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雷鳴の覇姫

空が割れた。

白銀の雷光が震えるように拡散し、その中心から巨大な黒影が落下してくる。浮遊大陸アルメイダの主要都市クレイドルの広場に、轟音と共に着地した"それ"は、三階建ての建物ほどもある巨躯を持つ魔獣だった。

「グオォォォン!」

獣の咆哮が街に響き渡り、パニックに陥った市民たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う。巨大な鱗に覆われた体、背中には岩のような棘が連なり、幾重もの牙を持つ顎からは粘液が滴り落ちていた。空からの侵入者——天穿てんせん種と呼ばれる魔獣の一種だ。

「おやおや、随分と派手な登場ですわね」

広場の端から、一人の女性が優雅に歩み出た。

艶やかな真紅の髪を風になびかせ、黄金の瞳が獣を見据える。その姿は絵画から抜け出してきたような美しさ——しかし、普通の貴婦人とは明らかに違っていた。たわわに実った胸元を大胆に強調するコルセット、しなやかな太腿を覗かせる短いスカート、そして全身を彩る黒と金の装飾が施された鎧。その異様な出で立ちは、通りすがりの市民たちの視線を釘付けにした。

「まぁ、暇を持て余していたところですわ。ちょうど良い相手ですわね!」

彼女の名はクラウディア・ヴァル=ザ=イグニス。浮遊大陸で最も強く、最も美しく、そして最も厄介な女性剣士として知られる——自称だが——"雷鳴の覇姫"である。

天穿種が再び咆哮を上げると、クラウディアは首をかしげ、露わな挑発的な笑みを浮かべた。

「うるさいですわね。わたくしの耳を傷めないでいただきたいものですわ」

クラウディアの右手が腰に差した長剣の柄に触れる。剣を鞘から抜くと同時に、大気が震えた。剣身は青い光を帯び、まるで生きているかのように脈動していた。

「わたくしの相手をする覚悟はありますの?」

天穿種は彼女の言葉など理解できないが、本能的に危険を感じ取ったのか、巨大な前脚を振り上げてクラウディアに向かって振り下ろした。

「ふん!」

クラウディアはその攻撃を軽々と避け、魔獣の腕を駆け上がる。その動きは疾風のごとく、一般人の目には残像すら捉えられないほどの速さだった。

「わたくしの剣は、鋼すら両断する雷霆らいていですわ!」

彼女の剣が空中で青い軌跡を描いた。一瞬の閃光——そして魔獣の腕が付け根から切断される。黒い体液が噴出し、断たれた巨大な腕が地面に落下、近くの露店を粉砕した。

「あらあら、少々片づけが大変になりそうですわね」

クラウディアは魔獣の背中に着地し、全く動じた様子もなく、長い髪をさらりと後ろに流した。その姿は、まるで死闘の最中にあるとは思えないほど優雅だった。

天穿種は激痛に悶え、残りの腕で自分の背に乗るクラウディアを払おうと暴れ始めた。建物が振動し、通りの石畳が割れ、近隣の窓ガラスが次々と砕け散る。

「もう、じっとしていらっしゃいな!」

クラウディアは剣を魔獣の背中に突き刺した。その瞬間、青い電光が剣身から迸り、魔獣の全身を駆け巡る。雷撃を浴びた天穿種は身震いし、その巨体が一時的に硬直した。

「さぁ、フィナーレの時間ですわ!」

彼女は剣を抜き、魔法の詠唱を始めた。彼女の周りに魔力が渦巻き、青く輝く符号が空中に浮かび上がる。

「聖なる光の刃よ、わが剣となりて敵を両断せよ——〈アストラル・セイバー〉!」

クラウディアの剣が虹色の光に包まれ、その刀身は十倍にも伸びた光の刃となった。彼女はその巨大な光の剣を振りかぶり、天穿種の首めがけて振り下ろした。

光の刃が魔獣の頸を貫いた瞬間、けたたましい断末魔の叫びと共に、巨大な頭部が宙に舞い上がった。それは緩やかに弧を描きながら落下し、不運にも広場の中央にある大噴水に激突した。石造りの彫像が粉々に砕け、水柱が天高く吹き上がる。

「ホーーッホッホッホ!」

クラウディアの高笑いが広場に響き渡った。彼女は空中から優雅に着地し、剣を鞘に収めた。

「わたくしが最強ですわ!」

その瞬間、無頭の天穿種の巨体が倒れ込み、近くの商店街に大きな穴を開けた。轟音と共に埃が舞い上がり、悲鳴と怒号が入り混じる。

クラウディアは勝利の余韻に浸る間もなく、周囲の惨状に気づいた。壊れた建物、倒壊した噴水、ずたずたになった露店——そして彼女を非難するように見つめる市民たちの視線。

