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12話

仕事の山場を一つ越え、一ヵ月ぶりの更新でございます。

「あのなぁ、マジで勘弁してくれよ何考えてんだアンタら」


 エニラに命じられてイグレシアスとジョーイを庭園まで連れてきたヒラリーは、周りに人がいないことを確認してから開口一番文句を言った。


「貴様イグレシアス様へなんという──」

「うるせえなこっちは長年の苦労がパァになりかけたんだぞ。てめぇ脳味噌入ってんのか?」

「貴様──っ」

「ああ、よいよい」


 怒り狂うジョーイをイグレシアスが制した。随分と上機嫌な様子で庭園を眺めている。


「しかしイグレシアス様……」

「構わん。確かに儂も少しはしゃぎ過ぎた。悪いことをしたなヒラリーよ」


 傍若無人を絵に描いたようなイグレシアスが素直に謝ったことにヒラリーはおろかジョーイすら驚きを隠さなかった。


「しかしはしゃぎたくもなる。この城も、テルフィアも、ブルーズ州も、じきに儂のものになるのだからな」


 芝居掛かった大袈裟な動きでイグレシアスが両手を広げる。随分な浮かれようだ。近い未来、自分がこの名城エリシア城の主になると微塵も疑っていないのだろう。

 このクーデターを起こすのに長い年月をかけて入念な準備を重ねてきたのは、ヒラリーだけではない。イグレシアスもまた、商人時代に築き上げた人脈を使ってしっかりと根回しをしていた。

 本来ならば州総督への反乱、ましてやそれがオルブライトン家ともあれば成功するはずがない。よしんば成功したとしても、民からの反発は必死だ。イグレシアスは反オルブライトン派の小貴族や商人仲間を取り込み、クーデター後の正当性を主張しようとしていた。


「しかも、ついにあの”ジェーン・ドゥ”を口説き落とすことができた! 法外な金を払ったが、これで成功は確約されたも同然だ!」

「……は?」


 ジェーン・ドゥ。フレアランド帝国を含んだ七つの国を有するミドガルド大陸で、もっとも有名なギルドの一つだ。暗殺と武器密売を生業としている闇ギルドで、冒険者連合組合からも問題視されている。十年前の隣国ドルトブルク王国との戦ではドルトブルク側に雇われ、フレアランド陣営は大きな被害を受けた。"救国の英雄”アレックス・R・オルブライトンの奇跡的な快進撃がなければ、この国はドルトブルクの領土となっていた。


「……あんたにジェーン・ドゥとのパイプがあるとは思わなかったぜ」

「儂の人脈を持ってすれば依頼自体は難しいことではない。ずいぶんとふっかけられてな。屋敷が一つ建つ額を請求されたわい」


 上機嫌だったイグレシアスが今日初めて不愉快そうに顔を歪め、チッと舌を打つ。


「足元を見おって……だが奴らの腕は確かだ。痛い出費だが、儂が州総督となればすぐに取り戻せる。先行投資よ。勝負時を見極め、そして勝ち続けたからこそ儂はここまで上り詰めたのだ」


 ──自前の兵団に加え、ヒラリーのもたらした内部情報。貴族や商人たちの協力。そしてジェーン・ドゥ。時は満ちた。機は熟した。このイグレシアス・バートンが、フレアランド帝国最大の州、ブルーズの頂点に立つ。それは実質この国の頂点に立つに等しい。


「当日は隠し通路より城に侵入後、部隊を三つに分けて動く。闇夜に紛れて城の兵達を静かに仕留める。そしてクレアとアイエスを儂らの元へ連れてくるのだ」

「はいはいわかってますよ。……急に暗殺ギルドを雇ったりするから、てっきり殺しに方針転換したのかと思ったぜ」

「馬鹿を言え。オルブライトン家の者は生かしておかねばならん。娘の方は特にな」


 クーデターを成功させた後、イグレシアスが新たな領主となることを対外的にも認めさせる一番手っ取り早い方法は、オルブライトン家一人娘のアイエスと婚姻を結ぶことだ。ストーリーはいくらでもでっち上げられる。無理やりにでも婚姻関係を結んでしまえばこちらのものだ。


「当主不在とはいえ、あの帝国最強と言われるオルブライトン騎士団と戦うことになるのだ。優秀な手駒はいくらあっても良い」

「なるほどね。何人雇ったんだ?」

「ジェーン・ドゥの幹部を二人と、その他に三十人ほどが来る手はずになっている」

「ほう」


 エリシア城には常勤の城詰めの騎士が百名弱。城壁外の騎士や兵士を集めれば一万を超える兵を有するが、無論そのすべてが即座に城に集結できるわけではない。ましてや決行日はアイエスの誕生祝賀会で国中のVIPが集まる日。テルフィア中の騎士団が慌ただしく動き回らねばならず、どうしても集結するのに時間がかかる。迅速にアイエスとクレアを手中に収めれば、イグレシアスの自前の兵団二百名とジェーン・ドゥ、そしてヒラリーらで制圧は可能だ。


「決行は祝賀会の終わった後の深夜一時だ。お前の合図で一斉に攻め込む。遅れるなよヒラリー」

「はいはい」


 しくじるわけにはいかない。長い時間をかけて準備してきた。軽口を叩いてはいるが内心ヒラリーも少しばかり緊張している。ついボソリと本音が漏れた。


──あんたが、ドーサンじゃなくて本当によかったよ。


 その言葉はイグレシアスとジョーイの耳に届くことなく消えていった。

一応補足で。

オルブライトン騎士団は下記のような編成になっています。


第1~15までの師団で構成されている。

一師団三千人~六千人前後。第1~第3師団は基本的にテルフィアに常駐。それ以外はブルーズ州の各地に常駐。

騎士団のうち『騎士』身分は一師団につき百~二百人程度。主に貴族。見習いは兵士と同様に街のパトロールや門番なども行う。

それ以外は『兵士』であり、一般兵扱い。身分を問わず試験に合格すれば入隊可能で、優秀な兵士は『騎士』に昇進することもある。

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