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6話

予約投稿の日付間違えてました。やらかしましたすみません……。

「どういうことですか」


 着任の儀を終え、騎士団詰所の副団長室にてアインから配属先を言い渡されたオスカーは、怒りの形相で父を問い詰めた。


「騎士たる者が上官に同じ説明をさせるな。着任直後ということで一度は見逃す。二度目はないぞ」


 アインは冷静に、息子の顔を真っ直ぐに見据えて言い放った。


「オスカー・フランク・ジェラード、本日よりブルーズ州軍テルフィア騎士団第3師団への配属を命ずる」


 オスカーの配属先は城詰めではなかった。

 ブルーズ州軍テルフィア騎士団は、その名の通りブルーズ州都テルフィアの常駐軍であり、1から15までの師団で構成されている。城詰めなど重要な任務を任されるのは第1師団であり、オスカー自身も他の兵達も、誰もが彼の第1師団への配属を疑わなかった。

 

「理由をお聞かせください……父上」

「弁えろオスカー。そしてここでは副団長と呼べ」


 アインが部屋の空気を緊張させる低い声で息子を諌めたが、オスカーはたじろぎもせず、近づいて手を机に叩きつけて睨み返した。

 アインは目を閉じて深く息を吐く。


「理由など一つだけだ。ただ、お前が第1師団に配属させるには未熟なだけよ」


 その言葉に、オスカーの顔がみるみる赤くなっていく。屈辱と怒りで今にもその赤い髪が燃え上がりそうなほどだ。


「お言葉ですが、第1師団の中で私に勝てる剣士が一体何人いるでしょうか」


 弱冠十六歳ながら天賦の才を持つオスカーの剣の腕は、騎士団の中でも有数だ。その点だけで見れば間違いなく彼は第1師団に相応しいと言える。しかし——。


「未熟なのは、剣の腕だけの話ではない」


 オスカーは天才肌にありがちな精神面での幼さを抱えていた。過剰な自信から来る油断や、挑発への耐性の低さ。その未熟さを、父であるアインは誰よりも熟知していた。


「お前にはまだ城詰めを任せるわけにいかん。そもそも、じきにアイエスお嬢様の誕生祝賀会がある。慣れぬ者を今から城詰めに迎えている時間も——」

「……あのような!」


 アインの言葉を遮るように、オスカーは腹の底から声を張り上げて感情を爆発させた。


「あのような無作法者がアイエス——様のお側についているのは認められて、私が城詰めに相応しくないというのは納得がいきません」


 アイエスのお目付役にして護衛を勤めるヒラリーは、使用人達からの評判も悪く、お目付役としての役務もほぼ放棄して、アイエスは毎日好き放題している。あの男が三年もアイエスの側でエリシア城に勤めているというのに、自分が未熟を理由に城詰めを任せられないというのはどう考えても理屈が合わない。


「……甚だ腹立たしい事だが、あの男はああ見えて立ち回りが上手く、それなりに腕も立つ。他ならぬ(クレア)様やアイエスお嬢様。執事長のエニラ殿が奴を信頼して務めを任せているのだ。あちらの人事については我々が口を挟むことではない」


 そう言ってアインは席を立ち、オスカーの隣を横切って副団長室を後にしようとする。扉を開ける直前、振り返らずに声をかけた。


「悔しければ、まずは与えられた任務をこなして信用を積み重ねる事だ」

 

 それは上官としてではなく父としての言葉であったが、オスカーの耳には別の意味に伝わってしまった。


——俺が、あんな男よりも信用できないってのか。


 アインが退出し、部屋はしんと静まり返る。オスカーは何度も何度も机に拳を叩きつけた。その手には血が滲んでいた。



「えー、オスカー城詰めじゃないの?」


 ヒラリーから騎士団の人事について報告を受けたアイエスはがっくりと肩を落とした。


「せっかく今日からイジり——優しく出迎えてあげようと思ってたのに」

「……結果的によかったかもな毎日オモチャにされずにすんで」


 うっかり本音を言いかけて方向修正したアイエスだったがヒラリーは聞き逃していなかった。

 

「ま、そりゃそうだろうよ。お嬢の誕生パーティーの後ならともかく、今から城詰め一人増やすなんざ余計な仕事増やすだけだ」

「むー、それもそっか」


 昨日あれほど楽しみにしていたのが嘘のようにあっさりと現実を受け入れたアイエスを見て、「ああ、本当にからかいがいのある相手(オモチャ)が欲しかっただけなんだな」とヒラリーは苦笑した。そして改めて心の中でオスカーに同情してやった。


「あと、お嬢。そろそろダンスのレッスンだろ。遅刻するぜ」

「あらもうそんな時間?」


 時計を見ると午前9時を回るところであった。体を動かすのが好きなアイエスは、ダンスのレッスンだけは毎回真面目に受けることにしている。


「いつもどおり、終わるまでは適当に時間潰してていいわよ」

「言われなくてもそうするさ」


 アイエスがレッスンルームに向かったのを見届けて、ヒラリーは自室へと向かう。厳重な警備を毎回どうやって潜り抜けているのか、そこにはKと呼ばれるヒラリー御用達の情報屋が壁に寄りかかって待っていた。相変わらず黒いロングコートにフードを被っており、素顔がはっきりと見えない。


「やーやーヒラリーさん」

「進捗は?」


 挨拶も飛ばしてヒラリーがソファに腰掛けながら問いかける。


「まずペーターくんね。すぐに連絡着いたよ。一週間くらいで来るってさ」

「一週間か。ギリギリ間に合うな」

「あとバートンさんにも伝えたよ。目に見えてウキウキしてたね。あんな性格だと人生楽しいだろうねえ」


 そう言ってKは肩をすくめる。


「あ、バートンさんがね。成功した場合のヒラリーさんの処遇について正式に決めたって言ってたよ」

「ほう? なんだって?」


 Kは何も言わずにコートの袖からにゅっと書状を取り出してヒラリーに渡した。

 それはイグレシアス・G・バートン卿による正式な書状で、身元を保証する封蝋が押されていた。中身を確認するとヒラリーは思わず笑ってしまった。「読むか?」とKに書状を返し、彼も中身を確認する。内容は、バートン家によるオルブライトン家へのクーデター計画の詳細と、協力者であるヒラリーへの高待遇の約束であった——。

 

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