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第3話 蒼い砂漠に眠る機械仕掛けの心臓

輝く満月が照らす夜空の下、古びた図書館で一人の青年が古文書に目を通していた。


「へぇ、これはなかなか興味をそそるね」


蓮夜は薄暗いランプの光に照らされたページに指を滑らせた。彼は、まるで宝物を見つけたかのように目を輝かせている。黒髪と黒い瞳の組み合わせは神秘的で、その瞳には好奇心の炎が燃えていた。


「『蒼き砂漠に眠る機械仕掛けの王国』…西暦2135年、サハラ砂漠の最深部で発見された超古代文明の遺跡か」


古文書の日付を確認する。2142年の探検記録だ。西暦2135年に発見された遺跡は、わずか数年で再び砂に埋もれ、その場所を示す地図も失われたと書かれている。


「機械仕掛けの生命体…自律思考システム…千年以上前の技術とは思えないほど先進的…」


僕は思わず息を呑んだ。これは現代の歴史書では触れられていない発見だ。おそらく真実性を疑われ、都市伝説として片付けられたのだろう。でも、もし本当なら?


「よし、確かめてみよう」


蓮夜は立ち上がり、静かに目を閉じる。全身に波打つような感覚が広がり、青白い光が周囲を包み込んでいく。


「目的地、西暦2137年、サハラ砂漠中央部」


光の渦が蓮夜を包み込み、時間と空間を超えた旅が始まった。


――――――――――――――――――――――――


灼熱の風が頬を打つ。目を開けると、果てしなく広がる砂の海が目の前に広がっていた。


「うわっ、暑い…」


蓮夜は慌てて服装を現地向けに調整した。白いリネンのシャツと日除け用のスカーフ、サングラス。身体能力強化用の特殊な腕時計も装着した。


遠くに何かの輪郭が見える。よく目を凝らすと、それは小さなキャンプのようだった。


「おそらくあれが探検隊のキャンプだな」


蓮夜は砂丘を降り、キャンプに向かって歩き始めた。足元の砂は驚くほど青みがかっていて、まるで海の底を歩いているような錯覚を覚える。


近づくにつれ、キャンプの詳細が見えてきた。五つのテントと、中央に据えられた大きな分析装置。十人ほどの人影が忙しなく動き回っている。


「すみません!」


蓮夜は手を振りながら近づいた。すると、一人の女性が作業を止め、蓮夜の方を振り向いた。


「あなたは誰?こんな場所にどうやって?」


彼女は警戒心を露わにしながら問いかけてきた。赤茶色の髪を短くカットし、鋭い緑の瞳が印象的な30代前半の女性だ。


「夕凪蓮夜と申します。考古学に興味があって…この遺跡のことを調べているんです」


蓮夜はできるだけ自然に振る舞おうとした。女性は眉をひそめ、蓮夜を上から下まで観察した。


「興味があるって…ここまでどうやって来たの?最寄りの村からでも200キロはあるのよ」


「あぁ、それが…途中で車が故障してしまって…」


女性は明らかに信じていない様子だったが、ため息をついて言った。


「まあいいわ。私はサラ・コールズ、この探検隊の副隊長よ。とりあえず水でも飲みなさい。そのままじゃ脱水症状を起こすわ」


サラは蓮夜をメインテントへと導いた。テントの中は驚くほど涼しく、最新の冷却装置が稼働していた。中央には大きなテーブルが置かれ、そこには青い砂で埋もれた巨大な遺跡の3Dマップが表示されている。


