第15部
僕はキャバクラにハマった。何故?
彼女がいたからだ。彼女は化粧を薄くし「私の事ブサイクだと思ってるでしょ。」と言った。
そんな事無かった。綺麗だった。整形する前の僕に少し似ているような気がした。三回ボーイッシュに行った後メールで彼女をデートに誘ってみた。
「ごめんなさい。忙しいの。」という返事だった。流石にキャバ嬢はガードが固いななんてホスト気取りで調子にノッテいた。
実は車で行って深夜二時頃店が終わるので車で家に帰っていた。要するに飲酒運転だ。キープした焼酎を半分くらい飲んでいたから警察に見つかれば即アウト。ただ僕はまた意味が分からないだろうが、とにかくA型の人間に勝ちたかった。優れていると思っていた。ライバル視していた。B'zの稲葉浩志をA型だと思っていた。これは最強の敵だ、何としても倒さねばならぬと思っていた。中学の二年生からB'zを聴いていた。大好きだった。だから嫌だった。僕は悪に染まる事で彼を打ち倒したかった。暴力団に入ってもイイとさえ思っていたほどなのだ。
ある日ボーイッシュで飲んで外でゲロを吐き立小便してから車に乗った。家に帰りたくなかったのでパチンコ屋の駐車場に車を止めて仮眠した。起きると左腕が痺れて動かない。右手だけで運転して家に帰った。まるで動かなかった。まさか脳卒中ではないだろうが、その日専門学校を初めて休み、昼過ぎ起きた父に現状を話すと慌てふためいて近所の自転車屋さんで自転車を買ってきた。心配してるのかしてないのか・・・。僕は父の考えてる事も姉が考えてる事も他人が考えてる事もまるで分からない、今思えばそういう人間だったかもしれない。その時は。
その頃だいぶお金を使ってしまったので実習で遠出することも無かったのでアルバイトを始める事にした。ピザの配達と運送関連の仕事を掛け持ちした。午後五時からピザ屋 午後八時から運送会社 全然暇が無かった。
キャバクラ遊びはとどまる事無くデートを断られた彼女は諦めて真奈美という少し背の低い童顔の女の子を指名するようになった。色々話してくれた事を覚えている。クリスマスイブが誕生日だというのが聖女のようでお気に入りだった。暑い夏彼女と映画を観に行くことに成功した。バトルロワイヤルを観たいという彼女のリクエストだったのだが、僕が時間を間違えてしまったようだった。
彼女の私服には驚きを隠せなかった。こんなカワイイ子今まで一度も見た事が無かった。僕はTシャツにジーンズと一般的な服装を選択した。あまり背伸びしたくなかった。それでターミネーター4を急遽見る事にした。彼女は退屈そうだった。映画を観終わった後「夜になるから帰るね」と彼女は言った。
僕は自分の下心を恥ずかしく思った。
真奈美はホントに人気があった。男からも女からも。キャバクラのママが見せてくれた昔の真奈美の写真はショートカットで少年みたいだった。
完璧にハマっていたある冬いつものようにボーイッシュに行きその日は焼酎の水割りを飲んだ。そして車に乗り込みエンジンをかけ駐車場から出て・・・記憶ははっきりしている。何時の飲酒運転でも記憶を無くして事故を起こす事等絶対ないのだと思っていた。市街地で信号待ちをしている時だった。男が走りながら助手席のドアをドンドンドンと叩いた。「何だ~?」僕は近くに来た男を見て驚愕した。警官だった。「開けてもらえるかい?」デカい声で言う警官。逃げる訳にもいかなかった。僕は助手席のドアを開けた。