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プロローグ
フレアランド帝国ブルーズ州の北東沿岸部に位置する州都テルフィアは、アルタ海に面し、古くから貿易で栄えた港町だ。
十余年前に遷都されるまでは帝都だったこともあり、国内最大の人口を誇り、領主オルブライトン家の居城であるエリシア城やエスス教の総本山であるルカ・ロブレント大聖堂などの歴史的建造物も多い美しい街である。
隣国であるドルトブルク皇国との戦が終わり、十年の時が経った今、テルフィアには賑やかしくも穏やかな日々が訪れていた。
街中が人々で溢れかえっているのも、学校から子供たちの笑い声が聞こえてくるのも、港に近い酒場で酔っ払った船乗りたちが諍いを起こすのも、いつものことだ。
そして——
「はあっ……はあっ……!」
モーニングを来た黒髪短髪の男が、エリシア城の敷地内を走り回っているのも、
「どこですかお嬢様ーーーーーーーーーーーーっ!!」
オルブライトン家令嬢、アイエス・エリーゼ・オルブライトンが習い事をサボり、行方をくらますのも、いつも通りの風景だ。