しかし、彼女はほとんど意に介さない様子で肩をすくめた。

「小さな犠牲はしかたありませんわ。魔獣を倒したのですから、感謝されるべきでしょう?」

クラウディアがそう言うのと同時に、遠くから甲冑の音と号令が聞こえてきた。王国騎士団の姿が見え始める。

「あら、お片付けの方々がいらっしゃったようですわね」

彼女は髪を掻き上げ、満足げな笑みを浮かべた。

「わたくしの仕事はこれで終わりですわ。後のことはお任せしますわよ」

そう言うと、彼女は被害を受けた商店街とは反対方向へと歩き始めた。市民たちの困惑した視線を背に、彼女は颯爽と立ち去ろうとしていた——その瞬間。

「待ちなさい、クラウディア殿!」

力強い男性の声が彼女を呼び止めた。

振り返ると、一人の青年騎士が彼女に向かって大股で近づいてきていた。太陽の光を浴びて輝く銀の甲冑、真摯な眼差しを持つ碧眼、そして風になびく茶色の短髪。王国騎士団に所属する騎士、レオ・グラントだった。

「あら、レオ殿。いつもお疲れ様ですわね」

クラウディアは涼しい顔で挨拶した。レオの厳しい表情を見ても、全く動じる様子はない。

「またですか、クラウディア殿。今度の被害はかなりのものですぞ」

レオは眉間にしわを寄せながら、周囲の惨状を一瞥した。

「魔獣は見事に退治されましたが、その代償があまりにも大きい。噴水は完全に破壊され、商店街の一角は倒壊し、露店は——」

「細かいことは気にしないことですわ」

クラウディアは軽く手を振って、彼の言葉を遮った。

「わたくしが魔獣を倒さなければ、被害はもっと大きくなっていたでしょう? それに、あの天穿種はわたくしが呼び寄せたわけではありませんわ」

レオは深いため息をついた。彼女の言い分にも一理あることは認めざるを得ない。クラウディアの実力は疑いようがなく、彼女なしでは天穿種の討伐は困難を極めただろう。しかし——。

「それでも、もう少し被害を抑える戦い方があったはずです」

「そんなことを言われましても」クラウディアは肩をすくめた。「わたくしのやり方はこれが一番効率的なのですわ。早く決着をつければ、それだけ市民の命が救われるというものですわ」

レオは再び溜息をつき、手元の書類に目を落とした。

「とにかく、この件については正式な報告書を提出していただきたい。そして被害額の査定も行われます。前回同様、賠償金の一部はあなたに——」

「はいはい、わかっておりますわ」

クラウディアは退屈そうに手を振った。この手の会話は何度も繰り返されてきたものだ。

「いつものように、わたくしの報酬から差し引けばよろしいですわ。それよりも——」

彼女は突然、レオに近づき、その顔を覗き込むようにして微笑んだ。その距離の近さに、若い騎士の頬が赤く染まる。

「今夜はご一緒に夕食でもいかがですか? 『銀の月』という素敵な酒場を見つけたのですわ。料理も美味しいし、何よりお酒が絶品ですの」

「く、クラウディア殿! 今はそのような話をしている場合ではありません!」

レオは慌てて一歩後ずさりした。彼女の茶目っ気たっぷりな誘いに、いつも彼は動揺してしまう。

「そんなに固くならないでくださいな。仕事の話も交えながら、ですわよ?」

クラウディアは柔らかく笑った。しかし、その笑顔の裏に何かを企んでいることは、レオも薄々感じ取っていた。

「それに——」クラウディアは声を落として続けた。「最近、アルメイダの辺境で気になる動きがあるという噂を聞きましたの。もしかしたら、あなたの騎士団にとっても有益な情報かもしれませんわね」

レオの表情が引き締まった。彼女の言う「気になる動きとは」何か、その真意を測りかねた。だが、クラウディアの情報は往々にして正確なものだった。

「...わかりました。話だけでも聞かせていただきましょう」

「素晴らしいですわ! では、日没後に『銀の月』でお待ちしておりますわ」

クラウディアは満足げに微笑み、くるりと身を翻すと、来た道を優雅に歩き始めた。彼女の赤い髪が陽光を浴びて輝いている。

「ちなみに、今回の天穿種討伐の報酬はしっかりといただけますよね?」

彼女は振り返りながら尋ねた。

「規定通り査定されます」レオは淡々と答えた。「ただし、被害額が確定するまでは全額の支払いはできません」

「どうせなら、被害額より報酬の方が多くなるといいのですが...」

クラウディアは小さくつぶやき、手を振って去っていった。その背中を見送りながら、レオは複雑な思いに駆られていた。

彼女はいつものように傍若無人で、自分勝手だ。しかし、その圧倒的な実力と、どこか憎めない魅力には、いつも彼は振り回されてしまう。

レオは再び深いため息をつくと、部下たちに指示を出し始めた。倒れた魔獣の処理、負傷者の救助、被害状況の確認——やることは山積みだ。

そして彼には、今夜の「銀の月」での会合について、何も良い予感がしなかった。

日が落ち、クレイドルの街に夜の帳が下りる頃、「銀の月」と呼ばれる酒場は客で賑わっていた。銀細工の月の看板が掲げられたこの酒場は、上品すぎず下品すぎず、適度な活気と落ち着きを兼ね備えた場所として知られていた。