「おお…」


蓮夜は思わず感嘆の声を上げた。マップは複雑な構造を示していて、まるで機械の設計図のようだった。


「興味深いでしょう?」


新しい声が聞こえ、蓮夜は振り向いた。そこには髭面の男性が立っていた。五十代くらいだろうか、風雨に鍛えられた顔には探検家特有の粗削りな魅力がある。


「アレックス・ハーバート、隊長だ。サラから話は聞いた。君は一体どこから来たんだ?」


「日本から来ました。この遺跡のことを調べていて…」


アレックスは懐疑的な表情を崩さなかったが、水の入ったボトルを蓮夜に差し出した。


「不思議なタイミングだな。ちょうど明日、遺跡の中心部に到達する予定なんだ」


「中心部?」


「ああ。我々が『心臓』と呼んでいる場所だ。3Dマップを見てみろ。この遺跡は人間の身体のように設計されているんだ。そして明日、我々はついにその心臓部に到達する」


アレックスの目は情熱に満ちていた。彼は明らかに何かを期待していた。


「ぜひ同行させてください!」


蓮夜の言葉にアレックスは少し考え込み、サラと視線を交わした後、ゆっくりと頷いた。


「いいだろう。だが危険は承知しておけよ。この遺跡は単なる廃墟ではない。何か…生きているようなものなんだ」


アレックスの言葉に、蓮夜の背筋に電流が走った。


――――――――――――――――――――――――


夜、蓮夜は自分に割り当てられた小さなテントで横になっていた。外からは探検隊のメンバーが談笑する声が聞こえてくる。


突然、テントの入り口が開き、サラが顔を覗かせた。


「起きてる?少し話があるの」


「ええ、どうぞ」


サラはテントに入り、蓮夜の向かいに座った。彼女の表情は真剣だった。


「あなた、本当に考古学者?」


「え?」


「嘘はよくないわ。あなたの持ち物を調べさせてもらったの。普通の考古学者が持っているものじゃないわ」


蓮夜は冷や汗を感じた。考えなければ。


「仕方ない。正直に言おう。僕は…特殊な調査員だ。この遺跡の技術が危険な目的に使われないよう監視する任務がある」


嘘をつくのは好きではないが、時には必要だ。サラは蓮夜の目をじっと見つめた後、ため息をついた。


「そう…実は私も似たような立場なの」


「え?」


「私は国際科学機構の秘密調査員よ。この遺跡から発見される技術は、人類の歴史を書き換えるほどのものかもしれない。悪用されたら…想像もしたくないわ」


蓮夜は驚きを隠せなかった。サラは信頼できるのだろうか?


「明日の探索は危険よ。アレックスが何を見つけたがっているのか、私にもわからない。だから…お願い。何か変だと思ったら、私に教えて」


サラの眼差しには真摯さがあった。蓮夜は静かに頷いた。


「わかった。協力しよう」


彼女は安堵の表情を見せ、テントを出て行った。蓮夜は天井を見つめながら考えた。一体、明日は何が待ち受けているのだろう?


