…。わかりました、片付けてから帰ります。先にどうぞ、部長」




「了解、了解。全部の電気消して、ドアの鍵忘れないでな」




「はい、了解です」




泉はデスクを片付け、すべての電気を消し、ドアの鍵を閉めた。

だが、出ていこうとしたその瞬間――


…彼女は“それ”を見た。


かつて自分を死の淵から救った者。

彼女にとっての「英雄」だった存在。


「…もう穏やかに暮らしてるんだな、泉?」




「うん…。あの時、あなたがいなかったら、私はもうこの世にいなかった…ありがとう、ヤディ」




「気にするな。誰にも俺みたいになってほしくなかっただけさ。世界にもあの世にも拒まれて、浮かばれない存在なんてさ。…もう知ってるんだろ?」




「知ってる…。あなたの、あまりにも悲しい過去も」




ヤディは苦笑しながら、窓の外を見つめた。


「そんな顔するなって。俺はもう慣れた。でもさ、もしよかったら、俺のために――遺体のないお墓を作ってくれないか? もう体は…完全に溶けて、消えちまったから」




「…うん。両親のお墓の隣に建てるよ」




「あぁ…アズカって名前、思い出したよ。二人、そう名乗ってたな。ご両親か…」




「そう。きっと、天国で安らかに眠ってると信じてる」




その時、突然オフィスのドアがまた開いた。


「おい泉、誰と喋ってるんだ? 幽霊と会話でもしてるのか?」




「え? たとえ幽霊でも…この人は私を救ってくれたの。そんな言い方、失礼だよ」




上司は驚愕し、背筋が凍りついた。


「ゆ、幽霊と…喋ってるのか!? ば、ばかな…」




「魂がこの世に縛られてるだけ。彼はただ話し相手が欲しいだけだよ」




「あ、ああ…なるほど、そっか、そっか……」




ヤディは突然大笑いした。

その笑い声に、部屋の温度は一気に冷え込んだ。


「う、うわ…なんだこの寒さ…お前の幽霊友達、怒ってんのか…?」




「さあ? 笑ってるだけだし、たぶん構って欲しいんだよ」




「ははは、ごめんごめん。お前、今じゃ理想的な恋人でもできたのかと思ってさ~」




「恋人!? 私、部長とは付き合ってませんけど…?」




部長の顔が真っ赤になった。


「な、なにそれ…付き合う…? な、なんの話?」




普段は強気な彼女が、今は照れて可愛くなっている。

そんな姿に泉も戸惑った。


「な、言ったろ? さっさと付き合えって。他の奴に取られるぞ~?」




「うるさいな、ヤディ! 部長とはそんな関係じゃ…!」




「い、泉…い、いじわる言わないでよぉ…」と小さな声で部長が呟く。




突然、部長が足を滑らせた――が、泉がとっさに支えた。


「だ、大丈夫ですか…? 部長…」




顔を赤くしたまま、二人は見つめ合った。


「…まさか、本気で…私のこと、好きなんですか?」




部長は顔を手で隠し、小さくうなずいた。


「ほら見ろ~? いい恋人ができてよかったな、泉」




「うぅ……」





---


1ヶ月後


泉と、上司として知られていた「レナリ」は、結婚した。

彼らの式は温かく、穏やかだった。


――そして、別の場所。

闇の中から二人を見つめていたヤディは、静かに呟く。


「ついに、お前も幸せになったか…泉。これからも…ずっと幸せでいろよ」




その身体に、柔らかな光が差し込み――


やがて彼は、消えていった。



---


終わり。

この物語を読んでくださり、ありがとうございました。心から感謝します。

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