店内に一歩足を踏み入れると、調理された肉の香ばしい匂いと、樽から注がれる蜜酒の甘い香りが鼻腔をくすぐる。熱気と談笑の声が充満する中、奥のテーブルにはすでにクラウディアの姿があった。

「あら、レオ殿。ご来場くださったのですね」

彼女は優雅に手を振り、席に招いた。普段の戦闘服とは違い、今夜のクラウディアは赤と黒のドレスに身を包んでいた。しかし、それでも彼女特有の大胆さは健在で、背中が大きく開き、胸元も思い切り強調されている。

「遅れてすみません」

レオは軽く頭を下げ、彼女の向かいの席に着いた。彼は騎士団の正装ではなく、質素な私服姿だった。

「今日の騒動の後始末に時間がかかりまして」

「気にしないでくださいな。わたくしはお酒と共に、のんびり待っておりましたわ」

テーブルの上には、すでに空になったグラスが一つと、まだ手をつけていない料理の数々が並べられていた。クラウディアは給仕に手を挙げ、新たな飲み物を注文した。

「さて、レオ殿はお酒はお飲みになりますか?」

「いえ、今夜は控えておきます。公務中のようなものですので」

「まぁ、つまらないですわね」クラウディアは軽くため息をついた。「でも仕方ありませんわ。では、お食事だけでもどうぞ」

彼女は目の前の肉料理を勧めた。レオは恐る恐る一口を口に運び、その美味しさに目を見開いた。

「なかなか美味ですね」

「でしょう? この店の料理長は元王宮シェフなのですのよ。腕は確かですわ」

会話が弾み始め、クラウディアは次々と珍しい料理や飲み物を勧めてきた。彼女自身は遠慮なくお酒を飲み、頬を赤く染めていく。通常なら厳格なレオも、彼女の明るい話術に少しずつ心を開いていった。

しかし、楽しい時間も束の間。

「そろそろ本題に入りましょうか」

レオは口元を拭いながら切り出した。「先ほど仰っていた、辺境での『気になる動き』とは何でしょう?」

クラウディアの表情が一瞬だけ引き締まった。彼女はグラスに残った酒を一気に飲み干し、周囲を確認してから声を落とした。

「『煉界教団』という名の組織をご存知ですか?」

「煉界教団...」レオは眉を寄せた。「確か、古代の神を崇拝する秘密結社ですね。近年、辺境の村々で布教活動が活発化していると報告は受けています」

「その通りですわ。彼らは『新世界の創造』を標榜し、信者を集めている」クラウディアは真剣な表情で続けた。「しかし、最近はただの布教を超えて、もっと危険な活動を始めているようなのです」

「危険な活動とは?」

「古代神器の発掘、神殿跡の調査、そして...」クラウディアは更に声を落とした。「七英雄の血を引く者たちの捜索です」

「七英雄...」

レオの表情が硬くなった。七英雄とは、古代戦争で神と戦った伝説の戦士たち。彼らの血脈を引く者たちは、特殊な能力を持つとされているが、その多くは歴史の中に埋もれ、一般には知られていない。