――――――――――――――――――――――――


翌朝、太陽がまだ低い時間帯に探検隊は出発した。アレックスを先頭に、蓮夜とサラを含む五人が遺跡の入り口へと向かった。


「すごい…」


入り口は巨大な歯車のような形をしていて、青い砂に半分埋もれていた。歯車の中央には、まるで瞳のような円形の開口部がある。


「これが三年前に発見された入り口だ。以前は完全に砂に埋もれていたが、2135年の大嵐で一部が露出した」


アレックスが説明しながら、入り口近くの装置を操作した。歯車がゆっくりと回転し始め、開口部が広がっていく。


「この遺跡の驚くべき点は、千年以上経っているにも関わらず、機械の一部がまだ機能していることだ」


蓮夜たちは開口部に足を踏み入れた。内部は予想外に明るく、壁に埋め込まれた謎の発光体が青白い光を放っていた。


「これらの発光体は我々の接近に反応して光る。まるで…生きているかのようにね」


アレックスの言葉に、サラは不安そうな表情を浮かべた。


蓮夜たちは狭い通路を進んでいった。壁には奇妙な文字や図形が刻まれていて、どれも機械的な精密さで描かれている。


「これらの文字、どの古代文明のものとも一致しないんです」


若い男性研究員が説明した。彼はマイクとカメラを手に、壁の模様を記録していた。


「私の理論では、これは地球外知性体が残した痕跡かもしれない」


アレックスが熱っぽく語った。


「地球外?エイリアンってことですか?」


蓮夜は驚いて聞き返した。


「そう考えるのが最も論理的だ。この技術は当時の人類のものではありえない。でも、今日で全てがはっきりする」


アレックスの目は異様な輝きを放っていた。サラは蓮夜に警戒するような目配せをした。


通路はだんだん広くなり、ついに蓮夜たちは巨大な円形の部屋に到達した。部屋の中央には、巨大な球体が浮いていた。


「『心臓』だ…」


アレックスはつぶやいた。球体は脈打つように青い光を放ち、まるで本物の心臓のように鼓動しているように見えた。


「驚くべき…」


サラは声をひそめた。球体の周りには複雑な機械装置が配置されていて、それらも微かに動いていた。


「これが私の求めていたものだ」


アレックスは球体に近づいていった。彼の表情には、尋常ではない興奮が浮かんでいた。


「アレックス、近づきすぎないほうがいいわ。安全性が確認できるまで…」


サラの忠告も空しく、アレックスは球体に手を伸ばした。


瞬間、部屋中に青い光が広がり、耳障りな機械音が響いた。


「やった!反応している!」


アレックスの歓声とともに、球体から細い光線が彼の額に伸びた。彼は硬直し、目を見開いたまま動かなくなった。


「アレックス!」


サラが駆け寄ろうとしたが、床から突如として機械的な腕が現れ、彼女を阻んだ。


「何が起きているの?」


蓮夜は慌てて周囲を見回した。部屋中の機械が活性化し、壁の発光体が激しく明滅している。


「遺跡が…目覚めた」


マイクが恐怖に震える声で言った。


アレックスの体が宙に浮き始めた。彼の目からは青い光が漏れ、声のトーンが変わり始めた。


「遂に…相応しき者が来たれり」


それはアレックスの声ではなかった。メカニカルで無機質な、何かが彼を通して話しているようだった。


「我は創造者。この惑星に機械文明の種を植えんとした者なり」


蓮夜たちは恐怖と困惑で言葉を失った。


「しかし時期尚早なりき。人類はまだ準備できておらず…我らは眠りにつきたり」


アレックスの体を通して話す存在は、まるで古い言葉で話しているようだった。


「今、目覚めの時。汝の身体は我が意識の器となるべし」


サラが叫んだ。


「やめて!彼を解放して!」


しかし、青い光はさらに強まり、アレックスの体は震え始めた。


「これは危険だ。あの球体が全ての中心だ。あれを止めなければ」


「でも、どうやって?」


蓮夜は自分の腕時計を見た。これは単なる腕時計ではなく、様々な機能を持つ特殊装置だ。


「この装置で電磁パルスを発生させられる。それであの球体の機能を一時的に停止させるんだ」


サラは驚いた顔で蓮夜を見た。


「あなた、本当に何者なの?」


「説明している時間はない。僕を信じてくれ」


サラは迷った後、頷いた。


「わかったわ。でも、それでアレックスを救えるの?」


「やってみる」


蓮夜は腕時計を操作し、パルスの準備を始めた。その間、アレックスの体を乗っ取った存在は続けていた。


「我らの技術を汝に与えん。汝らの文明は進化せん。だが、代償として我が意識に仕えるべし」


「それは断る!」


蓮夜は叫び、電磁パルスを解放した。青白い光の波が部屋中に広がり、球体と全ての機械が一瞬停止した。


アレックスの体が床に崩れ落ちる。球体からの光線が消え、部屋は一時的に暗くなった。


「アレックス!」


サラが彼に駆け寄った。彼は意識を失っていたが、呼吸はしていた。


「助かったわ…」


彼女の安堵もつかの間、再び機械の唸り声が聞こえ始めた。球体が再び光りだしたのだ。


「パルスの効果は一時的だ。ここから脱出しないと!」


蓮夜たちはアレックスを抱えて出口へと走り始めた。通路では壁の発光体が赤く変わり、警報のような音が鳴り響いていた。


「遺跡全体が自己防衛システムを起動させているわ!」


サラが叫んだ。その通り、通路の一部が閉鎖され始め、蓮夜たちの脱出経路は狭まっていった。


「急いで!」


最後の歯車状の出口が閉まりかけている。蓮夜たちは最後の力を振り絞って走った。


「間に合わない!」


マイクが絶望的な声で叫んだ。


その時、蓮夜は決断した。


「皆さん、先に!」


蓮夜は腕時計を最大出力に設定し、床に置いた。


「これが爆発すれば、閉鎖機構が一時的に停止するはず。急いで!」


サラは驚いた顔で蓮夜を見たが、他のメンバーと共にアレックスを担いで先に進んだ。


「蓮夜さん、あなたは?」


「心配するな。別の方法で脱出するから」


サラはためらいつつも頷き、最後の出口をくぐり抜けた。蓮夜の腕時計が爆発し、出口の閉鎖機構が停止した。


蓮夜は安堵のため息をついた。これで皆は、無事に脱出できただろう。


「さて…」


蓮夜は部屋の中央へと戻った。球体は再び活発に脈動していた。


「あなたは何を望んでいるんだ?」


蓮夜は球体に問いかけた。すると、球体から再び光線が伸び、今度は蓮夜の前に人型の光の姿が形成された。


「我は創造者。汝らを次なる段階へと導かんとするもの」


「強制的に?人の意思を奪ってまで?」


光の人型は静止した。


「我らの意図は善なり。しかし、汝らはまだ理解せず」


「それは違う。強制的な進化に価値はない。我々は自分たちの道を自分たちで選びたい」


「興味深き考え…」


光の人型はゆっくりと蓮夜の周りを回った。


「汝は異なる。時間の波を超えし者…」


人型の言葉に蓮夜は驚いた。この存在は僕の本質を見抜いているのか?


「我らの意図を理解せよ。我らは滅びゆく文明より来たれり。我らの知識を継承せんがために、この装置を残したり」


「でも、それは人々の意思を尊重する形であるべきだ」


光の人型は沈黙した後、ゆっくりと頷いた。


「理解せり。我らの接近法に誤りありき。汝の言葉に真理あり」


突然、球体の脈動が緩やかになり、光の人型が薄れ始めた。


「我ら、再び眠りにつく。次なる覚醒の時まで…適切なる時が来たらば」


光の人型は完全に消え、球体の輝きも落ち着いた。遺跡内の機械音も静かになり、壁の発光体も元の青白い色に戻った。


蓮夜は安堵のため息をついた。危機は去ったようだ。


部屋を後にする前に、蓮夜は球体をもう一度見つめた。そこには古代の智慧が眠っている。人類が本当に理解できる日が来るのだろうか?


蓮夜は自分の能力を使い、青白い光に包まれながら、この時間と場所から離れていった。


――――――――――――――――――――――――


現代の図書館に戻った蓮夜は、専用のノートを開き、今回の探検の記録を綴り始めた。


「西暦2137年のサハラ砂漠で、機械仕掛けの古代文明の遺跡を訪れた。その文明は人類よりも遥かに進んでいたが、人類が理解できるようになるまで待つことを選んだようだ。」


蓮夜はペンを置き、窓の外の月を見つめた。


「いつか人類が理解できる日は来るのだろうか…」


月明かりが蓮夜の顔を照らす中、次なる冒険への思いが胸の中で膨らんでいった。

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