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第六話:「月光の下の初恋 ―― 無垢なる魔女と少年の心の交響曲」

 朝靄が山々を包み込む中、エリザ・ヴァルディエールは目を覚ました。彼女の緑の瞳が、隣で眠るルーク・アーディンの姿を捉える。エリザの胸に、これまで感じたことのない温かな感情が広がった。


「ルーク、起きろ。朝だ」


 エリザの凛とした低い声に、ルークはゆっくりと目を開けた。


「おはよう、エリザ」


 ルークの青い瞳に、柔らかな笑みが浮かぶ。その表情に、エリザは一瞬戸惑いを覚えた。


 二人は朝食の準備に取り掛かった。ルークは母から教わった料理の腕を振るい、エリザは狩りで得た獲物を調理する。その息の合った動きは、まるで長年連れ添った夫婦のようだった。


 朝食を終えると、エリザは狩りの準備を始めた。


「ルーク、今日は俺と一緒に狩りに行くぞ」


「えっ、僕も? でも、僕は狩りなんてこのまえエリザと何回か行っただけでとても……」


「心配するな。俺が教えてやる」


 エリザの言葉に、ルークは不安と期待が入り混じった表情を浮かべた。


 深い森の中、エリザは獲物の痕跡を探しながら、ルークに狩りの基本を教えていく。その姿は、まるで自然の一部のようだった。ルークは、エリザの動きに魅了されながら、必死に学ぼうとしていた。


「ルーク、ここを見ろ。鹿の足跡だ」


 エリザの指さす先に、かすかな足跡が残されていた。ルークは驚きの表情を浮かべる。


「すごい! エリザはどうやってこんな微かな痕跡を見つけられるんだ?」


「長年の経験だ。お前もいずれはできるようになる」


 エリザの言葉に、ルークは喜びと決意の表情を浮かべた。


 昼過ぎ、二人は小川のほとりで休憩することにした。エリザは、何の躊躇いもなく上着を脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと待って、エリザ!」


 ルークは慌てて叫んだ。顔を真っ赤に染めながら、エリザの手を掴む。


「どうした、ルーク? 俺は水浴びをしたいだけなんだが」


「そ、それは……」


 ルークは言葉に詰まった。エリザの無邪気さと、社会の常識との狭間で葛藤する。


「人前で服を脱ぐのは……あまり良くないんだ」


「なぜだ?」


 立派な両の乳房をあらわにして仁王立ちするエリザ。

 その素朴な疑問に、ルークは必死に説明の言葉を探す。


「それは……その……男女の違いとか、プライバシーとか……」


 ルークの言葉に、エリザはますます困惑の表情を浮かべた。


「男女の違い? ぷらいばしー? 俺にはよくわからないな」


 そう言ってエリザはさっさと全裸になると、気持ちよさそうに水浴びを始めた。ルークはただ岩陰に隠れて彼女の水浴びが終わるのをじっと待つしかなかった。


 夕暮れ時、二人は狩りの成果を持って隠れ家に戻った。エリザは獲物の解体を始め、ルークは野菜の下ごしらえを担当する。その作業の中で、二人の間に自然な会話が生まれていく。


「エリザ、君はずっとここで一人で暮らしてきたの?」


「ああ。祖父が亡くなってからな」


「寂しくなかった?」


 エリザは一瞬動きを止め、考え込んだ。


「寂しさ? そんなものは感じたことがなかったな。だが、お前が来てからは……何かが変わった気がする」


 その言葉に、ルークの胸が高鳴る。


 夜が更けていく。満月の光が、森全体を銀色に染め上げていた。エリザとルークは、隠れ家の屋根に腰を下ろし、星空を眺めていた。


「なあ、ルーク」


 エリザは突然、ルークの両頬を優しく手で包んだ。


「エリザ?」


 当惑するルークをよそに、エリザは目を閉じ、そのまま優しく唇を重ねた。


「!?」


 突然のキスに、ルークの感情は爆発し、同時にフリーズした。永遠とも思える時間が過ぎた後、エリザはゆっくりと唇を離した。


「エ、エリザ……!?」


「どうした、ルーク、顔が真っ赤だぞ?」


「だ、だっていきなりキスされたら、それは誰だって……」


「キス? これはキスというものなのか?」


 エリザはきょとんとした顔で言った。

 エリザがキスも知らないことに、ルークは今さらながら驚愕した。


「でも、なんで急に、エリザ……」


「わからない。ただルークの顔を見ていたら自然にそうしたくなった。ルークは『キス』は嫌いなのか?」


「いいや、そんなことはないけど……むしろなんていうか……どっちかっていうと好きっていうか……うむっ!?」


 ルークの言葉が終わらないうちに、またエリザの唇がルークの言葉を遮った。


「俺もキスは好きだ。お互い好きならいっぱいしても問題ないよな?」


「……そうだね……」


 顔を真っ赤に上気させたルークは、頭がくらくらして、もはや自分が何を言っているのかもわからなくなっていた。


「キスは……いいな」


 一方、エリザは満足そうにそう呟いた。


 月光の下、二人の姿が一つの影となって揺れていた。エリザの心には、これまで経験したことのない感情が芽生え始めていた。それは、彼女が守るべき「何か」と同じくらい大切なものになりつつあった。


 星々が、二人の新たな物語の始まりを見守るように、静かに瞬いていた。



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