「何故、彼らがそのような...」

「おそらく、古代の力を復活させるためでしょうね」クラウディアは肩をすくめた。「わたくしがこれを知ったのは、東の辺境、ラズベリー村で起きた事件からです」

「ラズベリー村...」レオは思い出そうとして顔をしかめた。「ああ、先月、火災があったという...」

「火災ではありませんわ。あれは襲撃だったのです」

クラウディアの金色の瞳が鋭く光った。

「村の神官が煉界教団の儀式を拒否したため、彼らが報復として村を襲ったのです。しかも、その際に村の少女が連れ去られたという噂も...」

「なぜそのような重大事件が王国に報告されていないのですか?」レオは声を荒げかけたが、周囲の目を気にして自制した。

「簡単なことですわ」クラウディアは冷静に答えた。「辺境の村と王都の間には距離があり、情報が正確に伝わりにくい。それに...」

彼女は一瞬言葉を選ぶように間を置いた。

「政治的な理由もあるでしょうね。煉界教団は貴族や政治家の中にも信者がいるとされています。彼らが情報を操作しているのかもしれません」

レオは重々しく頷いた。王国内の腐敗や癒着は、彼も薄々感じていたことだった。

「しかし、何故あなたがこのような情報を...」

「わたくし、好奇心が旺盛なだけですわ」

クラウディアは再び明るい笑顔を取り戻した。しかしその目は、どこか遠くを見ているようだった。

「それに、わたくしが目指しているのは『世界最強の女王』ですもの。自分の統べる世界で何が起きているか、知っておくのは当然でしょう?」

「女王...ですか」

レオは彼女の大言壮語に、半ば呆れ、半ば感心していた。

「そうですわ。いつか、この浮遊大陸アルメイダを、いえ、もっと広い世界を統べる女王に、このクラウディア・ヴァル=ザ=イグニスがなってみせますわ!」

彼女は高らかに宣言し、新たに運ばれてきたグラスを掲げた。

「ホーーッホッホッホ!」

その高笑いに、酒場の客たちが振り向き、クラウディアに視線を注いだ。しかし彼女は全く意に介さない様子で、グラスの中身を一気に飲み干した。

「...何故そこまでして女王になりたいのですか?」

レオは思わず尋ねていた。クラウディアの野心の源を知りたいという好奇心が、彼の中で湧き上がっていた。

彼女は一瞬だけ戸惑いの表情を見せ、そしてすぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「それはね、レオ殿」

彼女はテーブル越しに身を乗り出し、彼の顔を覗き込むようにして言った。

「わたくしの力を恐れず、わたくしをわたくしとして認めてくれる世界が欲しいからですわ」

その言葉に、真摯さと寂しさが混ざり合っていた。レオは彼女の金色の瞳の奥に、何か深い物語が隠されていることを感じ取った。

しかし、その瞬間は長くは続かなかった。クラウディアはすぐに元の陽気な調子に戻り、話題を変えた。

「さてさて、これで情報はお伝えしましたわ。あとは王国騎士団のお仕事ですわね」

「ええ...調査してみます」レオは頷いた。「ラズベリー村の件も含めて、徹底的に」

「素晴らしいですわ!」クラウディアは嬉しそうに手を叩いた。「これで、わたくしも今日の天穿種退治の賠償金を少しは相殺できるかしら?」

レオは溜息をついた。結局、彼女の目的はそこだったのか。

「それは難しいでしょう。制度上、別件ですので...」

「もう、融通が利かないのですから」クラウディアは頬を膨らませた。「わたくしだって、生活がかかっているのですよ?」

「そうおっしゃいますが」レオは冷静に指摘した。「今夜のこの豪勢な料理とお酒を見る限り、生活に困っているようには見えませんが」

「これはこれ、あれはあれですわ!」

彼女は言い訳がましく答え、残りのお酒を飲み干した。

夜は更けていき、二人の会話はより打ち解けたものになっていった。しかし、レオの心の中には、クラウディアの語った煉界教団の話と、彼女自身の謎が引っかかっていた。

彼は知らなかった。この夜の会話が、彼らの運命を大きく変える転機になることを——そして、クラウディアが語った「七英雄の血脈」の真実が、彼女自身に関わる重大な秘密だということを。

夜が深まり、「銀の月」を出たクラウディアは、星明かりの下、一人で歩いていた。

彼女の足取りは少し不安定だが、それでも美しく優雅だ。今宵飲んだ酒の量は、普通の人間なら確実に酔いつぶれるほどだが、彼女の体質は並外れている。それもまた、彼女の秘密の一つだった。

「さて、明日は何をしましょうかしら」

彼女は独り言を呟きながら、自分のアパートメントへと向かった。クレイドルの夜は意外と静かで、石畳の通りには数人の夜警と、閉店後の酒場から帰る酔客がちらほら見える程度だ。

突然、彼女の背後から物音がした。

クラウディアはすぐさま振り返り、警戒の姿勢をとった。街灯の薄暗い光の中、黒いマントを纏った人影が彼女を見つめていた。

「こんな夜更けに、一人の女性を尾行するとは、物騒な趣味をお持ちで」

クラウディアは冷ややかに言った。彼女の手は、いつでも剣を抜けるよう、腰の剣に添えられている。

「...雷鳴の覇姫、クラウディア・ヴァル=ザ=イグニス」

低い声が闇の中から響いた。男性の声だ。

「あなたが七英雄の血を引く者と聞いていたが、本当のようだな」

クラウディアの表情が一瞬凍りついた。

「何を言っているのかしら。わたくしはただの傭兵ですわよ?」

「嘘をつくな」男は一歩前に出た。「我々には分かる。あなたの中に眠る神の因子を」

街灯の光が男の顔を照らし出す。赤銅色の髪、氷のように冷たい青い瞳、そして左腕に巻かれた奇妙な紅い布——それは布ではなく、血のように赤い金属が腕に絡まっているように見えた。

「赤き腕のレイゼル...」

クラウディアは相手の正体を認識し、顔色を変えた。騎士団に伝わる指名手配犯の一人、煉界教団の幹部だ。

「わたくしの名を知っているとは光栄だな」レイゼルは薄く笑った。「だが、今日の私の目的はあなたではない」

「まぁ、わたくしと戦いたくないのですか?臆病者ですのね」

クラウディアは挑発するように言った。しかし、彼女の心は警戒で一杯だった。このままレイゼルと戦えば、街に大きな被害が出る可能性がある。それに、彼の真の目的が分からないのも不安材料だった。

