第14部
悪魔が囁く。それは誰にでもよくある事で別に珍しくは無い。ボクはファイティングポーズを崩さずガードを固めていたので現役で入学してきた子達とは全く話が合わず孤立していた。入学最初の模試で8割の得点を叩き出し調子に乗っていた部分もある。ただそれは僕が入学する前から介護の仕事をするならとケアマネージャー用の分厚い書籍を読み込んでいたからで嫌われる筋合いはないのだが。友達は同じく社会人から介護を目指すちょっと変わっているパチプロもどきの青年だけだった。彼は毎月50万稼ぐらしいがボクと一緒に打ちに行く時はいつも負けていた。
時折実習が入るためアルバイトは1年目は出来なかったのでロクに遊ぶ金も無く厳しい介護の現場を見るにつけ恐怖?人間不信?いやどの言葉も当時の僕の心理状態を分析出来ないだろう。自分自身でも自分が何をしているのかよく分からなかったのだから。
昼ご飯は話し相手がいないので寂しくて車の中で食べていた。ある日「車に籠ってるんじゃないわよ!」という声が聞こえた。ああ、ボクの事観察、追跡している人間がいるのだな、そう思っていた。僕は有名だった……と思う。リーダー的な存在だった……と思う。当時血液型占いに凝っていてそのクラスで最年長のオッサン(と言っても31だが)がA型で意地でも負けられないと思っていた。意味が分からないだろうが、その月50万稼ぐスロプロとマージャンしている時「文科さん強いですね。あの人とどっち強いだろう?」と幻聴では無く言葉で言った。彼が実習で介助中お年寄りを転ばせて骨折させたと聞いた時は内心狂喜乱舞していた。それでも彼の元に集まるものが多く僕もそのカリスマ性には惹かれていたのだ。
2年生になった。アルバイトも出来るようになった。父は中々仕事が見つからず家の家計は火の車だった。父はAB型で常に物事を深く考える性質で血液型どうこうでは無いが、二重人格的な所はあった。そんな時中学の友達から電話が来て吞みに出かけないか?と誘いを受けた。本当に久しぶりだったので嬉しくてOKした。居酒屋みたいな所で美味い物でも食ってリフレッシュするのだろうと思っていた。キープドライバーの友達は昭和64大型パーキングという所に駐車し3分程歩きビルの4階に行った。
そこはキャバクラのようだった。恥ずかしながら僕はそれまでキャバクラという言葉を聞いた事が無かったのだが。店で団体席に座り何か悪い事をしているような気持ちでそわそわしてると女の子が二人ついた。一人は宇多田ヒカルにとてもよく似ていたが、どこか胡散臭い感じがした。もう一人の子は童顔過ぎて思わず吹き出しそうになる娘だった。ボクは少し緊張して焼酎の水割りをガブガブ飲んでいたが、宇多田ヒカル似の女の子が「ねぇ食べ物で何が好きですかー?」と聞いてきた。僕は咄嗟に「イモだね。」と彼女に向かって投げつけた。一瞬静寂が走る。ボクは厚化粧の女は嫌いだし美人過ぎる女も嫌い。キャバクラ勤めの女なんてと思っていた。
しかし彼女はしきりにボクを構いたがる。少し楽しくなってきたが丁度二時間経ったので帰る事にした。帰りの車の中で「文科・・・あの一言は無いぞ。KY。」と言われた。しょうがないじゃん!と思ったけどボクは何だかその宇多田似の女の子の顔が頭に浮かんできてブンブンブンブン首を振っていた。そしてまたそのボーイッシュという店に一人で行くようになる。