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実績

今日は小学校の最後の日だ。本当なら、もうすぐ中学に進学するから嬉しいはずだった。だけど、最悪なことに…両親が仕事の都合で海外に転勤になってしまった。


「なんで今なの?僕だって、アニメみたいな高校生活を送りたかったのに…」

不機嫌な声でそう呟いた。


行き先は──インドネシア。


友達の噂やネットのフォーラム、メディアの話を聞く限り…あまり評判の良い国ではなさそうだった。正直、全然ワクワクしない。でも、一人にしておけないと両親に言われて、結局僕も行くことに。


せめて、そこまでひどくないことを願うしかない。


---


一週間後。僕はその新しい国に到着した。


最初にしたことは…食事だった。立ち寄ったのは、小さな食堂。店内は散らかっていて、ぐらぐらするテーブル、きしむプラスチック椅子、そして力なく回る古い扇風機が天井からぶら下がっていた。


「お母さん、本当にここで食べるの…?」


「もちろんよ。この国では、現地の文化に敬意を払わなきゃ。文句言わないの」

母は笑いながらそう言った。


最初は乗り気じゃなかったけど…食べてみると意外と美味しかった。そして、この国では静かに食べるのが礼儀らしく、落ち着いた雰囲気の中での食事は心地よかった。


もしかしたら…学校もそんなに悪くないのかもしれない。


---


さらに一週間後、僕は正式に中学校の生徒になった。


初日は「MPLS(新入生オリエンテーション)」の説明があった。7日間の日程で、最初の3日は学校の紹介、次の3日は文化体験、そして最終日は…キャンプ。


そして──夜の肝試し。


ただの怖がらせイベントではなく、精神力と勇気を試すものだと説明された。


実際、10人の生徒が「お化け役」として各ポイントに配置されていて、僕たちはマップを持って全10か所を巡り、スタンプを集める。全部集めたら「合格」となる。途中で怖くなったら、笛を吹いてリタイアするらしい。


---


僕は幽霊なんか怖くない。だからその夜、一人で行動することにした。


今のところ、スタンプは7個集まった。


「あと3つ…次は、湖の近くか。」


だが、不思議なことに…地図には最初に聞かされていなかったポイントがひとつ表示されていた。湖の端に、ぽつんと。


好奇心に駆られて、僕はそこに向かった。


湖に着くと、奇妙なスタンプがひとつ置かれていた。他のとは違い、暗い赤色で、何かの古代文字のような模様が彫られていた。でも、まあ特別バージョンだろうと思い、スタンプを押して立ち去ろうとした。


その時だった。


湖の中心から──白い服の女が現れた。

長い黒髪、顔は影で見えない。ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。


「…また演技か。騙されないぞ。」


そう思っていたけど─この湖、深さは50メートル以上ある。あんな場所に立てるはずがない。


「まさか…本物?」


僕が一歩下がると、女はすでに湖の端に立っていた。顔はまだ見えない。すると、視界が歪んだ。


湖が…草原に変わった。そして女の姿も…僕の理想の女性へと変わっていた。

優しそうな微笑み…なぜか心が安らぐ。


無意識のうちに、僕は一歩ずつ近づいていた。


「僕…きみのこと──」


その瞬間、


「だめだ!!そっち行くな!!そいつは人間じゃない!!」


誰かが僕の腕を引っ張った。


「それは“ハントゥ・バニュ”だ!早く目を覚ませ!」


はっとして我に返ると──目の前にいたのは、ぬめった皮膚、空ろな目、河童のような頭をした化け物だった。


僕は震えた。けれど、腕を引っ張った彼は落ち着いた声で言った。


「大丈夫か?」


「う、うん……た、助けてくれてありがとう……」


「俺はヤディ・ソピアンディ。ジャジャングって呼んで。」


「僕は…泉アズカ。日本から来たんだ。」


「知ってるよ。三日目にずっと緊張してたから、気になってさ。」


「え?見てたの?」


「ちょっとだけね。」


そのまま、僕たちは歩きながら少し話をした。


「ところで、この国って苗字使わないの?」


「うん。大体名前だけで十分。日本の敬語文化とはちょっと違うかな。」


「じゃあ…ジャジャングって呼んでいい?」


「もちろん。“さん”とかつけるのはちょっと変だし。」


「ふふ、じゃあ…ありがとう、ジャジャング!」


「時間ギリギリだぞ、急いで戻れ!」


僕は彼に手を振って走り出した。


---


全員が戻った後、スタンプを確認する時間が始まった。僕も合格したらしい。


「そういえば、君を助けたって言ってた子、名前なんだっけ?」と、スタッフの一人が聞いた。


「ヤディ・ソピアンディ…ジャジャングって人。」


「…え?」


「ヤディ・ソピアンディ。イベントにも参加してたって言ってたけど…」


その場が静まり返った。スタッフが名簿を再確認する。


だが—その名前はどこにもなかった。


「そのような名前の生徒もスタッフも、いません。」


「え……?」


僕は呆然としたまま、その場に立ち尽くした。


あの人は…一体、誰だったんだ?


どうして、僕は彼に「前にも会った気がする」と感じたんだろう…。

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