「臆病ではない。私は常に目的に従って行動する」レイゼルは冷静に答えた。「今はまだ、あなたとの対決の時ではない」

「そう言いながら、わたくしの後をつけてきたのはどういうことですの?」

クラウディアは警戒を解かず、彼を見据えた。レイゼルの赤い左腕からは、わずかに不吉な魔力が漏れ出ている。彼女はそれを感じ取り、自分の魔力を静かに蓄え始めた。

「警告だ」レイゼルは言った。「我々の計画に干渉するな。特に東の辺境地域には近づくな」

「あら、そんなことを言われると、余計に興味が湧いてきますわね」

クラウディアは挑発的に微笑んだ。「それに、あなた方が一般市民に危害を加えるなら、黙ってはいられませんわ」

「汝、神の血を引く者が、何を正義を語るか」

レイゼルの言葉は冷酷だった。「七英雄は神に反逆した罪人だぞ。その末裔たるあなたがどうして正義を——」

「黙りなさい!」

クラウディアは突然怒りを露わにした。その声は夜の静けさを破り、一瞬だけ彼女の周囲に青い電光が走った。

「わたくしの先祖がどうであれ、わたくしはわたくし。今を生きる人間ですわ。あなた方のように過去の神や力に縋る愚か者とは違います」

レイゼルは彼女の怒りに動じなかった。

「いずれ分かる」彼は静かに言った。「あなたもまた、神の力に取り込まれる運命だということを」

「運命など、わたくしが決めますわ!ホーーッホッホッホ!」

クラウディアは高らかに笑ったが、その笑いにはいつものような軽さはなかった。何か、深い決意のようなものが感じられた。

「覚えておけ」レイゼルは後退しながら言った。「我々は『神兵アポクリュファ』を解放する。そして、新たな神の時代を切り開く」

「神兵...アポクリュファ?」

クラウディアはその名を初めて聞いた。何かとても重要なものを示す名前であることは、直感的に理解できた。

しかし、それについて尋ねる間もなく、レイゼルはマントを翻し、闇の中へと姿を消した。彼の姿を追おうとしたクラウディアだったが、突然の頭痛に襲われ、一瞬だけ膝をつく。

「くっ...また、この痛みが...」

彼女の頭の中で、何かが呼応するように疼いた。それは彼女自身も完全には理解していない、彼女の中に眠る力だった。

数分後、痛みが収まると、クラウディアはゆっくりと立ち上がった。彼女の表情は決意に満ちていた。

「神兵アポクリュファ...煉界教団...」

彼女は星空を見上げた。

「これは、わたくしが無視できないことですわね」

クラウディアは髪をなびかせ、自宅へと歩き出した。彼女の心の中では、すでに次の行動が決まっていた。

東の辺境、ラズベリー村へ向かうこと。そして、煉界教団の真の目的を突き止めること。

彼女自身の出自と能力の謎が、そこで明らかになる予感がした。

翌朝、クレイドルの街は早くも活気に満ちていた。前日の天穿種襲来による被害の跡も、すでに片付けられ始めている。浮遊大陸アルメイダの住民たちは、このような異変にもすぐに適応する強さを持っていた。

クラウディアのアパートメントは、クレイドルの中心部から少し離れた高級住宅街にあった。豪華とまでは言えないが、清潔で洗練された三階建ての石造りの建物の最上階を彼女は借りていた。

「はぁ...朝から頭が痛いですわ」

ベッドから起き上がったクラウディアは、長い赤髪を掻き上げながら溜息をついた。前夜の酒の影響もあるが、それよりもレイゼルとの遭遇が彼女の心を乱していた。

彼女は寝室の窓際に歩み寄り、外の景色を眺めた。雲海の上に浮かぶアルメイダ大陸の端が見える。その先には青い空と、遥か下方に広がる地上の大地。浮遊大陸と地上を隔てる距離は計り知れない。

「東の辺境か...」

彼女は昨夜の決意を反芻した。クレイドルから東のラズベリー村までは、馬で三日ほどの道のりだ。準備を整えなければならない。

クラウディアはすぐさま行動に移った。まずは身支度を整え、次いで彼女の特徴的な戦闘服に着替える。黒と金の装飾が施された革と鋼鉄のコルセット、短いスカート、そして長靴。彼女のトレードマークである赤い髪は、高く結い上げた。

「さて、必要なものは...」

彼女は部屋の奥にある木製のチェストを開け、中から小さな袋を取り出した。それを開くと、中には金貨や銀貨がぎっしりと詰まっていた。

「これでしばらくは大丈夫ですわね」

次に彼女は、壁に掛けられた長剣を手に取った。鋼の刀身に青い魔力の痕跡が流れている——雷魔法を帯びた彼女の愛剣「サンダークラッカー」だ。

「あなたと一緒なら、どんな敵にも負けませんわ」

クラウディアは剣に語りかけるように言った。それからベルトに剣を差し、最後に小さなバッグに必要最低限の荷物を詰め込んだ。

準備が整ったところで、彼女はふと思い出したように机に向かい、紙とペンを取り出した。

「まいど世話になっております。急ぎの依頼で東へ向かいます。家賃は前払いしてありますので、ご心配なく。クラウディア・ヴァル=ザ=イグニス」

彼女は簡潔な手紙を書き、アパートの管理人宛に置いておいた。これで当面の問題はない。

「さて、出発しますわよ」

クラウディアはそう呟き、アパートを後にした。

彼女がアパートを出てすぐ、予期せぬ人物と鉢合わせた。

「レオ殿!?」

クラウディアは驚きの声を上げた。王国騎士団のレオ・グラントが、彼女のアパートの前で立っていたのだ。彼は正装の騎士の鎧ではなく、旅装束に身を包んでいた。

「おはようございます、クラウディア殿」

レオは静かに挨拶した。その表情は昨夜よりも引き締まっており、何か決意したような光が目に宿っていた。

「何故ここに?わたくしを逮捕するためにまた来たのですか?」

クラウディアは冗談めかして言ったが、レオの真剣な表情を見て、すぐに冗談は控えた。

「昨夜のお話を調査した結果、ラズベリー村の件は事実でした」

レオの声は低く、周囲に聞かれないようにしていた。

「そして...あなたが東へ向かうことも予測できました」

「まぁ、見透かされてしまいましたわね」

クラウディアは肩をすくめた。「では、わたくしを止めにいらしたのですか?」

「いいえ」レオは首を横に振った。「同行させていただきたいのです」

「...えっ?」

クラウディアは目を丸くした。予想外の申し出に、一瞬言葉を失った。

「昨夜の情報を上官に報告しましたが、『証拠不十分』という理由で正式な調査は許可されませんでした」

レオは悔しそうに続けた。

「しかし、もし煉界教団が本当に七英雄の血脈を狙っているなら...それに神兵とやらを探しているなら...事態は深刻です。王国の安全に関わる問題です」

「だから、個人的に調査なさるのですね」

クラウディアは彼の決意を理解した。レオは王国騎士団の一員として、その使命感から行動していた。

「しかし、わたくしと一緒に行くと、あなたの立場が危うくなりますわよ?」

「それは覚悟の上です」

レオはきっぱりと言った。彼の目に迷いはなかった。

「それに...」彼は少し言葉を選ぶようにして続けた。「昨夜のレイゼルとの遭遇についても聞きました。街の夜警から報告がありました」

「あら、見られていたのですか」

クラウディアは少し驚いた。夜警が彼女とレイゼルのやり取りを目撃していたとは知らなかった。

「彼があなたを狙っているとしたら、一人で行動するのは危険です」

「わたくしが最強ですわ!心配はいりませんの」

クラウディアはいつもの自信たっぷりな口調で返したが、レオは真剣な表情を崩さなかった。

「どんなに強い者でも、背後に仲間がいれば更に強くなる」

彼の言葉は真摯だった。クラウディアはそんな彼をじっと見つめ、そして柔らかく微笑んだ。

「わかりましたわ。同行を許可します」

彼女は大げさに手を振った。

「ただし、わたくしがリーダーですからね?わたくしの指示に従っていただきますわよ」

「もちろんです」レオは軽く頭を下げた。「あなたの経験と力は信頼しています」

「それと、途中で『もう帰りたい』なんて言っても受け付けませんわよ?」

「そのようなことは申しません」

二人の間に、不思議な信頼関係が生まれつつあった。性格も立場も全く異なる二人だが、今は同じ目的に向かって歩き始めようとしていた。

「では、まずは馬を調達しましょう」レオが提案した。「私の知り合いの馬商人なら、良い馬を手配してくれるでしょう」

「素晴らしいですわ!そういえば、わたくしの馬は前回の任務で...ええと...」

クラウディアは言葉を濁した。実は前回借りていた馬は、彼女の派手な戦闘に巻き込まれて逃げ出し、行方不明になっていたのだ。

「...詳細は聞かないでおきましょう」

レオは溜息交じりに言った。彼はすでに彼女の"戦闘スタイル"をよく知っていた。

「では、出発しましょうか」

クラウディアは意気揚々と歩き出した。彼女の赤い髪が朝日に照らされて輝いている。

「東の辺境へ!そして、わたくしの女王への道の第一歩ですわ!」

「女王、ですか...」

レオは小さく溜息をついた。しかし、心のどこかで彼は彼女の野望を応援したいという気持ちも感じていた。

こうして、クラウディア・ヴァル=ザ=イグニスとレオ・グラントの東への旅が始まった。彼らはまだ知らない——この旅が彼らの人生を、そして浮遊大陸アルメイダの運命を大きく変えることになるとは。

クレイドルの東門は、朝の日差しを受けて輝いていた。巨大な石造りの門は、浮遊大陸の端に位置する主要都市の威厳を象徴するかのように堂々としている。門の周囲には、商人たちの馬車や旅人たちの姿が見える。

そして、その中に一際目立つ一団があった。

「この馬、とても良い足取りですわね!」

クラウディアは満足げに声を上げた。彼女が騎乗しているのは、漆黒の毛並みを持つ美しい牝馬だ。レオの知り合いの馬商人から調達したその馬は、気性は荒いが足が速いと評判だった。

「ノワールと名付けますわ!」

彼女は愛馬に名前を付け、その首筋を優しく撫でた。

「良い名前ですね」

彼女の隣で馬を操るレオも、褐色の毛並みを持つ雄馬に乗っていた。彼の馬は力強く、忍耐強い性格のようだ。

「準備は整いましたか?」レオは確認のために尋ねた。

「ええ、ばっちりですわ」

クラウディアは自信たっぷりに答えた。彼女の荷物は最小限だが、必要なものはすべて揃っている。戦闘のための装備はもちろん、軽食や薬、そして彼女が決して手放さない小さな水晶のペンダントまで。

「それでは、出発しましょう」

レオが言うと同時に、二人は馬に鞭を入れ、東門をくぐった。都市の喧騒を背にして、浮遊大陸の東部地域へと進んでいく。

クレイドルを出てすぐの道は整備が行き届いており、両側には色鮮やかな花々が咲き誇る草原が広がっていた。しかし、東に進むにつれて徐々に風景は変わっていく。草原は森へと変わり、道も細くなっていった。

「ラズベリー村までの道のりは、どのようになっていますか?」

レオが地図を確認しながら尋ねた。

「まずは『緑風りょくふうの森』を抜け、次に『霧の谷』を越えますわ。そこから東へ一日ほど行くと、ラズベリー村に到着します」

クラウディアは既に何度も東部を旅したことがあるらしく、道のりを詳しく説明した。

「緑風の森は特に危険はありませんが、霧の谷は要注意ですわ。霧が深く、道に迷いやすい。それに、近年は山賊の出没も報告されていますの」

「了解しました」レオは頷いた。「何か起きても対応できるよう、常に警戒を怠らないようにしましょう」

「あら、心配性ですわね」クラウディアは茶目っ気たっぷりに笑った。「わたくしがいれば、山賊など一瞬で吹き飛ばしますわよ?」

「...あまり派手なことはしないでください」

レオは苦笑いした。彼女の戦闘スタイルが、どれほど周囲に被害をもたらすか、昨日の天穿種退治で十分に理解していた。

「でも、本当に不思議ですわね」

クラウディアは突然、真面目な表情になった。

「何がですか?」

「煉界教団が目指す『神兵アポクリュファ』です。わたくしは古代兵器の類についても詳しいつもりですが、そのような名前は聞いたことがありません」

彼女は思案げに空を見上げた。

「古代戦争で使われた武器の中でも、特別な存在なのかもしれませんわね」

レオも顔を引き締めた。「昨晩、騎士団の古文書を調べてみましたが、『アポクリュファ』の名は見つかりませんでした。しかし...」

「しかし?」

「『神を殺す武器』についての断片的な記述はありました。詳細は記されていませんでしたが、七英雄が最後の戦いで使ったとされる伝説の武器です」

クラウディアは目を見開いた。「神を殺す...武器」

その言葉が彼女の胸に重くのしかかる。もし煉界教団がそのような武器を手に入れようとしているなら、その目的は明らかだ——新たな力の獲得、そして支配。

「いずれにせよ、ラズベリー村で何か手がかりが得られるはずです」

レオは冷静に言った。「まずは事実を確認することが先決です」

「その通りですわ」

クラウディアは頷き、馬の速度を上げた。「さぁ、急ぎましょう!緑風の森に日が暮れる前に着きたいですわ」

二人は馬を駆り、東への道を急いだ。道中、彼らは他の旅人たちとすれ違うこともあったが、多くはクレイドルへと向かう商人たちだった。東部からの旅人は少なく、中には「東部への旅は危険だ」と警告する者もいた。

「東部で何かが起きているのは間違いなさそうですわね」

クラウディアは眉をひそめた。「これだけ人々が警戒しているということは...」

「ええ、噂以上のものがありそうです」

レオも同意した。彼の直感は、職業柄、鋭く磨かれている。

午後になると、遠くに緑風の森の輪郭が見え始めた。深緑の樹々が一面に広がり、風が吹くたびに木々が波のように揺れる光景は、その名の由来を物語っていた。

「緑風の森に着きましたわ」

クラウディアは馬の速度を落とした。「中に入る前に、少し休憩しましょうか?」

「そうですね」

二人は森の入り口近くの小さな清流のほとりで馬を降り、休息を取ることにした。レオは持参した干し肉とパンを取り出し、クラウディアに分け与えた。

「いただきますわ」

クラウディアは感謝の言葉を述べ、食事を口にした。彼女の食べ方は意外にも上品で、育ちの良さが窺える。

「あなたの実家は貴族なのですか?」

レオは何気なく尋ねた。クラウディアの仕草や話し方には、時折、上流階級特有の雰囲気が感じられた。

彼女は一瞬、動きを止めた。

「...ええ、まぁ」

彼女は少し曖昧に答えた。「昔の話ですわ。今は関係ありません」

その表情には、何か言いたくないことがあるような影が見えた。レオはそれ以上詮索しないことにした。誰にでも、話したくない過去はある。

「そういえば」クラウディアは話題を変えた。「レオ殿は何故、騎士になったのですか?」

今度はレオが少し考え込むように黙った。

「それは...正義のためです」

彼はゆっくりと答えた。「弱き者を守り、悪に立ち向かう——それが私の信念です」

「まぁ、なんて素直な答えなのでしょう」

クラウディアは笑ったが、その笑顔には皮肉ではなく、どこか羨ましさのような感情が混じっていた。

「でも、素敵な信念ですわ。わたくしとは大違いですわね」

「クラウディア殿の目標は『女王になること』でしたね」

レオは思い出したように言った。「あなたの言う『女王』とは、具体的にどういうものなのですか?」

「それはね...」

クラウディアは遠くを見るような目をした。

「誰もが自分らしく生きられる世界の象徴ですわ。力ある者が弱き者を支配するのではなく、互いを認め合える世界...わたくしがそれを作り出すのです」

彼女の言葉には、意外な理想主義が込められていた。レオは少し意外に思った。彼女の派手な振る舞いの裏には、こんな思いがあったのか。

「それは騎士としての私の理想とも、さほど変わらないように思えます」

レオは静かに言った。クラウディアはくすっと笑い、立ち上がった。

「さて、休憩はこれくらいにしましょう。森を抜けるのにも時間がかかりますわ」

二人は再び馬に乗り、緑風の森の中へと進んでいった。森の中は木漏れ日が美しく、爽やかな風が頬を撫でる。しかし、その美しさとは裏腹に、レオもクラウディアも警戒を怠らなかった。

なぜなら、彼らは知っていた——この平和な光景の向こうに、どんな危険が潜んでいるかを。

そして彼らの予感は的中する。森の奥深くへと進んだ頃、突然、道を塞ぐように倒れた巨木が現れたのだ。

「これは...自然に倒れたものではありませんわね」

クラウディアは鋭く指摘した。確かに、切断面があまりにも整然としており、自然の風化によるものとは思えない。

二人が警戒を強める中、森の中から声が響いた。

「お金を出せば命は助けてやる」

木々の間から、粗末な武器を持った男たちが現れ始めた。その数、十数名。明らかに計画的な待ち伏せだ。

「山賊ですか...」

レオは静かに剣の柄に手をかけた。

「まぁ、退屈しのぎには丁度いいですわね」

クラウディアは不敵な笑みを浮かべ、馬上から山賊たちを見下ろした。

「わたくしが誰か、ご存知ないようですわね?」

「黙れ!」山賊の一人が叫んだ。「おとなしく金品を出せ!さもないと——」

「『さもないと』?」

クラウディアの口元が吊り上がった。瞬間、彼女の周りに青い魔力が渦を巻き始めた。

「ご忠告しておきますわ。わたくしは『雷鳴の覇姫』クラウディア・ヴァル=ザ=イグニスですの。あなた方が立ち去らないと...どうなるか、想像できますか?」

その名を聞いた途端、山賊たちの顔色が変わった。彼女の名は、この地方でも恐れられていたようだ。

「クラウディア...雷鳴の覇姫だと...!?」

山賊のリーダーらしき男が一歩後ずさった。しかし、すぐに意地を張ったように叫んだ。

「騙されるな!あんな派手な女が、伝説の覇姫のはずがない!」

「あら、わたくしの何が派手だというのかしら?」

クラウディアは冗談めかして言ったが、その目は冷たく光っていた。彼女はゆっくりと剣を抜いた。青い電光が刀身に走る。

「信じないならば、身をもって体験されるといいですわ」

「く、来るぞ!構えろ!」

山賊たちが武器を構える中、クラウディアは馬から軽やかに飛び降り、地面に着地した。彼女の長い赤髪が風に舞う。

「さぁ、わたくしの力、見せてあげますわ!」

クラウディアの剣が空を切った瞬間、森全体に轟音が響き渡った。

「ホーーッホッホッホ!」

彼女の高らかな笑い声が、森の静寂を破った。戦いの火蓋が切られたのだ。



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